第8話 さいしょのイケニエだぁ~れだ?

 大時計が0を刻むと……再び全員先ほどの証言台のような机の前に集められる。


 「それじゃぁ、いよいよ、待ちに待った裁判を始めるぜっ」

 今度は仮面の兎が進行役を勤めている。


 「まずは、狼を処刑するための投票かイケニエゲェムを始めるか、投票しやがれ」

 机のパネルが開き、液晶が現れると……画面に狼の処刑と書かれた文字とイケニエゲェムと書かれた文字が映像に現れる。


 「どっちかを選びなぁ」

 仮面の兎がそう言うと……それぞれがボタンを押す。

 


 「投票が出揃いました」

 兎とは別のアナウンスのような声が響く。


 「狼の処刑投票…0票、イケニエゲェム10票で、イケニエゲェムへ移行します」

 ついに始まる……頭が全くまわらない。

 自分の言葉の重みだけがつきまとう。


 「続けて……パネルに表示された名前を押して誰に投票するか決めて下さい」


 続けて、10名の名前が液晶に表示される。


 周囲を見渡す。

 もちろん、他の人が誰に入れているのかは、盗み見ることは不可能だ。


 私は、自分が宣言した通りに自分の票を自分へ投票するべきなのだろうか。

 私のその宣言通り皆が自分へ投票すると、私自身、信用できているのか……


 そもそも、キョウカから白羊宣言されている立場、私に票が集まる可能性は極めて高い、そんな中で自分に票を入れるなんてこと……



 震える手を何処に向ければ良いかわからなくなる。

 そもそも、誰かが私に票を入れていれば、私が他の誰かに票を入れてもバレない可能性の方が高い……


 そう思った矢先に……


 「イカサマコイン使いまーす♪皆んなの投票先教えてくれるー?」

 リンネがそうウサギに向かいコインを捧げる。


 「受理、てめぇの液晶にだけ、誰が誰に投票したのか表示されるようになったからな、ただそれを誰かに教えるのは違反だぜ」

 仮面の兎はそうリンネに告げる。


 考えがふり出しへ戻る。

 私は私に投票しなければ、少なくともあの男にはバレる。

 

 震える手は、自分の名前に向かう。

 多分、今……この綺麗事を貫けなかったら今後、もう私は私に戻れなくなる……


 ギンと無槻さんは、コインを使わないのだろうか?

 他の投票結果が見えているのであれば、余程票が自分に偏らない限りは、自分が最多数になることも無いし、何より自分に入れた相手がわかるのだから、自分に票を入れさせない抑止にもなる。

 


 結局、2人は動かない。

 

 私は震える手で、自らの名前を押した。

 もはや、後悔するのも遅い。


 「投票が9票出揃いました」

 そうだった、灰場という男性は回答権を失っているんだ。


 大時計の前に大きなモニターが現れると、全員の名前の書かれたまっさらなグラフが表示される。


 「それでは……開票します」

 室内に声が響き渡る。


 「ムツキ キョウカ……1票」

 その声と共にモニターの画面のキョウカの名前の上に羊のマークが一つ映し出される。

 キョウカは特に戸惑うこともなく……興味無さそうに目を伏せている。


 「続けて開票します……クロセ レイス……1票」

 ごくりと生唾を飲む。

 1票は自分で入れた……当然だ。


 「開票します……アオト ギンガ……1票」

 ……ギンは自分で自分に投票したのだろうか?


 「開票します……ミドリキ シンノスケ……1票」

 これで4人の名前の上に羊が一匹づつ表示されている。


 「開票します……マトウ ネネ……1票」

 5票……今のところ……票は割れていない。

 奇跡は起こりえるのだろうか……。


 「開票します………ムツキ キョウカ……1票」

 ……そんな……本当はわかっていたが……

 キョウカは私を見て微かに笑ったように見えた。


 自分に2票……そんな窮地だと言うのに……

 私の綺麗ごとが通らなかった事をあざ笑うように……


 キョウカの名前の上に2匹目の羊が表示される。


 「開票します……クロセ レイス……1票」

 怒り……恐怖……もはや真っ白な頭はまわらない。

 私の名前の上にも2匹目の羊が表示される……

 残る票は2票……


 「開票します……シシド リンネ……1票」

 心臓の音がバクバクと鳴り響く……

 残る票は1票……

 

 「開票します……」

 私かキョウカの名前で全てが決まる……

 自分の心臓の音で……スピーカーの声が上手く聞き取れない。


 ……画面に羊が表示される……

 目が見開く……


 「同票者……3名、3名で決戦投票をおこないます……」


 画面に残った3名の名前……


 ムツキ キョウカ  2票

 クロセ レイス   2票


 ……アオト ギンガ 2票


 3名での……決戦投票。


 「最初に言ったように……決戦投票では、最初に入れた人間に投票できねーからな?」

 ……キョウカは?ギンは?いったい最初に誰に投票したのだろうか?

 ギンもキョウカに入れていなければ……そんな酷い期待……


 「ムツキ キョウカさん…… アオト ギンガさんへの投票権はありません」

 スピーカーから流れる声。

 最初……キョウカはギンに投票していた?


 「クロセ レイスさん…… クロセ レイスさんへの投票権はありません」

 続けて流れる声。

 

 「アオト ギンガさん…… ムツキ キョウカさんへの投票権はありません」

 ギンとキョウカは互いに票を入れていた……


 そこで状況を整理し……私は顔が青ざめる。


 キョウカはギンへ投票できない。

 ギンはキョウカへ投票できない。


 それはすなわち行き着く投票先は……


 ギンは思いつめたように天井を眺めている……


 仮にギンが自分へ投票したとして……

 キョウカとギンは……イカサマコインを所持している……

 票を1票無効化にできるんだ……


 私がキョウカに投票したところで票はかき消される。

 キョウカの入れる先は私しかない……


 すでに勝敗は決まっている……

 青ざめる……頭が真っ白になる。


 きれいごとで入れた……1票……

 結果がこれだ……


 「投票してください……」

 映し出される……パネル。

 私の手は黙って……ムツキ キョウカのパネルをタッチする。


 「あーーーーーーーーーーーーーーっ」

 天井を向いていたギンが急に叫ぶ。


 ギンは私の方を向く……


 「……レイ……ばればれだったかも知れないけど、ずっと、ずぅーっとお前の事が大好きだった」

 恐怖に震えるえながらも懸命に笑い顔を作るギン……

 なんで……これから死にいく人間になぜそんな残酷な事を言うの?


 助けてくれるって……こんなの絶対に無理じゃない……


 「フフ、ハハハハ……毎度あり」

 そんな様子を見ながらキョウカは謎に言葉を発する。


 「あああああああああああっ!!」

 気が狂ったようにギンは叫ぶと、パネルをタッチする。


 「全ての投票が揃いました」

 アナウンスが流れる……

 震える……結果など見たくない……

 天井を眺める……ギン……私への懺悔だろうか……


 「開票します…… ムツキ キョウカ…… 1票」

 私が入れた1票……

 新たにキョウカの名前の上に羊が現れる。


 「キョウカさん……イカサマコイン使用によりこの票は無効化されます」

 そうアナウンスが流れると、今表示されたばかりの羊が消える。


 「開票します…… アオト ギンガ…… 1票」

 ……ギン、自分で自分に投票したのだろうか……

 でも、それもイカサマコインで無効化される……

 そして、どちらにせよ……キョウカの入れる票で私は……


 「開票します……」

 全てが終わる……

 このイケニエゲェムの最初の被害者……


 終わる……何もかも……

 こんな訳のわからないまま……


 何が起きているかわからないまま……

 彼の言葉に答えられぬまま……


 終わるんだ……私の人生は……


 ………


 「……… アオト ギンガ…… 1票」

 …………はっ?

 何かの聞き間違いか?


 ギンの方を向く。


 「……レイ……」

 ギンは震えながら私に笑いかけ……


 「俺、馬鹿だからさ……レイを助ける方法……これしか思いつかなかった」

 ……えっ?

 理解が追いつかない……


 「ムツキ キョウカ……0票 クロセ レイス……0票 アオト ギンガ……2票」

 ……えっ?

 何がどうなれば……なんで……?


 「今回のイケニエは……アオト ギンガさんに決まりました」

 ……なんで?どうして……?


 ギンはイカサマコインを自分に使わなかった。

 キョウカは私に投票しなかった……なぜ?


 イカサマコインの使用効果……仮面の兎の言葉を思い出す。


 1つ目……自分に入った票を1票無効とする

 2つ目……別の人物から投票権を買い取ることが出来る、正し相手はそれを拒否することはできる

 3つ目……全員が誰に投票しているのかを覗く事ができる、ただしそれらの内容を別の誰かに伝える事は禁止

 いずれか、1つの権利を選択して得られる


 途中……キョウカが言った謎の言葉……


 「……レイ……大好きでした……もっと、もっと前に……気持ちを伝えておけばよかった……」

 ギンは震える声で……


 ピッピッという音が響き……ギンの首から赤い光が点滅しだす。


 「……レイ……バイバイ」

 ギンはそうにっこり微笑んだ。


 「いやああああああああああーーーーーーーっ!!」

 私は信じられない声でその場で叫ぶと、ギンの方に駆け出す。


 「おっさんっ!!」

 ギンがそう叫ぶと、赤桐が私の前に立ち塞がる。

 

 「いやああああっ、ギン、ギンがぁ、どけ、どけろよっ!!」

 乱暴に赤桐を殴り引っ掻き、髪を引きちぎるように目の前の男をどかそうとするが、私の身体をがっしりと掴み赤桐は離さない……


 「おっさん……ありがと、レイの事……宜しくな?」

 そうギンは赤桐に告げる。


 「いやぁーーーー、ギン、ギンを助けて、助けてよぉーーーーっ」

 必死に手を伸ばす……届いた所でどうにもならないとわかっていたが……


 「……ギン君、君は馬鹿だよっ……わかった、任された」

 赤桐は目の前の女性の動きを止めてることしかできない不甲斐なさを嘆くように叫ぶ。


 「………よかっ………」

 ………た。の言葉は聞き取れず……眩しい光と……大きな音が鳴り響いた。


 「いや……あぁ……いやだ……嫌だよ……ねぇ……ギン?」

 起こった現実を受け止める事ができない……


 「うそ……だよね?……またいつもみたいに笑いかけてくれるんだよね?」

 ……理解していることが理解できない。


 「……ねぇ、答えてよ……ギン……ねぇ……」

 ……わたしは……きれいごとなど捨てて……キョウカに投票していれば……


 

 「……残酷ね、生贄ゲームってのは……本当に人を殺すゲームみたいね」

 ……は?冷静に語る女……ふつふつと起こる殺意に近い感情……


 「お前がアァァァ、お前がギンを殺したのと一緒だろぉ!!!」

 私は女に乱暴に掴みかかる。

 女は抵抗することなく、私の暴挙を受け止める。


 「……とんだ、被害者面ね」

 キョウカは冷たく見下し私を見ている


 「……なんで、なんで……」

 なんで……こいつはそんな言葉を平気で……


 「私が残酷な狼にでも見えるかしら?」

 ちっとも罪悪感を持たず……私の怒りにも恐れる事もなく……


 「私からすれば……そんな被害者面できる貴方が残酷な狼に見えるわ」

 キョウカの言葉が全く理解できない……こいつは……


 「だって、そうでしょ?」

 そんな疑問系の言葉……こいつはナニを……


 「貴方は……自分と彼のために私がイケニエになって死ねば良かったと、そう言ってるのよね?」

 凶器に満ちて睨みつけていたレイスの目は途端にキョウカから逃れる。

 ずるりと行き場の失った腕の力と共に私の身体は床に崩れ落ちる。


 「貴方たちと同じ……私も生き残るのに必死なの」

 キョウカはそう言い捨て、乱れた服とメガネを直すとその場を立ち去る。


 気がつくと大時計は再び12時間を刻み始めている。


 ……キョウカは生き残るのに必死だっただけだ……

 そんな必死の生き残りの駆け引きに私は負けて……

 そんな私のために……ギンはその身を犠牲にしてくれた……


 そうだ……ギンを殺したのは……私だ……


 最初のイケニエ……そう最初……終わりではない。


 あと……何回繰り返される?


 いったい……何の意味がある?


 ねぇ……ギン、お願い答えて……。

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