第13話
「しれっと冒険者になるって決めたんだね」
「ま、この村にいてもヒマだろうしな。それに少しは主人公っぽく冒険者目指して無双とかってのもいいかなって」
翌日。リリーと別れ、ゆっくりと街道を歩くハヤテの上でアテナと話をしている。
行きとは違い、風を切って進む疾走感は無いものの、いつもよりも高い視点から見下ろす世界は意外と新鮮味もあるものだ。
「にしても……まさか日本神話の神様もいるとはな」
「色々いるよ、地球の方じゃ全く知られてない神もいるしね」
「まるで監視役みたいだな」
「その言い方はちょっと傷ついちゃうかな。私達は全然干渉できないから、ただ見守るだけの存在だよ。それこそゲームでヘルプって基本的にいつでも開けるでしょ?」
一人でいる時に話し相手になってくれる。というのも地味ではあるがありがたいものだ。
「先に言っておくと、パーティーとかじゃない限り私達の姿は人には見えないからさ。秘話とかささやきって言われる部分も私達を使って再現する事が出来るよ!」
「それは便利だけど……結局アテナに耳打ちしたのを聞かれたら意味なくないか?」
「あんまりにも便利すぎちゃあ強すぎるでしょ? そこはちゃんとそっち側で対策してね!」
「手厳しいけど納得できるな」
そんな会話をしていると、俺達が拠点としている村がもう見えていた。
「エル! よくやったな!」
もう既に報告を聞いていたのか、門番をしている衛兵がそう声をかけてきた。
「結構苦戦したし、1匹逃がしちゃったけど」
「それでも大金星だ! 報酬はもう届いてるから後で取りに来てくれ!」
いくら俺がゆっくり戻ったからと言っても情報が早すぎる。
ゲーム的に考えると、あの村の襲撃クエストを達成した時点でこの会話のフラグが立っているのだろうが、あくまでゲームのようなこの現実の世界でそれをされるのはどこか複雑な思いがある。
「細かい事は気にしなーい」
俺のその心を読んだかのようにアテナが俺の周りをクルクルと回り、軽々しい声色でそう言う。
「アイテム整理とか終わらせたら行くよ。それから……明日あたり、冒険者になる為にミルズに行こうと思う」
「そうか、この村は俺に任せて行ってこい!」
ミルズというのはここから一番近い都市だ。
都市とは言っても特にこれといった特徴もなく、人が多く便利であるという事というある意味で典型的な都市のそれだ。
家へと帰り荷物を整理するが、特にこれと言って用意するものもなく、逆にしまうものもない。
防衛戦でコボルトやゴブリンを大量に倒したおかげでドロップした低品質の武器は多かった。
しかし、アイテムポーチにそれほど大量の武器をしまうだけの容量は当然なく、1本や2本持って帰ってきたところで小銭にしかならない為に何も拾ってきていない。
とりあえず報酬を受け取るだけ受け取り、再び家に戻ってきてベッドへと体を投げる。
目を閉じてみるも眠気は全くなく、意味もなく天井を眺めながら時間がゆっくりと過ぎて行くのを感じる。
「なんていうか……ムービースキップ的なものが欲しくなるな」
「流石にそれは無いかな、エルだけの世界じゃないしさ。とりあえず挨拶回りしてくるのはどうかな?」
「そうだな、ご近所付き合いは大事って言うしな」
アテナの提案に体を起こし、簡単な身支度だけ済ませて家を出る。
正直に言ってしまえば、この村の住人にはそこまで感情移入をしていない。
彼らは俺の事を慕ってくれてはいるのだが、俺には何となくどういう人か分かる程度の知識しかなく、どうにも他人感が抜けきらないものだ。
「お前が冒険者か、そいつはめでたい!」
「はは、ありがとう」
「何だかんだ言ってこの村で暮らすもんだと思ってたんだがな、結構行動力があるもんだ」
「それはどういう意味?」
「はっはっは! 特に意味はないさ!」
挨拶回りに来た鍛冶屋で、あり得たであろう事をズバリ言い当てられる。
あまり感情移入できない人が多い中で、彼と衛兵だけはそれに含まれないところがある。単純に会う機会が多いという事もあるのだろうが、雑ともいえるその性格が俺には好きに思えたからだろうか。
「うーむ、何の餞別もナシってのは味気ないな」
「別に物をせびりに来たわけじゃないし構わないって」
「いーや、俺がそういうのを渡したいってだけだ。俺の為にも押し付けられろ」
「んなメチャクチャな」
巨体を屈めて何やらカウンターの中をごそごそと彼は漁り始める。
仕方がないので店の中の品物を何の気なしに眺めてみると、高額商品の中にひと振りの刀がある事に気付いた。
「すげ……」
値段はなんと300万ウル。しかしその性能は非常に高いものであり、一部のステータスを元にした攻撃力に加えて固定でさらに攻撃力が加えられるというものだ。
「なあ、コレ餞別でくれよ」
「ああ? 無理無理無理無理! いくらお前だからと言っても無理だ!」
「んま、冗談だけどな」
流石に無理か。主人公補正とやらで案外すんなり渡してくれるかと思わなかったわけではないが、少しだけ残念な気分だ。
「ったく、あれは俺の師匠が一番最後に打った刀だ。信用できる上にあの金額を用意できるだけの実力者にしか売らねえって決めてるんだ」
「なるほどな。遺作ってやつか?」
「おいおい、師匠はまだ生きてるぜ? あくまで鍛冶屋を引退したってだけだ」
「なるほどな」
「さて、話を戻して……餞別の方だが」
彼はカウンターに小さな何かを置いた。
「コイツだ」
「ペンダント?」
それには赤い宝石が埋め込まれており、売ればそこそこの値段になりそうなものに見えた。
「そいつは俺の試験策だ。MPをちょっと消費して相手の攻撃を無効化する事が出来る」
「それは凄いな。結構高いだろうに、いいのか?」
「問題があってな、発動させるには相手の攻撃に突っ込む必要があるんだ。分かりやすく言えば普通ならステップを踏んで避けるところを、相手の攻撃に合わせて突っ込まなきゃいけない」
ゲーマーなら簡単にイメージ出来るであろうフレーム回避だ。
回避には無敵になる瞬間が設定されているゲームは結構多く、その僅かしかない無敵時間を使って相手の攻撃をすり抜ける技をフレーム回避と言うのだが、このペンダントはそれを可能にするようだ。
「肝が据わってないととてもじゃないけど使えないな……」
「それに試験はしたんだが、売り物としてはちと危険すぎてな。どうだ?」
「ありがたく貰うよ。もしちゃんと合わせて突っ込んで効果が無かったらクレーム入れに戻るからな?」
「そん時は覚悟しとくさ。元気でな、エル」
「ああ、それじゃ」
ペンダントを首から下げ、後ろ手を振りながら俺は鍛冶屋を後にした
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