第127話 異能

「葵ちゃん、ちょっとこわいよ〜可愛い顔が台無しになっちゃう」

「遠薙さん、凛くんはわたしとパーティをくんでいるんです。わかってますか?」

「もちろんわかってるけど、凛くんの能力を聞いたら思わず、ね!」

「ね! じゃないです。今回は手伝っていただいて感謝はしていますが、それとこれとは話が別です」

「そんなつもりじゃないんだけどな〜」


見えない俺でもわかる。この荒ぶる風の精霊を操っているのは葵だ。ただ遠薙さんも『風姫』葵の操る精霊をさらりと受け流している。

二人の異能バトルが静かに始まっている事を、間にいる俺はひしひしと感じている。


「そもそも遠薙さんはBランクじゃないですか。凛くんはEランクになりたてなのでどう考えてもパーティは無理です」

「それは大丈夫。ものは考えようでしょ。私なら凛くんをBランクまで引き上げてあげることができると思うし」

「住んでいる場所も違いますし移動手段も違うので、やっぱり無理です!」

「私これでも自動車の運転免許あるから、車を買えば大丈夫。家も私の部屋一人で住むにはちょっと広いから、凛くんさえよかったら一緒に住んでも全然いいよ〜」

「なっ、なにを言ってるんですか! 犯罪です。無理です。それはだめです!」


遠薙さんも一緒に住むとかめちゃくちゃだな。

珍しく葵が焦っている。


「凛く〜んどうかな〜」

「遠薙さん、どうかな〜じゃないですよ。そんなのあるわけないじゃないですか。俺は葵とパーティ組んでるんですから」

「凛くん……」

「そうか〜それじゃあ三人でパーティ組むのはどう?」


三人でパーティ? 考えてもみなかった提案だ。Bランカーと一緒にパーティを組めるメリットは計り知れないほどに大きい。

葵と一緒にやれるなら問題ないのか? そもそも葵はどう考えているのかわからない。今のやり取りを見る限り、葵は遠薙さんの事を苦手としているようなので難しい気はする。


「すいません、少し考えさせてもらっていいですか?」

「もちろんよ〜。いい返事待ってる。葵ちゃんもね」


そう言うと遠薙さんは原付バイクに乗って、その場から去ってしまった。


「遠薙さん、自分の分の魔核持って帰るの忘れてるな。また今度渡そうか。葵、大丈夫?」

「はい、大丈夫です。遠薙さんのパワーに押されてしまって。悪い人ではない気がしますけど」

「そうだね」


葵が今までになく消耗しているように見えたので、結局、この日は遠薙さんの申し出について葵と話すことはできなかった。

代わりに家に帰ってから勉強して、猫が出ているテレビを二人で見た。

かなり消耗したように見えた葵だが、猫を見ると途端に元気を取り戻して「かわいぃ」を連発していた。

こういう姿を見ると、やっぱり、葵にはいつも笑顔でいてほしいと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る