第33話 平穏な日々は……
「凛くん、一緒に食べましょう!」
「……………ああ、うん」
俺の平穏が破られたのは、お昼休みになってすぐに葵が教室にやって来てしまったからだ。
葵は普通に教室に来て、普通に俺の前に座って、普通に俺とお弁当を食べ始めてしまった。
もちろん俺に選択肢などあろうはずがないので一緒にお弁当を食べるが、もちろん食べているのは葵が持って来てくれた葵の手作り弁当だ。
先程までは全く視線を感じる事は無かったが今は強烈に視線を感じる。
しかも通学の時に感じたなんとなくの視線では無くガン見されている。
まあ当然だろう。葵が俺の所に来た時点で予測できた事態だが、葵は全く気にした様子もないので俺が気にするだけ無駄だろうと言う結論に達し、俺も心を無にして動じる事なく葵のお弁当をおいしくいただいている。
普段パン一つだけの俺のお昼ご飯が、栄養バランスの良さそうな色合いも美しい手作り弁当に置き換わっている。
「おいしい……」
「ふふっ、そう言ってもらえると作った甲斐がありますね」
やはり葵の料理はお弁当になっても変わらず美味しい。
まあ、弁当を食べながら見られるのには慣れないが、これもあと一日だけの事なのであまり気にしても仕方がない。俺は完全に気づいてないフリを決め込んで食べることに集中する。
2人で弁当を食べ終わって葵が自分の教室に戻ってからも視線は感じたが、ボッチの俺に誰かが声をかけてくる事は無かったのでそのまま放課後を迎えた。
流石に放課後になると俺への視線を感じる事は無くなりいつも通りに戻ったが、それもあっさりと瓦解してしまった。
放課後になり帰り支度を終えるとまた葵が教室までやって来て
「凛くん、帰りましょう!」
と声をかけて来たのだ。
まあ、一緒に帰る事は約束をしていたので、全くもっておかしくはないのだが、またクラスメイトからの視線が集中したのを感じる。
これはもう、さっさと帰るしかないので、すぐに葵と一緒に教室を抜け出して家路に着いた。
「あの〜葵さん。あんまり教室に来るのは控えた方が良くないですかね」
「そんな事ないですよ。せっかくお弁当を作ったのですから一緒に食べた方が美味しいじゃないですか」
「ま、まあ、それはそうかもしれないけど」
「それに、帰りも教室まで行った方が早く帰れるじゃないですか。今日から一緒にお勉強をする事になっていますよね」
「まあ、そうかもしれないけど」
「じゃあ問題ありませんよね」
「まあ……そうかも」
葵の言っている事に間違いは何も無い。無いが、言いくるめられた感は否めない。
葵は、あの凝視される様な視線にも慣れているのだろうか?
学園のアイドルも大変だなと他人事ながら葵の苦労の一端を知ってしまった様な気がした。
部屋に着くと葵がすぐにやって来て勉強会がスタートしてしまった。
実は前回のテストまで俺の成績はそこそこの点数をキープしていた。
それは学園の特待生待遇は赤点を取ると除外されてしまうので、今までは頑張って勉強をしていたのだが、一年生はサバイバーとしてFランク以上であれば優遇されると言うもう一つの要件を満たした為に、完全に気が抜けてしまい、最近は家で勉強することがなくなっていた。
今勉強する事になって気がついたが、高校の勉強は中学までと違ってサボると一瞬で置いていかれるらしい。
前回のテストまでの貯金があるはずなのに今回の範囲の内容が解けない。
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