第6話 ゲームの始まり
予定通りクソ長い道程の先、辿り着いたNE-WS。
シンボルである巨大プラントタワー“LT”を見上げながら、鴨の子供みたいに並んで走るバンの一台に揺られていると、ブレーキをかけたバンの慣性負荷が身体にかかる。
「到着しました。
前方の席の方より、焦らず案内に従って降車して下さい」
この海上都市は表向きには労働、環境問題対応を目的に謳ったプラントだ。
ソーラーや風力を中心とした自然エネルギーにより発電。
電力でAIロボットに島の管理をさせる。
自然保護の為に建設された人工海上都市といえば、まるで善意の行動に聞こえるが、企業がやることだ。裏には当然利益が見込まれている。
別に悪いことだとは言わない。
何かを造れば金がかかる。
経営者が責任感ある経営者なら、給料を払うべき従業員の為にも、使った金を回収しようとするのは寧ろ普通だろう。
このNE-WSでは島に客からのチケット代がそれに当たるわけだ。
ゲーム会社として最先端のゲームで話題をつくり、集まった客から金を集め、その金でこの島を維持しつつ、AIロボットという新しい分野を開拓する。
自然保護で企業イメージも急上昇ってわけだ。
緑豊かでありながら、一方でまるで都市のようにそこかしこにビルが建ち、整備された道路が立体的に島中を繋いでいる。
自然と人工の調和。
完成されたデザインというのはこういうことを言うのだろう。といってもまだ建造途中だが。
というか、偉そうに言える程俺に美術的感性があるわけじゃないがね。
バンから降り、案内人に従って歩を進める。
「本日はお疲れかと思いますので、このまま皆さんがお住まいになられる住居の方にご案内致します」
「助かりますね。流石に乗り物疲れがキてますし」
「俺も。ずっと座ってたんで腰に来ちゃって……」
案内人の言葉に安堵しながら話し掛けてきた築世さんに、頷きながら腰の痛みを訴える。この年で一日中座りっぱなしは腰にキツイ。
ベッドの上で身体を伸し、熱いシャワーで疲れをとりたいところだ。
初めて来たご自慢の島に興味がないわけじゃないが、だからといって観光する気には全くなれない。俺以外の連中もしたいという奴はいなそうだ。
島はまだ開発途中で、客の為のホテルや店もまだ建設中のものが多い。
建屋自体は完成していても店は開いてない。
つまり現状、島を巡ったところでビルと道路と森を見て終わるのが解っている。
隅々まで散策しても仕方ない。
その辺りを皆わかっているのだろう。
或いはそもそも仕事で来た身。弁えただけかもしれないが。
◇◆◇◆◇
俺達がこれから過ごす社員寮ビル。
一通り各施設を案内して貰った上で部屋へ。
今日はこれで解散、後はご自由に、ということらしい。
「各部屋のクローゼットに各自のサーバーダイビングスーツを用意しています。
明日は7:30までに1階のロビーに集合して下さい」
部屋は3畳位だろうか? 部屋がほぼベッドで埋まっている。
ベッドの横にすぐデスクがあり、ベッドが椅子の変わりも兼ねている。
カプセルホテルみたいな部屋だ。
デスクの上にはキーボード付きのタブレット。
それと一応壁に小さいクローゼットがある。
ここでの生活は基本ゲームの中になることもあり、俺達の現実の部屋はとにかくコスト重視のようだ。
事前に資料で知っていたのでガッカリはしていない。というか、宿無し生活を送っていた俺からすればベッドのある場所で寝れるだけ、むしろ有り難い。
共同のトイレとシャワー室が各階にあり、1階には大浴場がある。
1階には食堂と販売所もあり、ひとまず生活に不自由はなさそうだ。
「何号室ですか?」
「俺は315号室です。築世さんは?」
「俺は339号室ですね」
俺達は第一陣。
この後の追加人員を考え、ビルは余裕を持って造られた上に部屋は狭い。
全員同じ3階だから、「同じ階ですね」なんて喜び合ったりはしない。
「一緒にメシ行きません?」
「ええ。行きましょう」
「じゃあ、部屋に荷物置いたら行きましょうか」
正直一人で良かったのだが、まあこういう付き合いが大事って会社で植え付けられているせいか、ぱっと了承してしまう。
これって職業病って呼ぶのだろうか? 只のNOといえない日本人?
ゲームでも一緒に行動しませんか? とか言われたらどうしよう?
俺、基本ソロ指向なんだよなぁ。一人で気楽にやれるから受けた仕事だし。
ていうか本格的なオンラインゲーム、基本やらんし。
一人用のオフラインコンシューマゲームが一番好き。
しかたなく荷物を置き、築世さんと食堂へ行く。
互いに疲れていたからか、飯が不味いからか、余り会話もなく夕食は終了。
「今日はシャワー浴びて、さっさと寝ましょうか」
「そうですね」
欠伸混じりにそう言いながら、部屋に戻った。
よかった。
◇◆◇◆◇
宿から職場までは歩きだ。
マスクやセンサーは職場で装着するらしいが、股間に金属とプラスチック装置を装着したラバースーツっぽい何かを纏った集団が、100人で行列つくって外を歩く様は中々に異様だ。
エアシャワー、消毒槽などを通り、俺達の職場に到着。
資料通りの水槽が並ぶ、SF映画のような光景に少し息を飲みつつ、指定された水槽へ。
どの水槽でもいいらしいが、集められた100人の中には女性もいる。
その配慮としてか、水槽は指定されていた。
水槽に管理No.があり部屋No.と同じにしてあるらしい。
こういうちょっとした配慮が有り難い。前の会社に本気で見習えと言いたくなる。
水槽の横には小さいテーブルがあり、その上にマスクが置いてある。
マスクやセンサーを一緒に置いてあるマニュアルの通り装着し、水槽に入る。
水槽に入り股間にホースをがっちゃんこ。
マスクをつけて真っ暗になった世界で、ブーっとサイレンが鳴った後、培養液が水槽に流し込まれるのが解る。
『それでは起動します。
皆さん、よき異世界生活を』
放送と共に真っ暗だったマスクが映像を映し出す。
まるで宇宙映画のワープシーンの様な光の本流を抜ける。
『ようこそ、私の世界、ハーネットへ……』
「う、あ……」
そして目の前に突如現われた女神様。
見上げる程にデカい青い空を背景に光輪を背負った姿は、説明はないけど女神様だとすぐに解る。
あまりのリアルさとデカさに驚き、呻いている俺に構わず、女神様はエコーの効いた声で俺に語りかける。
『この世界に迷い込んだアナタに、新たな肉体を授けましょう』
アバター作製が始まった。
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