第70話【襲うからには襲われる覚悟があるのか?】
「おいおいおい。
護衛のやつら逃げちまったぜ。
情けないなぁ、いくら俺たちが強そうに見えても依頼主を放り出して逃げるとはねえ。
あんたら運がないなぁ。ぎゃはは!」
護衛に見捨てられた家族は盗賊達に囲まれてどうすることも出来ずに寄り添って震えていた。
「しかし俺たちは運がいいなぁ。
前の狩り場がやばくなったんで移動してきたら直ぐに獲物がかかるたぁ最高だぜ!
金目の物に若い女とくれば、あんたを始末すれば全て俺たちの物だよな。
まあ心配するな金も女も俺たちが有効に使ってやるから安心して死んどけや!」
「やっ止めてくれ!金は渡すから妻と娘には手を出さないでくれ!」
父親の必死の叫びを聞いて盗賊達はニヤニヤと笑いながら言った。
「はぁ?金はもちろん貰うし、女も当然貰うに決まってるじゃねえか。
とりあえずお前はいらないから死んでいいぞ。
壊れて使い物にならなくなったらそっちに送ってやるからよ。ぎゃっはっは」
盗賊達は父親を妻子から引き剥がして地面に放り投げて笑いながら剣で斬った。
「いやぁ!?あなたぁ!!」
「お父さん!お父さん!!」
父親が斬られる所を目のあたりにしてふたりが悲鳴をあげた。
「ミスティ・・・。サラ・・・」
父親は妻子の名前を呼びながら気を失った。斬られたショックと出血のために意識が無くなったのである。
「なんだ、呆気ないな。
よし!さっさと奪って足がつく前に移動するぞ!」
「ウインドブラインド」
盗賊達が馬車と妻子を連れて行こうとした時、突然突風が吹いた。
「うおっ!?何だこの風は?
顔にまとわりついて目が開けてられねぇぞ!」
「エクストラヒール!」
慌てる盗賊達をよそに、どこからともなく男の声が聞こえた。
「だっ誰だ!?ぐわっ!?」
「がっ!?ぐはっ!?ぐっ!?げふっ!?」
突風で目が開けられない盗賊達は突然どこからともなく来る攻撃をかわすことも出来ずに次々と打ちのめされていった。
やがて風がおさまった時には十数人いた盗賊達は全員地面に転がって気絶していた。
「大丈夫ですか?」
呆然とする妻子の前にオルトが膝を折って問いかけた。
「あっあなたは一体?・・・」
いきなり目の前に現れた若い男に戸惑いながらも母親は娘の無事を確認して斬られた夫の元へ走った。
娘もそれを見て父親の側に向かった。
「ああ、あなた!しっかりして!」
「お父さん!お父さん!」
母親は倒れている父親にしがみついて泣き叫んだ。
娘も側で力なく両膝を着いて泣きながらふたりを見つめていた。
「うっ!?」
その時、父親が目を覚ました。
父親は体の違和感に斬られた跡を手で触ったが血は付くものの痛みが無かった。
「なんだ?痛くないぞ?
斬られたはずの傷も無くなっている。
一体なにがどうしたと言うのだ!?」
父親の服は確かに剣で切り裂かれた跡がはっきりと残っており斬られた跡は血のりがべったりと付いていた。
しかし、いくら調べても体には傷ひとつ見当たらなかった。
「良かった、間に合ったようですね」
僕の言葉に三人は何が起こっているのか理解が追い付かずにこちらを見た。
「ああ、いきなりすみません。
僕はCランク冒険者のオルトといいます。
リボルテに向かう途中で盗賊達が馬車を襲っているのが分かったので助太刀をさせて貰いました。
そちらの方は斬られてかなり危険な状態でしたので回復魔法を掛けさせて貰いましたので暫く安静にしていれば大丈夫だと思いますよ」
僕は冒険者プレートを提示して家族を安心させてから直ぐに倒れている盗賊達を集めて全員に
「とりあえずこれで大丈夫かな」
僕が盗賊達の処理を済ませて家族に向き直ると父親が母親に支えられて体を起こしていた。
「この度は本当にありがとうございました。あなたが助けてくれなければ私は殺され、妻と娘は盗賊達の慰みものになっていたでしょう。
このご恩は絶対に忘れません。
あっ!自己紹介がまだでしたね。
私はディールと申します。
こっちが妻のサラでこちらが娘のミスティです」
僕達が話をしている最中に盗賊を制圧した際に安全を知らせる魔道具で無事を確認したシミリが馬車を連れて追い付いてきた。
「オルト君。大丈夫でしたか?」
心配するシミリに手を上げて応えた僕はディールとの話を続けた。
「とりあえず盗賊達は全員捕らえましたが、街まで連れて行って引き渡すにも人数が多すぎて難しいのです。
このまま逃がす訳にもいきませんのでリーダー込み3名程度を残して他は処分しようと思うのですがその旨を役人に説明する際、証明して頂きたいのです。
盗賊とはいえ、無力化した者を処分するのは死体に不自然さが残りますので」
冒険者でもない一般の平民に人を殺す話をしても怖がらせるだけだとは思ったが、いきなり全員始末すると逆に僕が怖がられる可能性が高かったので説明をしておいた。
「それはもちろん説明させて貰いますが、誰がリーダーか分かるのですか?」
僕が安全と判断したのだろう。
ディールは気丈に僕の質問に答えてくれた。
「とりあえず何人か起こして問い詰めますよ。
あ、心配しなくて大丈夫ですよ。絶対に逃がしたり反撃はさせたりはしませんから」
僕はそう宣言すると盗賊の中で装備品の豪華な男を起こした。
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