一章 ―ミスコット城―
1-1 見慣れたあの時の景色
「丁重に連れていきなさい。大切な“原始魔法”の使い手なのだからな」
「は! エリオット様!」
私は転移魔法であの城まで連れてこられた。『丁重に』なんて言ってるけど、連れてく場所はきっと牢屋。牢屋って言っても、それなりに物が揃ってる場所だけど。
壁に蝋燭が掛けられ、天井には無数のシャンデリア。無限に続く廊下に赤い絨毯。全てがあの頃と変わらずにそのままだった。
ミスコット家――この国、いえ実質世界そのものを統治している王族。世界では良き統治者なんて言われてるけど、私はその正体を知っている。世間には公表されてない、このミスコット家の影の一面を。
「さぁ、お前の部屋はここだ! エリオット様がお呼びになるまで待つんだな!」
地下牢のドアは閉められた。どうやら“あの時”とは違って、鉄格子には結界が張られているみたい。結界が張られている事で、もうここからは出られないという事をより痛感させられる。
私は冷たい床の上に座り込む。
「買った服も汚れちゃった……」
……セシリア。
……セシリア。
「なぁに、お母様!」
「……呼んだだけ~」
「えぇ~何それ~!」
お母様は、私が言うのもなんだけれど、とても変わってて面白い魔法使いだった。牢屋に閉じ込められているというのに、4歳の私を呼んではニコニコと笑わせてくれた。
何もない牢屋の中で、何か必ず面白い事をしてくれる。そんな魔法使いだった。今思えば、お母様にそんな余裕は無かったはずなのに……。
石を魔法で削って人形さんを作ったり、手遊びをしたり、壁に石で落書きをしたり……。本当に色々な手段を使ってお母様は私を笑わせてくれた。牢屋の中は退屈だったし、ミスコット家の魔法使い達は嫌いだったけど、お母様と一緒に遊んでいる時間は何よりも楽しかった。
でも、私は知っていた。お母様は私が寝静まると、私を撫でながら一人で静かに泣いていた事。私は、何も出来なかった。ただ、お母様の近くに寄り添う事しか出来なかった。
それから先はよく覚えていない。誰かがお母様に会いに来て、それで私ともお話しして……それで……。気付けば、私とお母様と共にミスコット城から脱出していた。
……何か、忘れている気がする。何か……ううん、誰かを……。優しい笑顔をした、朧げに思い出せるあの……。
「おい……! おい……!」
「……え?」
「お前だよ、お前……!」
私の意識を現在へと引き戻したのは、ある茶髪の男の魔法使いだった。見た目はボロボロの布切れのような服を着た、ホームレスのようだった。けれど、どこか他の魔法使い達とは違う匂いがする。ううん、正確に言うなら、他の魔法使いとは違う魔力を何だか感じる。
「お前を救いに来た。お前、“原始魔法”の使い手だろ? ミスコット家に利用された、騙された、無理やり連れてこられた……そんなところだろう?」
「あなたは誰? 一体、何が目的なの……」
「説明している暇はない」
ボロボロの男は空間を捻じ曲げるような魔法を展開すると、いとも容易く牢屋の結界を壊して扉を破壊した。男は私に近寄り手を差し伸べる。
「逃げて抗うのか、ここで己を捨てるのか……どちらかだ……!」
私は彼の手を取った――。
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