第20話 彼女の涙と成果

やはり遠距離スキル無しでゴブリンに単純な白兵戦を挑んだのは無理があったのか?

頭にそんな後悔が浮かぶがもう遅い。

なんとかして倒すしかない! 必死でゴブリンの攻撃を押し返している最中、突然ゴブリンの後方が爆発した。


『エクスプロージョン』


遠くから若葉葵の声が聞こえた気がした。

爆発はゴブリンに直撃はしなかった様だが、背中を焼かれたゴブリンの力が弱まった。


ここしかない!


「おおおおあぁぁぁ〜!」


俺は渾身の力でゴブリンの攻撃を押し返すと同時に前に踏み込んで、ブレイドの一撃をゴブリンの胸部に叩き込んだ。


「グギャアアア〜」


ゴブリンの叫び声を無視して、左手に持つナイフで追撃を叩き込み、とどめをさすと目の前からゴブリンが消え去った。


やった……

だけど疲れた……

五体のモンスターを倒した喜びよりも疲労感の方が圧倒的に強い。

なんとか倒せた。咄嗟に助けに入ってしまったが、よく五体ものモンスターを倒せたものだ。

なにより若葉葵を助けられた事が一番良かった。


「ふ〜。若葉さん大丈夫?」


若葉さんは地面に座り込んでしまっていたので、何処か痛めたのかとも心配したが、どうやら助かってほっとしただけらしい。


「は、はい。ありがとうございました。助かりました。あっ……ぁっ、ふ、ふ、ふぇ〜んぇぇ〜ん」


いくら優秀なサバイバーとはいえ、高校一年生の女の子が醜悪なモンスター五体に追い立てられたら、それは恐怖以外の何者でもないだろう。

助かった事で気が緩んで泣き出しても全く不思議ではない。

ただ、泣かれても女性の扱いに慣れていない俺にはどうしていいか分からなかった。


「あ、あ〜。若葉さん、もう大丈夫だから。もうモンスターいないから。泣かなくても…………」

「怖かったよ〜うぇええええん〜ん」


やばい余計に泣かせてしまった。

こういう時はどうすればいいんだ?


「あ〜よしよし?」

「ふぇっ………」


確か幼い時に俺の母親が俺が泣くとこうしていたはずだ。

俺は微かに記憶に残る母親の真似をして若葉葵の背中をさする。


「あ〜怖かったね〜。よしよしいい子だね〜?」

「……………」


反応は無いが効果があった様で、徐々に泣き声が弱まってきた。

やはり俺の記憶は間違っていなかった様だ。


「それじゃあ、落ち着いたみたいだから俺は行くね。俺の倒したモンスターの魔核はもらっていくよ。ゴブリンの魔核は最後手伝ってもらった分だからあげるよ。それじゃあ」

「えっ……あの………えっ」


若葉さんは何か言いたそうにしていたが、彼女とこれ以上一緒にいてもいい事は無さそうなのでさっさと退散しよう。

今なら俺のことも誰だか分かっていないだろうから面倒にならなくて良い。

残念ながらボッチの俺が学園のアイドル的存在の若葉さんと絡む事で、良い事が起こるイメージが全く湧かないので、今後学園で見かけても知らない振りを決め込むしかない。

まあ仮に彼女が俺に気がついても声をかけて来るとも思えないし多分大丈夫だろう。

別に隠しているわけでもないが、複数のスキルが使える事も余り公言したい訳でもないので、とにかく関わらない様にしたい。

無事に依頼も完遂したのでロードサイクルを飛ばして家に帰ったが、今日は思いがけず四体分の魔核を回収する事が出来たので、なんと十二万円の収入となる。

一日で十二万円って信じられない金額だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る