第161話 トロは大人の味
ランチの値段三千八百円。
それが今日の寿司の値段。
もちろん俺の人生の中で1番高額の食べ物だ。
それも廻るお寿司を飛ばしていきなりカウンターのお寿司屋さん。
並んでいるのは寿司が十貫と味噌汁。
手で食べるのが通らしいが、俺は一応衛生面に気を使いお箸で食べた。ただお寿司を取るその箸が震えた。
一貫が三百円を超えている。
しかもいかにも職人といった風情のお店の人が握ってくれた寿司だ。
やはり一番目についたのは赤いマグロ。
俺のかすかに残る記憶によると、以前スーパーの寿司を食べたことがある気がする。そしてその時も一番目に入ったのは赤いマグロ。
ただ、そのかすかな記憶に残るマグロと目の前にあるマグロは大きさも色も少し違う気がする。
「これは!?」
口の中に入れたマグロが溶けた。
マグロって溶けるのか?
なんか甘いし、溶ける。俺の知っているマグロじゃない。
「凛くん美味しいですね」
「うん、おいしいけど……」
「もしかしてトロはお嫌いでしたか?」
これがトロか! たしかにテレビで見たことがある気がする。これがマグロの中でも高級なトロ。たしかにおいしい。テレビでトロトロ言っているからいつかは食べてみたいと思っていたが、思いがけずついにトロを食べてしまった。
それにしても高校生でカウンターの寿司をランチで食べてしかもトロ。
これ大丈夫なんだろうか。
次に目に入ったのはいくらの軍艦巻き。
これは俺でも知っているが、山盛りのいくらがこぼれそうだ。
「おいしい……」
どうしても赤いネタに先に目がいってしまうみたいだ。
だけど赤いのは当たりの色なのかもしれない。トロに引き続き、こちらもおいしい。
残りでわかるのは玉子焼きの握りだけで、後は全部何の握りなのかわからない。
ハズレはないだろうと思われる玉子焼きは最後にして残りの寿司を順番に口に頬張る。
結論から言うとハズレなんかひとつも無かった。
ほとんど初めて食べる味だと思うが、どれもおいしかった。
それほど鋭くない俺の舌でも明確においしいと感じることができるお寿司ばかりだった。
「連れてきてよかったわ。凛くん本当に美味しそうに食べるわね。また一緒に来ましょうね」
「はい、是非お願いします」
間違っても自分だけでは、こんな高級なお寿司屋さんには来れない。
値段だけではなく、そもそも俺の選択肢にすらなかった。
「まあ、心配しなくても山沖くんとはこれからも、機会はいっぱいあるんじゃないか? なあ葵」
「ま、まぁ、そうですね」
葵の両親は俺が思っていた以上にいい人たちだった。
それだけでなく弦之助さんはAランカーのスキルまで伝えてくれた。
葵共々感謝しかない。
帰りに自分の分を払おうとしたが、お礼だからと頑なに拒まれてしまった。
お世話になっているのは俺の方なのに申し訳ない。
今度機会があったら廻るお寿司に行って俺が支払いをしたい。
一貫百円なら四人で食べても俺でも十分に支払える。
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