陰の8
『男って、だらしないものね。いざとなると尻込みしてしまうんですもの』
いらついた口調は相変わらず、また煙草に火を点け、煙を吐き出して言った。
そうして彼女が凶器も用意し、自分はアリバイを作って家を空けている時に夫を殺害してくれるように頼むと、彼は、
『やはり、僕は出来ない』と言い始めたのである。
”貴方を愛してはいるけど、ご主人を殺すなんて・・・・”
後はもう、彼女が何を言おうとダメだった。
『それだけじゃないのよ。彼ったら・・・・』
小出亜矢子はまだ半分も喫っていない煙草をもみ消し、再び火を点けようとしたが、生憎もう煙草はなかった。
いらついたようにラッキーストライクのパッケージを手で捻り、床に叩きつける。
(僕はこのことを警察に訴える)彼はそう言いだしたのだという。
”男なんかもう当てにできない”そう思った彼女は、自分でやってしまおうと考えたが、その前にまず、保を何とかしなければならない。放っておくとこの男は本当に
警察に自首して出るだろう。
彼女に迷いはなかった。
『男の遺体はどうしたんだね?』
俺が聞くと、彼女はその質問に答えず、ジョージに、
『運転手さん、煙草くれない?』ときた。
ジョージは気色ばんで怒鳴ろうとしたが、俺はそれを制し、新しいラッキーストライクを出させ、再びこちらに投げてよこした。
『簡単なものよ。睡眠薬を混ぜた酒を呑ませて酩酊させてから、山の中に連れていって・・・・』
『そこで射殺したのかね?この拳銃を使って』
俺は
『そうよ』
彼女はこともなげに答えた。
あとはアリバイ工作だ。
筆跡を見破られないように、わざと自分に向けて脅迫状を書いたり、保の家族に送ったのも、全て自分の仕業だと、淡々とした口調を、煙と共に吐き出した。
俺はそこでレコーダーのスイッチを止める。
これ以上聞いても意味がなかろう。
『俺はこの録音を持って警察に行く。正義の味方を気取るつもりはないが、犯罪を座して見逃すわけにはゆかん。それが免許持ちの探偵の義務だからな。また、くどいようだが・・・・』
彼女は新しいパッケージから二本目をつまみ出し、火を点けた。
『分かってるわよ。今喋ったことが私にとって不利になるかもしれないっておっしゃるんでしょう?どっちみち私はもう、何もかもうんざりしていたのよ。
どうなったって知ったことじゃないわ』
彼女は二本目を喫い終えると、腕組みをし、怪しげな笑みを浮かべながら言った。
『さあ、いいわ。警察でもどこでも連れて行って頂戴。でも言っとくけど、私、男をたぶらかすのって得意なのよ』
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