第22話【悪徳商人の末路と新たな希望】

 酒蔵を消してから5日目の朝には強行進行したゼクスがエーフリの街に到着したらしく商会では従業員があわただしく走り回っていた。


「何だこれは!?

 本当に私の酒が酒蔵が無い!?

 おい!警備の者は何をしていた!?

 警備隊長を呼べ!!」


「はっ!こちらに控えております」


「これはどう言う事か説明しろ!

 いい加減な事を言うとクビだけでは済まんぞ!」


「はっ!当日の担当者の話では夜の刻の見回り時には異常は無かったようですが朝の刻の見回り時には酒蔵が消えていたようです。

 賊が酒を盗みに来たところで入り口の扉は二重鍵が掛かっているので容易に開かないのですが今回は酒蔵の扉や鍵どころか酒蔵自体が盗まれてしまったのですから人間業では無い事態と言えます」


 警備隊長はそう報告すると深々とゼクスに頭を下げた。


「ぐっ。しかしハメルン伯爵様に何と報告すればいいのだ。

 今日にも献上用の蒸留酒を届けなければならないと言うのに!」


 その時、警備の者が慌てて伝令を持ってきた。


「ゼクス様!酒蔵が!酒蔵が発見されました!!」


「何だと!何処だ!どこで見つかった!?」


 ゼクスが興奮して伝令に向かって叫んだ。


「森です!街から3時間程の森の中にひっそりと建っているのを冒険者が見つけてギルドに報告してきました!」


「森だと!?何故そんな所に!?

 私が直接行って確認するから鍵と護衛を準備しろ!」


 程なくしてゼクスは酒蔵の前に立ち尽くしていた。


「確かにこの蔵は私の酒蔵だ。

 鍵も掛かってるし開ける事も出来た。

 中も特に荒らされた形跡も無いし酒も無事だ。

 ただ、何故こんな所に酒蔵が移動したのか分からんのが不気味だが酒が見つかったのだ、直ぐに馬車を準備して伯爵様に送り届けるのだ!

 その際に安酒も在庫を全部売ってしまえ!

 建物は諦めて機材だけ回収して元々あった場所に建て替えるぞ!」


 ゼクスは貴族に納める高級酒だけ自分の馬車に積み込むと他は部下に任せて伯爵の邸宅へ向かった。


「ハメルン伯爵様に蒸留酒をお届けに参りましたゼクスでございます」


「よし、入れ!

 本日は伯爵様がお会いになられるそうだ。

 納品部屋に向かってくれ」


 係りの者からそう伝えられ何かの注文の話かと思いながら部屋に向かうゼクスだったがそこには伯爵様と見知らぬ商人風の男がいた。


「伯爵様。只今参りましたゼクスでございます。

 本日はどう言ったご用件でございますか?」


「うむ、実はな。

 本日を持ってお前の商会との優先取引を解除しようと思ってな」


「なっ!?何故でございますか?」


「先日、そなたの商会の良からぬ噂を耳にしてな」


「良からぬ噂・・・ですか?」


「ああ、何でもゼクス商会に天罰が下ったとか悪魔に魅いられたとか。

 そのほうの酒蔵が跡形もなく消え去ったと聞いているぞ。とても人間に出来る事ではない。

 そういった存在をお前の商会は敵に廻していると言う事だ。

 そのお前の商会と取引しているだけでその存在が私に刃を向けて屋敷ごと消されたらどう責任をとるつもりだ?

 それと、おい!アレを持ってこい!」


「はっ!ただいま!」


 そこに出されたのはたった今持ってきた高級酒の瓶だった。


「これは検査のために今開けたばかりの酒瓶だ。

 この酒を自分で飲んでみろ」


「はっはい?」


 ゼクスは言われるままに酒に口をつけた。


「なっ!?これはどうした事だ!

 何故この酒がこの瓶に入ってるんだ!?」


「お前のところはこんな酒に水を混ぜたような薄い酒を伯爵である私に売り付けたのだ。

 契約を切られるのは当然だと思わないか?

 それともその首を物理的に分けてやろうか?」


「めめ滅相もない!!

 これは何かの間違いでございます!」


「言い訳は聞かぬ。

 今後はここにいるワグナス商会を専属商会とする。

 もう良い下がれ!」


「そっそんな」


 ゼクスは泣きごとを言いながら伯爵邸を後にした。


   *   *   *


 遠視遠声魔法で遠くから様子を見ていた僕はシミリに言った。


「シミリどうだ?

 商会を潰すまではいかなかったが大幅な信用の失墜は免れないだろう。

 両親を失くしたシミリにはまだまだ足りないかもしれないが一度失墜した信用を取り戻すのは並大抵ではないことを商人であるシミリは分かるだろう。

 これ以上はシミリが商人として奴の商会に商売で戦うしかないと思うぞ」


「はい、分かってます。

 わがまま言って結末を見れて本当に良かったと思います。

 これで私は前に向かって進む事が出来ると思います。

 オルト君本当にありがとう。

 そしてこれからよろしくお願いします」


 シミリは笑顔で宣言すると「さあ、行きましょう」と僕の手を引っ張りながら街の門へ向かった。

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