第157話 パパの青春

「僕がクリスティーナと初めてキスしたのは高校二年生の時だった」

「あ・な・た。一体なんの話をしているのかしら?」

「いや、山沖くんにも僕たちの素晴らしい青春を語ってあげようかと思って」


弦之助さん、周りの大気が震えています。


「余計なことは言わないでね」

「僕とクリスティーナもチームを組んでいたんだ。まあ二人だけじゃなくて四人組だったけどね。ほとんど僕の一目惚れだったけど、クリスティーナも僕のことを……」

「あ・な・た。もう口を閉じましょうか」


弦之助さん、空気中の水分が凍りはじめています。


「いや、だけど葵もそろそろ……」

「パパ!」


弦之助さん、部屋が吹雪いています。


「凛くんごめんなさいね。この人テンションが上がって変になってるみたいだからちょっと黙らせるわね」


弦之助さんはお話ができない状態へと移行したようだ。


「それにしても、葵もずいぶん凛くんとは仲良くさせてもらっているようだし、そういう関係になっても私たちは大歓迎よ」

「ママ!」


やっぱり、葵の両親は海外に住んでいるだけあって妙にオープンだ。

弦之助さんだけでなくクリスティーナさんまで。

しかもそういう関係って……親がいうことなのか?


「葵は昔から、人との深い繋がりを持つのが得意なタイプじゃないの。表面上はそれなりになんだけどね。だから凛くんとパートナーになって、毎日報告を受けるのが嬉しくて。でも凛くんが想像以上に奥手だから……」

「ママ!」


奥手……

葵は一体俺のことをどう伝えてるんだろう。


「私たちもしばらく日本にいるから、これから仲良くしてね」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

「それはそうと、凛くん、葵の料理はどう?」

「はい、毎日美味しくいただいています」

「葵に料理を教えたのはわたしなの。だから葵の味はわたしの味なのよ。気に入ってくれて嬉しいわ」

「はい、こちらこそありがとうございます」

「今度二人でモナコにいらっしゃいよ。うちのホテルに泊まればいいから」

「いや、俺パスポート持ってないです。というか飛行機にも乗ったことないんです」

「大丈夫よ。申請すればいいだけだし、飛行機も寝てれば着くわよ」

「いや、お金も……」

「そんな心配いらないわ。葵がいつもお世話になってるんだしチケットぐらい用意するわ。それに将来ずっといてくれても……」

「ママ!」


俺がモナコ? とんでもなく遠くだよな。想像もつかない。海外に行ったことのない俺がいきなりモナコ?

そもそも飛行機ってそんな遠くまで飛んで大丈夫か? ただでさえあんな重いのが飛ぶんだぞ。

距離が遠くなればそれだけ墜落する確率が上がるんじゃないか?

それにもし行くならお金は自分で出さないといけない。いくらなんでも葵の両親にお金を出してもらうことはできない。

葵の両親と対面して、いきなりいろんな話が出てきて、正直頭がついてこない。

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