第47話 ショッピングモール

トロールが弱っているのを見て気を抜いたわけでは無いが、意識が完全にトロールに集中していたので俺の反応が一瞬の遅れてしまった。

トロールの後ろに潜んでいたオークが俺に向かって襲って来た。

気がついた時には手に持つ棍棒のような物を振り上げて数メートルのところまで迫って来ていた。


「『エクスプロージョン』 凛君に攻撃などさせません」


葵が狙い澄ました爆炎を放ち、その場には一体のオークの丸焼きが出来上がっていた。


「凛くんの邪魔は許しません。『ウィンドカッター』」


再び風の刃がモンスターの首を斬り落とした。


「葵、助かったよ。二度も助けられたな」

「いえ、パートナーとして当然の事をしただけです。それより早くトロールを倒してお買い物に行きましょう」

「そうだな」

『エクスプロージョン』 『エクスプロージョン』 『エクスプロージョン』 『エクスプロージョン』


そこからは、動きの止まったトロールに向けて二人で爆炎を連発して倒し切った。


「結構時間がかかってしまいましたね。凛君急ぎましょう」


葵はそう言って、俺の手を引いてショッピングモールへと向かった。バタバタしてしまったせいで予定では一度荷物を置きに家に戻るはずだったが、それも忘れてしまっていた。


「葵、着いたからそろそろ手を……」

「折角のクリスマスですから、このまま繋いでちゃダメですか? パートナーですし」

「い、いや、ダメじゃないよ」


葵の「ダメですか?」は俺には断れない。

それにパートナーだったら手ぐらい繋ぐのは当たり前か。多分世の中のパートナー達はきっとそれが常識なんだろう。


「ところで、今日は何を買いに来たんですか?」

「ああ、それなんだけど、今日クリスマスイブだから葵のプレゼントを買いに来たんだよ。俺じゃあ選べる自信が無かったから葵に選んでもらいたくて一緒に来てもらったんだ」

「………………」

「どうかした?」

「……うれしいです。プレゼントなんか貰えると思って無かったので」

「い、いや、あの、葵には今までお世話になりっぱなしだから、プレゼントぐらいは……なっ」

「ありがとうございます。でもお世話になっているのは私の方ですよ。命を救ってもらいましたし」

「まあ、それはあれだけど、とにかくプレゼントを見に行こうか。値段は気にしなくていいから何がいいかな」

「いろいろ見て回ってもいいですか?」

「もちろんいいよ」


俺と葵はモール内のお店を見て回る事にしたが、クリスマスイブだからか今日は異常に人が多い。

俺もこのモールには何度か来たことがあったがこんなに人で溢れ返っているのは初めてだ。

改めて世間ではクリスマスというものが認知されているのだと思い知らされてしまい、自分が世間から取り残されていた事を痛感してしまった。

モール内には結構学生のカップルらしき人達もいて同じ学園の制服を着ている生徒も何人か見かけたので、俺が考えている以上にクリスマスプレゼントを買いに来る学生も多いのかも知れない。

お店を順番に廻って行ったが、葵が足を止めたのはクリスマスセールと大きく書かれたジュエリーショップだった。


「気になるなら入ってみる?」

「うん、入るだけ」


二人で店の中に入ると店員さんが大きな声で挨拶してくれた。


「可愛い彼女さんですね〜クリスマスプレゼントですか?」

「はい、そうです」

「高校生さんですよね。高校生さんに今年人気なのはこの辺りですね〜」

そう言って淡い色の宝石が付いたネックレスを薦めてくれた。

「葵、どうかな。よかったらつけてみる?」

「可愛いですけど、ネックレスは普段学校でつけられないので、どうせならずっとつけていられるのがいいです」

「あ〜、そうなんですね。それじゃあ学生さんがずっとつけていられるものとなると時計などは如何でしょうか? 時計は結構お値段も幅があるんですが、彼女さんにお薦めはこの辺りでしょうか」


そう言って可愛らしい時計を三つ取り出してくれた。

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