第30話【特殊な治療薬の効果と適正価格】

「お待たせしました。

 こちらが特化型の薬になります。

 患者一人ずつ処方しましたので僕が順番に対処していきます。

 まずは一番傷が酷いあなたから・・・」


 僕はメンタムの効果で落ち着きを見せ出した護衛の人達に少しほっとしながらも傷の大きい男性から順番に手当てを施していった。


「よし、これで良いでしょう。

 今は痛み止めの効果が出ていますので気にならないでしょうが後程痛みがぶり返してくる事がありますので、そのときはこの丸薬を服用して下さい。

 傷口には一日三回この塗り薬を塗って下さい。少なくとも一週間は続けてその後は痛みや動きに支障がなければ止めても大丈夫です」


 僕は新たに作った薬の使用方法を一人ずつ説明して包帯とテーピング布をぐるぐる巻きにして治療を終えた。


 三人共先程までの死の淵からは完全に脱しており、まだ動けはしないが意識もしっかりして話す事も出来るまで回復していた。


「君が治療をしてくれたのか。

 私達を助けてくれて本当にありがとう。

 私はこのパーティーのリーダーでノースと言う者だ。

 先程までの身体中からの痛みと脱力感が嘘のようにおさまっている。

 こんな薬があるとは聞いた事も無かったが高価なものなのだろうな。

 私達に出せるかは分からないが、精一杯お返しさせてもらうよ」


「本当にありがとうございました。

 もうこれが最期なのだと諦めていました。

 たとえ命は助かっても傷だらけの身体に満足に動かせない手足では生きている意味がないですので・・・」


「冒険者、いえ護衛の方々でも特に女性は怪我には気をつけている事でしょうね。

 そうだ!あなたにはこれをお渡ししておきましょう。

 これは“キナール”と言って怪我などの傷痕を消してくれる傷薬と化粧品を掛け合わせた商品です。

 まだ試作品ですので出回ってはいませんが効果は期待出来る自信はあります」


「えっ!?傷が消えるって本当なの?

 そんな薬は見た事も聞いた事もないわよ!

 本当にそんな貴重な薬を頂いていいの?」


「大丈夫ですよ。

 試作品ですから売り物ではないですし。

 ただ量が少ないので顔だけの分しかないかもしれないですけど、そこは了承して下さいね」


「何から何まで本当にありがとうございます。

 おかげさまで懇意にしている護衛の皆さんを失わずにすみました。

 お礼の程はいかほどになりましょうか?

 出来る限りお応えしたいと思います。

 ああ、自己紹介が遅れました。

 私はこのカイザックで店舗を構えているゴルドといいます。

 そちらの方は同業者になるかと思いますが私の商会で準備出来るものがありましたら声をかけて頂ければ対応させて貰いますよ」


「ありがとうございます。

 せっかくの申し出ですので幾つかお願いしたい事があります。

 まずひとつめは今回の件は冒険者ギルドの指名依頼にて調薬依頼にして頂きたいのです。

 訳あって僕達はFランクで登録したのですがやはりFランクだと信用が低いために色々と不都合が出てまして早々にDランクまでアップさせたいのです」


 そう言って僕は冒険者ギルドのFランクカードを提示した。


「次に報酬ですが、まだ未登録の薬の使用分は頂く訳にはいかないですので追加で作成した薬の調薬代金として患者一人銀貨10枚。三人で合計銀貨30枚程頂きたいですがどうですか?

 それを指名依頼として事後処理案件でお願いしたいです。

 最後にゴルドさん。

 このような形でしたがせっかく出来た縁ですのでそちらの商会にうちの薬の店舗販売を依頼したいと思います。

 もちろんギルドの承認が出てからになりますがどうでしょうか?」


「銀貨30枚!?いくらなんでもそれは安すぎじゃあないですか?

 あのような薬は今まで何処にもないのですよ!

 一人金貨一枚でも十分納得出来る値段だと思いますが・・・。

 薬販売の件に関しましてはこちらこそお願いしたい案件ですが本当にうちで宜しいのですか?

 カイザックにはうちより大きな商会は幾つもありますし、薬に特化した商会もあります。

 それにそちらの商人さんの売上を奪うことになりますよ?」


「薬の報酬に関してはまだどのくらいに設定するか決めていないので今回はこのくらいでいいですよ。

 シミリの売上に関しては気にされなくて大丈夫です。

 薬の卸しはシミリが担当しますので手数料は頂戴しますし、こちらは訪問販売の形をとろうと考えていましたので基より多くの稼ぎは予定してませんでしたので・・・」


「分かりました。

 全てそちらのご希望どおりに処理させて頂きます。

 シミリさん後程商売の契約書を作成しますので立ち会いをお願いします。

 今回は本当にありがとうございました」


 ゴルドは深々と頭を下げてから僕達に握手を求めた。

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