第34話【患者の情報と領主との交渉】
クロイスから渡された報告書に書かれていた情報の概要は以下の通りだった。
・患者名:セーラ・フォン・カイザック 9歳
・病状:視力の低下、盲目
・治療概要1:治癒魔法『ヒール』無効
・治療概要2:投薬対応『疾病薬』無効
・治療概要3:治癒魔法『ハイヒール』無効
・現状これ以上の治癒魔法及び調薬師の使い手が居ない為回復には至らず。
その他には“いつ頃から症状が出たか”とか“過去にどういった事があったか”といった情報が書かれていた。
(なるほどな。ハイヒールで回復しないならば結構厄介なのかもしれないな。
まあ、どちらにしても会って見てみないと治療方針も決められないよな)
「報告書は読ませて頂きました。
ずいぶん辛い思いをされている様子ですね。
何とか力になれればと思います」
「
無ければ悪い事は言わないから今回の件は口外しないと契約してから街を出るがいいだろう。今ならば命までは取らないからな。
助けて欲しい割には上から目線が気になるが貴族が平民に話す時はこんなものだろうと割り切ってから僕は口撃に出た。
「治す方法はあります。
但し、幾つか条件がありますのでそれを了承して貰えるならばと言う前提ですが・・・条件を聞いて貰えますか?」
治す方法があるとの言葉にクロイスは驚愕した。
そして、貴族であり領主でもある自分に平民が条件を付けるというあり得ない話に怒りが湧いてきた。
「条件だと?たかが薬師の分際で領主の私にそのようなもの言いをするとはいい度胸をしている。
なんならこの場で不敬罪を適用しても良いのだぞ?」
「そうですか。あなたの娘を治す事が出来る僕を処刑すると言われるのですね?
分かりました。それでは今日にもこの街を出る事にしましょう。
領主様は今日の事を一生後悔しながら過ごす事になるでしょうけど。
ああ、もちろん他言はしませんよ。お嬢さんの事に関しては」
僕は領主の言葉に治療を施す気持ちが失せてしまった為にシミリには悪いけど街を出る事を決めた。
「まっ待て!先程の言葉は本当か?娘を治す事が出来ると言うのは?」
「それは領主様次第だと思いますが治す方法はあります」
「それは間違いないのだな?本当に治るのだな?
大きく啖呵を切ったのだからそれだけはおしえてくれ!
今まで治せると息巻いていた治療師達は誰一人治せる者は居なかったのだぞ!」
「報告書を読む限り、お嬢さんの病状の名前は無光鏡裂傷だと思われます。
お嬢さんは6歳の頃に魔蜂に刺されていますね。
その時は解毒剤と回復魔法で一命を取り止めたそうですが、一年後に発作が発生して高熱が続きその時にかけたハイヒールが原因で失明してしまった。そうですね?」
「ああ、そうだ。
上級回復魔法のハイヒールならば治せると判断してかけたが熱は下がったものの失明してしまった。
どうしてなんだ!?」
「その答えも僕は持ち合わせていますが、再度聞きますが僕と交渉しますか?」
クロイスは少し考えてから頷いた。
「分かった。君の条件とやらを聞いてみよう。
私に出来ることならば検討すると約束しよう」
「では、先に条件を話しましょう。
ひとつ目はお嬢さんが回復しても僕が治したとは周りに言わないで欲しい。
ふたつ目は依頼達成時には僕のギルドランクをCまで上がるように配慮して欲しい。
みっつ目は治療完了後は僕達に過干渉をしないで欲しい。
よろしいですか?」
クロイスは僕が出した条件の意外性に驚き再度確認をしてきた。
「本当にそんな事でいいのか?もっと“専属の薬師に取り立ててくれ”とか“自分を貴族にしろ”とか“娘と結婚させろ”とか言い出すと思ったが・・・」
「そんな事は全く考えておりません。
但しギルドの依頼書にあったように金貨は正当な報酬として貰いますよ」
「それはもちろん払うが……。
そこまで言うならば契約しよう。
成功報酬で金貨100枚と今出した条件を飲もう。
その代わりにもし失敗した時には、我ら親子への不敬……。死をもって償え!」
「分かりました。それでいいですのでセザンヌさん契約書を作成してくれますか?」
「はっ!はい!すぐに作成しますので少しお待ちください」
セザンヌは慌てて書類を作るために自分の部屋に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます