第32話【Aランクのお仕事と謎の依頼主】

 次の日から冒険者ギルドには毎日顔を出して依頼ボードの確認をしてみたがEランクの出来る依頼なんて本当に雑用ばかりだった。

 配達・清掃・薬草採取・害獣退治など危険度は低いがポイントも低い。

 殆んどが1~10ポイント程度にしかならないからやる気が起きない。


(この調子だとDランクに上がるのに一年くらいかかるんじゃないのか?)


 と思いながらギルドを後にしようとした時、受付から声が掛かった。


「オルトさん達、今日も良い依頼はありませんでしたか?

 確かにEランクで出来る依頼は多くはありませんからね。

 それでも危険度が低いので低ランクの方には必要な依頼なんですよ。

 そうだ!私ったらまだ自己紹介をしてなかったわね。

 私はこのカイザック冒険者ギルド受付2年目になりますスーラといいます。

 よろしくお願いしますね」


「はい。スーラさんこちらこそよろしくお願いします。

 ところで何か良い話でもありませんか?」


「そうですね・・・そうだ!オルトさん。

 ひとつだけあなたの職業を理由に受ける事が出来るAランク依頼がありますが内容を聞いてみますか?

 無理と判断したならば断って貰って構いませんので」


「Aランク?職業ということは調薬絡みですか?

 分かりました、詳細をお願いします」


 僕が了承するとスーラは棚から資料を取り出して説明を始めた。

 大まかに纏めると以下の内容だった。


 ある人物の娘さんが原因不明の病で視力が失われた。

 今まで多くの調薬師や治癒魔法士が治療に呼ばれて試したけど誰一人治癒はおろか原因も全く掴めていないらしい。


「なるほど、ランクAと言うからどんな内容かと思ったらそういう事だったのか・・・。

 シミリ、君はどう思う?」


「治せないのは知識不足と実力不足だと思います。

 最もこの街の薬師や治癒魔法士のレベルは先日の話からあまり高くないようですのでオルト君ならば治せる可能性はあると思います」


「ふむ、スーラさん。

 他に提供できる情報はありますか?

 あと、リスクとかもあればお願いします」


「はい。依頼人は受注契約後に先方へ繋ぎを取ります。

 依頼金額は成功報酬で金貨100枚です。

 リスクについては・・・」


 リスク説明の部分になるとスーラは少しためらった素振りを見せたが資料を見せて説明を続けた。


「失敗時の報酬無しはまだ良いのですが、病気の悪化が無く回復しないだけの時で街からの追放。

 治癒中に娘さんが苦しむなど依頼人の怒りを買ってしまうと・・・死罪。

 となっています」


「「死罪!?」」


 あまりの内容に僕とシミリは驚いて書類を再度確認した。


「これ、依頼人は上級貴族様ですね?

 でなければこんな金額もあり得ないし、失敗したら死罪なんて条件をギルドが通す訳がない」


 僕の貴族の言葉に一瞬反応したスーラだったが平静を装って対応した。


「こちらが出せる情報は以上ですが、オルトさんどうされますか?

 今ならこの内容を他に話さないと言う条件はつきますが断る事も出来ます。

 紹介した私が言うのはおかしいかも知れませんが自信が無ければ断って下さい」


「そうだな、この依頼受注するから依頼人に連絡を取ってくれるかな?」


「本当に受注で宜しいのですね?」


 僕が頷くのを見てスーラは深々とお辞儀をしてお礼を言ってきた。


「この依頼を受けてくださってありがとうございます。

 ギルドとしても何とかならないかと依頼人よりギルドマスター宛に催促が数多く来ておりましたが紹介に価する人物がなかなかおらず困っておりました。

 この後、書類にサインをされてからギルドマスターに謁見して頂きますのでよろしくお願いします」


 スーラはそう言うと手続きの書類をテキパキと作成していった。

 出来上がった書類にサインをした僕はスーラに案内されてギルドマスターの部屋に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る