3話目

 俺とネルが拠点にしている町に騎士団がやってきた。


 騎士団。それは王国が抱える精鋭部隊である。

 そんな立派な人たちがなぜこんなところに? とか思ったら、彼らは騎士団とはいってもなりたてのひよこちゃんらしかった。


 なんだまだザコなのか。と思いつつ眺めていたら、町娘たちからキャーキャーと黄色い歓声が上がった。解せぬ。


 新米だろうが騎士は騎士ってか。けっ。


「先輩。なんか態度悪いですよ」


「べっつにー? 俺は全然気にしてねえしー?」


「プリーストとは思えないほど小さい」


「職業は関係ない、と思うよ?」


「そうですね。先輩ってなんて小さい人間なんでしょうか」


「お、俺を憐みのこもった目で見るなぁっ!」


 いかん。こんなところにいたら後輩に示しがつかない。

 騎士団とか別に興味ねえしな。ちょっと珍しかったから見てただけだし。俺に興味持たれたかったら姫騎士の一人や二人連れてくるんだな。


 騎士団が集まっていた広場を離れる。


「ネルは見ててもいいんだぞ。女の子は好きなんだろ? 騎士団ってさ」


「別に興味ないです。そんなことより私は先輩といたいです」


「お、おう……」


 たまにドキッとさせることを言うよな。ちょっと注意してやった方がいいのだろうか。俺はともかく他の勘違いしちゃいそうな連中がかわいそうだ。


「あなたたちプリースト?」


 声色に尊大な態度を交えながらも、その声はかわいらしかった。


 振り向けば少女が一人。桃色の髪をなびかせた鎧に身を包んだ少女だった。


 端正な顔立ちに気品まで加わっている。顔だけ見ればどこぞのお嬢様だろうかと思っただろう。

 しかし、身に着けた鎧。それはさっきの騎士団が身に着けていた鎧にあった印が刻まれていた。


 こんな子も騎士団なのだろうか。最近の女は強いと聞くが、本当らしい。


「そうですが。俺たちになにか?」


「ふふん。我々バラ騎士団は回復役のプリーストを探していたところなの。あなたたちにその名誉を進呈してあげるわ」


 どどーん、と宣言するお嬢さん。


 なんというか……、こういう輩の下で働くのは悪い予感しかしない。

 さっきの騎士団だったとしたら男ばっかりだしなぁ……。やる気しない。

 それにこのお嬢さん。顔立ちが整っているのは認めるが胸がない。鎧で隠しているが俺にはわかる。そんなもので隠せると思うなよ。


「すみませんが他を当たってください。それでは失礼します」


「へ?」


 お嬢さんは一瞬呆けた顔になった。笑える。笑ったら怒りそうだから笑わないけど。

 しかし、すぐに再起動して俺たちの行方を塞ぐ。


「ななな、なにをバカなことを言っているのかしら? おほほ、私の聞き間違いよね?」


「いえいえあなた様のお耳は異常なしでございますですはい。はっきりお断り申し上げておりますよー」


「こ、この私の命令にしたがえないっていうのっ!?」


 えー、命令だったのあれ?


 これだからお嬢さんは。胸がないからすぐに癇癪を起す。巨乳の女性だったらもっと寛大だ。おっぱいは偉大だからな。


「命令と言われましてもねぇ……ん?」


 どう対処したもんかと頭を抱えたくなっていると、ちょいちょいと袖を引かれた。


「先輩先輩」


「なんだい後輩」


「この人お金持ちそうです。依頼を受けて報奨金をたんまりもらいましょう」


「……がめつい僧侶はいかがなものかと」


 冒険者としては正しいけどさ。


 俺の言葉にネルは頬を膨らませた。


「一体誰のせいでお金に困ってると思っているんですか!? せっかくギルドから報奨金をもらっても先輩がすぐに使い切っちゃうじゃないですか!」


「す、すんません」


 後輩はいろいろと溜まっていたようだ。ここぞとばかりに俺を責め立てる。


 いきなり怒り出したネルにお嬢さんの方がオロオロしだした。見た目大人しそうだから驚きも一入だろう。


「あ、あの……騎士団からしっかり報奨金くらい出すわよ?」


「本当ですか?」


 ずいっと身を乗り出す後輩。必死すぎて同じ聖職者として恥ずかしい。


「でしたらよろしくお願いします。ほら、先輩も」


「……よろしくお願いします」


「え、ええ。こちらこそ」


 そういうことになった。


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