キラキラとその目は輝いて

2121

尊い……!きゃわわ

「今日はこれからライブなんだよねー!」

 大学の授業終わり、友達の美住が楽しそうに言った。人が多くてコインロッカーが使えないだろうからと財布が入るカバンを持っている。授業のプリントは四つ折り、教科書は私に借りるという本気の軽装仕様だ。

「アイドルのライブだっけ?」

「そう! 顔がよくて整っててあれは神が与えた素晴らしき造形だよ。それに歌が上手くて聞いてるだけで耳が溶けそう。照明の演出も凝ってて、ダンスも見応えがある。あれはCD音源やDVDだけでは物足りない。やっぱり現地に行かなきゃ味わえないよ。そして顔がいい」

「とても顔がいいわけだな」

「尊い……」

 美住がデビュー前から追っているアイドルなのだという。確かに格好良くて綺麗なお顔をしている。彫刻にしても良さそうなくらいに整っている。それでいて話すと人懐っこいし子犬のようなキャラなのがギャップがあり、それも愛されている理由だと思う。

私もテレビで見かけたときは、ついチャンネルを変えずに見てしまう。

「再来月には新曲も出るらしくて! これで再来月までは絶対に生きなければなるまい」

「寿命が伸びて良かったよ」

 そうして今日の授業はこれで終わりなので、帰路へと着く。美住にとっては、ライブ会場へと向かう行路かもしれない。

 駅前まで着くと、併設されている花屋さんで美住は足を止めた。何を見ているのかと目線の先を追うと、そこには小さな鉢植えの植物があった。

「多肉植物……! 見てみて、里玖。ぷにぷにしてそうで可愛いねぇ。半分が透明で光に透かすと窓みたいになるんだって。綺麗だ」

「ほんとだ。確かに綺麗」

 札を見るとハオルチア、という多肉植物らしい。

「欲しいの?」

「今日は買えないから、また今度買おうかな。またね、ハルオチア」

 美住は綺麗なもの、可愛いものに目がない。何かを見付けると立ち止まり、「ねぇ見て?」と言いながら愛でている。

 改札を入り、階段を降りて駅のホームへ。電車を待っていると、美住は柱を指差した。

「あっ、こんなところに」

 そこには、小さい黒い何かがいる。私は半歩後ずさりをした。

「素敵なおみ足、細かい産毛、動き続ける口。そして獲物を狙う素早い動き!」

 はあ、と熱いため息を吐いて美住は続ける。

「蜘蛛ちゃんかわいいねぇ! 尊い……!」

 確かに言っていることは決して間違いでは無いのだけれど、これにはさすがにどういしかねる。

「アダンソンのオスだな。白いラインが入っているところも超絶きゃわわ」

「なんでも尊いな」

 正直、蜘蛛は怖いし苦手だった。足が多くて、バラバラに動かしながら動く姿がぞわぞわとして背筋を冷やす。

 けれど、なんでも尊いと言う友達は、毎日が楽しそうで羨ましい。見るもの全てがキラキラと輝いているようで、一度でいいからその目を借りて私も世界を見てみたい。

「素敵なものを摂取すると、素敵になるんだよ。心の栄養。食べたものはなんでも身に付くものだから。私は素敵なものに生かされている」

 言い替えれば、いいところを見付けるのがうまいと言うことなのかもしれない。それはとても、素敵なことのように思える。

「何をボーッとしてるのさ。里玖の瞳は今日も誰も入らない湖のように澄んでいて綺麗だね。色素が少し薄くて黄褐色。夜道を歩く猫の瞳の色にも近い。実際色素が薄いと夜目が利いて見えるものが違うらしいね?その目にどんな世界が映るのか、私も見てみたいところだよ」

「━━照れるから、止めて」

 生かされているのはどちらだろう。

 そんな彼女が、私にはキラキラと輝いて見えて。ああ、これが『尊い』なのかもしれないと少しばかり理解した。

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