8話目
「昔々あるところに強大な力を持ったドラゴンがいたそうな。その爪はどんな鎧でも切り裂き、その牙はどんな屈強な冒険者でもひとたまりもなかったという。それだけではなく、ドラゴンは魔法にも長けており、国中のウィザードが束になってもとても敵わなかった。そんなドラゴンが支配していた暗黒時代に現れたのが――」
「先輩帰ってきてください!」
「はっ!? あまりの衝撃に物語の世界に入ってたわ」
ドラゴンはきっと光の勇者が倒してくれる。昔話ではそうなってるから!
なんて現実逃避している間にドラゴンが俺たちの前に着地した。
着地した時にズシンッ! って音がしたよ。一瞬体が浮いたもんよ。
初めて目にしたドラゴンに俺は動揺していた。こんなにもびびるとは自分でも思わんかった。
「しっかりしてください」
ばしんっ、と後輩に背中を叩かれる。
そうだな。先輩が後輩にかっこ悪い姿を見せるわけにはいかん。やっぱり意地ってもんがあるからよ。
「突撃ーーっ!! みんなあたしについてこーい!!」
嬉々としてノエリアさんがドラゴンに向かって突撃をかました。恐怖なんて微塵も感じさせない。表情から見て取れたのはドラゴンを討伐する栄誉を求めるものだけだった。
すげーな。俺は感心した。おかげで思い出した。俺って後衛だからノエリアさんたちに比べたら危険はないじゃん、と。
よし、それなら補助くらいしないとな。
「ようやく先輩らしい顔つきに戻りましたね」
ネルがふっと微笑する。けっこう醜態さらしてたような顔になってたのかな。恥ずかしい。
「こほん……。ネル! ノエリアさんたちを援護するぞ!」
「はい先輩!」
プリーストの先輩後輩が力を合わせる。力は何倍にもなる。
ノエリアさんたちの攻撃力がアップ! 守備力がアップ。 俊敏性がアップ!
補助魔法がまんべんなく行き届く。
さらに彼女らの戦闘力は冒険者随一だ。ドラゴンも爪で切り裂こうとしたり、牙でかみ砕こうとしたり、火のブレスで焼き払おうとするがどれも空振ってしまっている。
あらドラゴンさん。想定よりも弱いのか?
確実にドラゴンを追い詰めていき、ついにその時は訪れた。
「バラ騎士団参上よ!」
「なんでだよ!」
お呼ばれしていないはずのバラ騎士団の皆様方が現れた。しかも俺たちが戦っているところから頭上に位置する崖の上から。
もうちょっとってとこなのにっ。なんで今きたのか。
「うわっ!? ドラゴンだよこえー」
「こんな山まできて……疲れた……」
「姫様、さすがにあれは無理ですって。帰りましょうよ」
「ドラゴン相手なんて絶対無理ですよー。大人しく引き下がった方がいいですって」
騎士団連中は戦意がないように見えるんだが。ていうかドラゴン討伐にきたのか? ゴブリンごときにやられちゃうような騎士団が? 無謀すぎる。
「ええいうるさいわよ! ドラゴン討伐なんて名誉。それこそ私たちバラ騎士団にふさわしいじゃない!」
アリエッタがなんか叫んでる。あのお嬢さんは大丈夫なのか。
不相応って言葉知らないのかな? 大人しくゴブリン狩ってこいよ。ていうかまず狩れるようになれよ。
「あ」
それはネルの声だった。
え? という疑問のままもう一度崖の上に目を向ける?
「きゃああああああああああぁぁぁぁぁぁーーっ!!」
絶叫しながら真っ逆さまに落ちていくアリエッタの姿があった。
どうやら足を滑らしたらしい。こんなところでなんてぽかをしてくれやがるんだ!
「姫様ーーっ!!」
「助けるんだ!」
「行くぞ!!」
「せーの……」
「「「うりゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーっ!!」」」
なんとバラ騎士団もアリエッタを追いかけるように崖から飛び降りやがった。
けっこうな高さである。このまま地面に激突したら命の保証なんてない。
「先輩!」
「わかってる。やるぞ」
俺とネルは防御魔法を騎士団全員にかけていく。人数が多いから大変だ。
さらに回復魔法も準備しておく。ここまでできるのは後輩の助けあってこそだ。
「あ」
今度は誰の声だったのか。またネルかもしれなかったし、ノエリアさんかもしれなかった。いや、俺だったかもしれない。
ガコーン! とアリエッタの体がドラゴンの脳天に直撃した。
けっこうな高さからの落下。それに重たそうな騎士の鎧。さらには俺とネルの防御魔法で硬度もアップしている。
それはドラゴンをふらつかせるには十分だったようだ。
そこへ追撃とばかりに騎士団が何十人も降ってくる。
全員アリエッタと同じ、いや、体重があるだけこっちの方がダメージがでかかったかもしれない。
それらが雨あられとドラゴンに降り注ぐ。
ドカンドガンバコンガボン!
硬いもの同士が当たる音が響いた。
騎士団が地面に倒れているころには、ドラゴンもいっしょに倒れてしまっていた。
こうしてドラゴン討伐を果たしたのであった。……こんなんでいいんかい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます