萌え<尊い<○○う
小嶋ハッタヤ@夏の夕暮れ
もはや崇拝しかない………
「タダシさん、尊いって言葉あるじゃないスか」
「あるな。好き過ぎるあまり手を合わせて拝みたくなる的な意味だろ。最近ネット上なんかでよく聞くようになったな。で、それがどうしたよ」
「昔は確か『萌え』って言葉があったそうじゃないスか。そんで最近はその上を行く『尊い』って言葉が使われてる。じゃあそのあとに来るワードは、『萌え』や『尊い』をさらに超えたものになると思いません? 俺、どんなワードが流行るかちょっと推測してみたんス」
俺は後輩のマナブと駄弁りながら下校していた。今日のマナブは自販機で買った力水を飲み干したせいかずいぶんと賢そうなことを言う。
「俺の予想、きっと当たってると思うんスけど」
「じゃあ教えてくれよ。お前の考える、次に来るワードってやつを」
マナブはニヤリと笑い、学生カバンから二本目の力水を取り出した。てっきり俺にくれるのかと思いきや、そいつをぐびぐびと飲み干した。
「ちょいとDHAを補給しやす。こいつがオレの頭を刺激してくれるんスよ。試験前に毎回飲んでたら赤点の数が十一個から九個に減りましたからね。ケタが違いますよ」
「確かに桁数は変わってるが、試験科目の過半数が赤点な事実は変わらんぞ」
「ちなみに力水よりもサバ缶のほうがDHAの量は多いぞ」
「マジすか。え、どんくらい?」
「五百倍」
「
「小2だよ馬鹿野郎。大学行く前に九九を学び直せ」
素で九九を間違える男がまともに進学できると思うなよ。
「つーかオレの学力とかどうでもいいんスよ! 尊いって言葉の次に来るワードの話です!」
「おう、もったいぶらずに教えてくれよ」
「分かりました。次に来るワードは……」
ドゥルルルルルルと口でドラムロールを唱えて焦らすマナブ。もったいぶるなと言った数秒後にコレなので答えにはあまり期待してない。
「じゃん! 答えはコレです!」
マナブが俺の顔面スレスレにまでスマホを見せつけてきた。近すぎて見えない。離すように言うと、ようやくそのワードとやらが目に入った。
「『
「タダシさん言ってましたよね。尊いって言葉は『好き過ぎて拝みたくなるって意味』だって。オレもそう思いますが、拝んでいるうちにこう考えると思うんスよ。『この御方の信者になりたい!』って。つまり尊いのさらに上がコレです。『信者になるぅ〜』を略して『信者う』と命名しました!」
なるほど。思っていたよりは面白い意見だ。それにダブルミーニングにもなっている。
「『信者う』って言葉は『死んじゃう』ってのも兼ねてるんだな。好き過ぎて殉教してもいいってくらいの熱さを感じる。いい言葉じゃないか」
「え? 兼ねてるって何が……あ、マジだ。いやもちろんね、オレ最初からそこまで分かってましたよ? オレ天才スから。あとジュンキョーってどんな意味スか」
やっぱこいつ馬鹿だわ。そう思った。
「オレこの言葉流行らせますから! ネットに書き込みまくって流行語になったら
「いっぺんサバ缶の海に沈んでから考え直したほうがいいな、そのライフプラン」
「オレは本気スよ!」
「流行語ってのはな、基本フリー素材じゃないといけないんだよ。もし『尊い』って言葉を使ったら一回ごとに五円取られるみたいなルールでも出来てみろ。誰も使わなくなって一気に廃れるに決まってる」
「じゃあどうすればいいんスかオレの『信者う』は! まだ右も左も分からない小さな子なんスよ!」
「生まれたての赤子みたいに言うな。それでも流行らせたかったら、まずマナブがおもしろツイッタラーにでもなって、そこでポッと発言したらいいんじゃないか。無名の人間がいくら面白いこと言ったって誰も見向きもしないんだから、まずはマナブ自身の価値を高めることから始めるべきだな。『何を言ったか』よりも『誰が言ったか』のほうが重要だって、よくある話だろ?」
「そうスね。オレがいくら『バトルえんぴつはおもちゃじゃなくって文房具だ!』って言っても
「バトルえんぴつってのが何なのかは知らんが、お前が弟よりも馬鹿なことと未だに母親におもちゃをねだる男だってのは分かった」
おもちゃがほしけりゃバイトしろ。
「あ、でもそれならそういう日常をツイートしていけば、お前もおもしろツイッタラーの仲間入り出来るんじゃないか。今どきいないぞ、力水の能力を信用し過ぎてて九九もろくに覚えてない弟以下の馬鹿野郎なんて」
「正論が過ぎますよタダシさん! でも分かりました! オレ、今日からツイッター始めます!」
そんな感じでツイッターを始めたマナブだったが、あっという間に人気を博してフォロワー数も13000を超えた。28×500=13000(マナブ式計算技法による)なので、ある意味予言達成とも言える結果だ。
あと『信者う』を何度かつぶやいてはいたが特に流行る気配はなかった。けれど当人は「サバ缶効果で当社比五百倍スね! トランプ大統領超えも目前スよ!」と嬉しそうだ。トランプさんのアカウントが永久凍結していることは知らないらしい。
ちなみにマナブの偏差値は28のままだ。「28って数字、鉄人っぽくていいよな」と言ったら素直に喜んでいたので、特に気にしてはいないらしい。
そのままのマナブでいてほしいと思う俺であった。
萌え<尊い<○○う 小嶋ハッタヤ@夏の夕暮れ @F-B
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます