第14話 思い出してます
うちに泊まることになっていたミカエラだったけれど、究極魔法の練習のため光の勢力に戻ることになった。
「そういうわけで、やっぱり帰らなきゃいけなくなっちゃった。ゴメンね、サキ」
「あ、ううん。予定があるなら仕方ないよ。また遊びに来てね」
「……うん!」
……ん?
今、返事に少し間があったような気が……。
「光の聖女は大好きな闇の元帥さんに呼ばれればたとえそこが地獄の底だとしてもすぐに駆けつけますから! とう!」
「わっ!? Web小説のタイトルみたいなセリフで、いきなり飛びつかないで! あと、ちょっと苦しい!」
「えへへー、ゴメンね!」
自分の頭をコツンと叩いて舌を出す表情は、いつも通り無邪気なものだった。
返事に間があったと思ったけど、気のせいだったのかな……。
「それじゃあ、闇の元帥さん! 自分たちはこれで失礼するっす!」
「またね! サキ!」
「あ、うん。二人とも、気を付けて帰ってね」
光の聖女とルリは軽く頭を下げると、部屋を出て行った。
それにしても、究極魔法の練習か……。ゲームではたしか、エンディング間際のイベントで究極魔法関連の話が出てきたな。えーと、それで闇の元帥ルートの場合だと……。
光と闇の両勢力に狙われる光の聖女が、絶体絶命のピンチを迎える。
闇の元帥が助けに入り、その場を切り抜ける。
逃げ出した先にも、光の勢力の大軍が待ち受けている。
ピンチを切り抜けるには、究極魔法を使うしかないということになる。
究極魔法の詠唱をはじめると、光の勢力からの攻撃が始まる。
ここで戦闘、(弾幕を避けるだけ)が始まる。
戦闘に失敗すると、戦闘前からやり直し。
成功すると、あと少しで究極魔法の詠唱が終わる、という場面になる。
そこで、光の勢力の攻撃が飛んできて、選択肢が三つ現れる。
一つ目の選択肢は、「きゃあっ!?」という悲鳴。
これを選ぶと、闇の元帥が光の聖女をかばって、攻撃を受けてたおれる。
駆け寄ろうとする光の聖女に向かって、闇の元帥が厳しい表情を向ける。
私に構わず詠唱を続けろ、と一喝されて、光の聖女が涙をこらえながら詠唱を続ける。
その姿を見て、闇の元帥が安心したように微笑む。
お前と出会えて良かった、という言葉が耳に入ると同時に、究極魔法発動。
あたりが真っ白になり、しばらくして現実世界の自室の風景に変わる。
光の聖女が首を捻りながら、なんだか長い夢を見ていた気がする、というお決まりのセリフを言う。
光の聖女が日常に戻る中、お前が幸せならば私はそれで良い、という声がどこかから聞こえる。
……という、バッドエンド。
二つ目の選択肢は、「元帥さん、危ない!」というセリフ。
これを選ぶと、光の聖女が闇の元帥をかばって、攻撃を受けてたおれる。
元帥が駆け寄り、光の聖女を抱き寄せる。
涙ながらに、なんでこんなことをした、と問いかける闇の元帥に、光の聖女が微笑む。
光の聖女が、私は元帥さんにも幸せになってほしいんです、と言いながら最期の力を振り絞る。
究極魔法が発動する。
あたりが真っ白になり、しばらくして現実世界の自室に似た風景に変わる。
その中に、なぜか闇の元帥が立っている。
闇の元帥が戸惑っていると、夕食ができたという母親の声が聞こえる。
闇の元帥は、自分が女子高生だったということをおぼろげに思い出す。
違和感を抱きながら日常を過ごす闇の元帥に、私は貴女に穏やかに生きてほしいんです、という声が届く。
……というバッドエンド。
三つ目の選択肢は、「それでも、私は諦めない!」というセリフ。
これを選ぶと、いきなり戦闘が始まる。
弾幕を避けボス的な敵にたどり着くと、究極魔法が発動。
あたりが真っ白になり、戦闘が終了する。
しばらくして、現実世界の学校の風景が現れる。
光の聖女が戸惑っていると、ようやく起きたか、という声をかけられる。
声の方に顔を向けると、学ランを着た闇の元帥が立っている。
闇の元帥が、究極魔法は凄まじいな、と苦笑する。
光の聖女が泣きながら抱きつく。
闇の元帥が優しく微笑む。
これからもよろしく、的なセリフと共に頬を寄せ合う二人のスチルが映される。
……というトゥルーエンド。
ちなみに、トゥルーエンドを迎えるためには、闇の元帥との好感度が最大値近くになっていないといけない。
……うん、思い出してみると、トゥルーエンド以外は、けっこう切ない話だ。それでも、光の勢力と闇の勢力が和平に向かっているなら、あのバッドエンドになることはないはずだ。
というか、そもそも和平に向かっているなら、究極魔法を覚える必要もないはずなのに……。
光の聖女様は闇の元帥さんのために、過酷な究極魔法の練習を始めたんすよ!
……ルリは、確かにこう言っていた。
私のために究極魔法を使いたいってことは……、二人で元の世界に帰るために使いたいってこと、かな?
それだと、気持ちは嬉しいけれど、ミカエラばかりに負担がかかってしまうような……。
「元帥、いかがなさいましたか?」
「あ、うん。ちょっと考え事してて……って、うわぁ!?」
「わぁっ!?」
驚いて顔を上げると、私と同じくらい驚いた顔のヒスイがいた。
「お、驚かさないでくださいよ、元帥」
「ご、ごめん……じゃなくて、悪かったな、ヒスイ」
「いえいえ。それより、先ほど光の聖女殿がお帰りになりましたが、何かトラブルがあったのですか?」
「いや、究極魔法の練習があることを忘れていたから、帰っただけだ」
「それなら安心いたしました。お二人がいい感じのムードになっていたので、私が目を離したすきに、どちらかが事を急いて、いたたまれない空気になった結果お帰りになったのかと……」
「何という心配をしているのだ、お前は! というか、覗いていたのか!?」
「はい。お二人の身に何かがあってはいけませんから、透視魔法で監視しておりました」
ヒスイはまったく悪びれることなく、そう言い放った。
いや、まあ、仮にも闇の勢力No.2と、光の勢力の要人が二人きりだったのだから、用心するのは仕方ないのかもしれない。それでも、私だってそれなりに魔法を使えるのだから、もう少し放っておいてくれても……。
あれ? そういえば……。
「なあ、ヒスイ、少し聞きたいことがあるんだが」
「はい、何でございますか?」
「ああ、その究極魔法というのは、私も練習をすれば使えたりする、のか?」
我ながら、馬鹿げた質問だな、とは思う。それでも、一緒に元の世界に帰るのなら、ミカエラだけに負担をかけるのは良くないしなぁ……。
「あ、はい。もちろん、可能でございますよ」
「そうか、やっぱりダメか……って、えぇっ!?」
予想外の言葉に、思わず某国民的アニメの旦那さんのような声を出してしまった。
えーと……、究極魔法って、本当に練習でどうにかなるものなんだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます