第118話【オルトは事のあらましを知る】
「今までの行動を思い出してみてください。
確かに盗賊や獣に襲われたり、権力者や有力者に無理な条件を突きつけられたり、理不尽な依頼をやらされたりと負の状況は多々あったと思いますが、結局のところ全て解決出来てますよね?
そしてそれによって富であったり人脈であったりパートナーであったりとしたものを手に入れましたよね?」
「確かにそうだな。盗賊の襲撃があっても命の危険はほぼ無かったし、それによって助かった善良な人達がいて、それに伴った利益を僕は受けている。
そうか、これが『人の為になる善行』というものか……」
「はい。分かってもらえたようですね。
大変申し訳ないのですが、あなたの状態を改編出来る力を私は持っていませんので今後もそのような気持ちを持って生活して行かなければ不運に押し潰されてしまうでしょう」
「それはつまり『自分の利益だけを追及するな』という事ですよね?
良くも悪くも破格のステータスを授かってしまったからには世の中に還元しろと?」
「どう取られるはあなた次第ですが、運の天秤に従うならばそれが最適かと思います」
僕はそこまで聞いて「ふぅ」と息をはいてアスカルスに言った。
「良く分かりました。これまでの事を思い出してみると思い当たる事が多すぎて信じるしかないようです。
それでこれからこんな事をしたいと思いますがそれは『善行』にあたりますか?」
僕はこれからやってみたかった事をアスカルスに話すと彼女は優しく微笑みながら頷いた。
「それは素晴らしい事だと思いますよ。
ですが、この世界の発展にも影響することですので、やり過ぎには注意してくださいね」
「まあ、のんびりやりたいと思ってます」
「では、私はそろそろ神界へ戻ろうと思います。
また、あなたのような人の案内役をしなければなりませんので……」
そう言うとアスカルスは僕の手を掴むと時の狭間から元いたギルドへ連れ出した。
いきなり人が消えて現れたので周りが騒ぐかと思われたが、まるでなにも無かったかのようにギルド内は平常運転だった。
「私はあなたにしか見えてませんし、あなたが私と話している時は周りの人はあなたを気に留めないようになっていますので、このまま扉から出て行けば日常に戻れます」
女神アスカルスはそう言い残して消えて行った。
「さてと、女神の許可も取ったしやってみるかな。まずはシミリに相談してからになるけど彼女が女神だったと言って信じて貰えるかが一番の問題かもしれないな」
僕はそんな独り言を呟きながらシミリの待つ宿屋へ向かった。
* * *
「お帰りなさい」
約束通りシミリは宿屋で僕の帰りを待っていてくれた。
やはり何処となくぎこちない感じがするが先程の件は突っ込んで聞いては来なかった。
「シミリ。大事な話があるんだ」
シミリが僕の言葉に『びくっ』と反応した。
まるで何か悪いことを言われるのを怖がっているような反応だ。
「先にこれだけは言っておくけど決して悪い話じゃないよ。
これからの事を打ち合わせするだけだからね」
「本当に?本当にそれだけ?もう私はいらないって話じゃないよね?」
シミリは目に涙を浮かべ手を握りしめたままじっと僕を見つめて返事を待った。
(やっぱり不安にさせていたか……。
でもあれは女神様が悪いよな。シミリがいる時に接触しなくても良かったと思うんだよな)
僕は女神に頭の中で悪態をつきながらも笑顔をつくりシミリをそっと抱き寄せて言った。
「当たり前じゃないか。シミリは僕の妻だ。
これからもずっと一緒に生きていくために大切な話があるんだよ」
シミリは僕に抱き締められながら涙を流し「うん」と頷いた。
「ーーー落ち着いたかい?
じゃあ話をしよう。まず、あの後僕に起こった事を説明しよう」
僕はそう言ってシミリに女神との話でステータスに関する事や運の事を説明出来る範囲で辻褄が合うように改編して話した。
もちろん僕が転生者であることは伏せておいたが……。
「あれが女神様……。
それにオルト君のステータスは女神様でさえ驚くほどのイレギュラーな数値。
そしてオルト君は常に人の為に働かないと不運がつきまとう……」
シミリが冷静に現状を把握して納得するように内容を
(しかし、常に人の為に働かないといけないとか普通に考えたら凄いブラックだよな。
まあそれが出来る能力があるからブラックに感じないけれど……)
暫くしてシミリが再起動して話しかけてきた。
どうやら自分の中で状態の整理がついたようだ。
「まだ全部を信じることは出来てないけど、今はオルト君と前を向いて行こうと思います。
それでオルト君のやろうとしている事を教えてください。
絶対に力になれるようにしてみせるからね」
その顔は凛として凄く頼もしく見えた。
「うん。僕がこれからやろうとしている事は……」
概要の説明を聞いたシミリは目を輝かせながら僕の手を握りしめ「絶対に成功させましょう」と誓いをたてた。
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