4話目

「演習のためにここまで来たのですか?」


「そうなのよ。私が鍛えてあげないと騎士団は強くならないから」


 十代であろう小娘に言われても騎士団の皆様方はとくに渋い顔はしなかった。


 お嬢さんことアリエッタはいちいち偉そうである。たぶん甘やかされて育ったのだろうと予想する。


 俺には関係ないし、とか思っていたけれど、仕事を請け負ったからにはそういう相手でもしっかりとやることやらなければならない。


 このバラ騎士団とやら。目的はさっきの言葉通りの演習らしかった。


 新米っぽい奴らが多いのも納得だ。それがずらりと三十人ほどいる。


 ほとんど男ばっかり。それでバラ騎士団と名乗るのは詐欺ではなかろうか。ちょっとは女の子がいると期待したのに、アリエッタ以外は男だけである。詐欺だろ。


 バラ騎士団はモンスターとの戦闘で経験を得ようとしている。なので俺たちプリーストは戦いで負った傷を治してやるのが仕事である。


 楽勝! と言いたいところだが、いつものパーティーと違って三十人の規模だ。この多さは手間取る可能性があった。


 一応安全マージンを考えて弱そうなモンスターが出てくるところを選んでおいた。この町の冒険者なら初心者コースと呼ばれる森だ。新米ばかりとはいえ騎士団を名乗るのだから大丈夫だろう。


 ……と、俺も思ってました。



「ぐああっ! いってぇーーっ!!」

「あのモンスターなんだよ!? 牙生えてんぞ!?」

「よ、鎧が重くて走れねえ……」

「た、盾が重くて戦えねえ……」

「うひゃー逃げろー! どひゃー! 追いつかれた!?」


 阿鼻叫喚である。


 バラ騎士団の方々。思いのほか弱すぎた。


 ちなみにお相手はスタンダードなゴブリンの方々。背は低いし、大した身体能力はないし、まともな装備をしているわけでもない。初心者冒険者の格好の的になるような弱小モンスターである。


 そんなゴブリンに騎士団は追いかけまわされていた。もうこれ遊ばれてんじゃないかって思える。悲壮すびて笑えねー。


「コラー! 貴様らなにをやっているのよー!! 立ち向かえ! ゴブリンどもを打ち倒すのよ!!」


 アリエッタは元気である。ちなみに彼女は俺たちといっしょに後方から声だけ出している状況だ。


 おかしいな? 騎士団ってこんなに弱かったっけ?


 俺の中での騎士団像はもっとこう……スマートに強かったはずなんだが。これはひどすぎる。


「先輩先輩」


「なんだいネル?」


「騎士団でこれは弱すぎです。はずれを引いちゃいましたね」


「うん。言葉にしない慈悲ってのがあると思うんだよ。俺はさ」


 ほら、横で聞いてたアリエッタがビキビキと青筋立ちゃってるよ。せっかくのかわいい顔が台無しだ。


 とはいえ、


 目の前に広がる阿鼻叫喚の図がなくなるわけでもない。


 これはもう切り上げた方がいいんじゃないかな? ゴブリンだってモンスターだ。下手に騎士団の誰かが死んでしまうのは目覚めが悪い。


 というかこの場合、プリーストの俺たちが死体を葬らないといけないんじゃないの? 本当に目覚めが悪いにもほどがある。


「アリエッタ」


「な、なによ? これはちょっと……本日の鎧の色が悪いからこんなことになってるだけだからっ。いつもはもっとちゃんとできるんだからねっ!」


「そんな今日の占いが悪いから的な言い訳されてもなぁ……」


 もうちょっと実力をつけてから言い訳しなさい! ってのは言わないけどな。


「アリエッタさん。このままでは回復どころではないのでいったん先輩にゴブリンを駆除してもらいますね」


「え? できるの?」


「先輩ならできます」


 そう言ってネルは俺に顔を向けてこくりと頷いた。いや、なに勝手に決めてんの?


 後輩の先輩使いが荒いんですけど。俺の権威っていったい……。


 それでも後輩に頼まれたからにはやらねばなるまい。


 俺はメイスを装備して、騎士団を追いかけ回すゴブリンどもに突貫していくのであった。


 駆除時間はきっかり五分!


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