第196話あなたの代わりになれる者はどこにもいませんよ…?

  久守が既に自分と小夜の関係を知れていたはずなのに、どうしてわざわざ自分が下していたミッションに身を投じていたのかが不明瞭になっているように思えている竜祥は軽く赤くなっている鼻を啜っては、軽く頷いて言う、「まぁな…」彼の微かに戸惑っているような態度を感じていくと、口角を軽く上げられているような気がしてならないでいる久守は目を細めながら、ぽつりと重たく感じ始めている唇を開けていく、「可笑しいって思うのでしょ…」やけに小さくなっていく久守の声に心を責められているように感じつつ、腕の中にいる彼女に軽く耳を向けていく竜祥。


  宛ら自分の体を太陽のように温めてくれているような竜祥の存在に心臓を無くしてもいいようにと思い始めている久守はチラッと目を細めては、静かに自分が紡ぐ言葉を待ってくれている彼の横顔を見上げていき、「どうしてそんな事が分かっているのに…」両足を凍えていくような感覚が段々黒い穴と化しているようにと脛を奪っては、徐々に冷やされているようにと思えてしまう心臓に向けて来る事を気にすることなく、彼がちゃんと自分の傍にいてくれると言うのなら、自分は決して倒れてたりはしないんだと思っている久守、「まだあなたが下していたミッションを実行しようとしていたのかって。」


  久守のまるで自分の内心での考えを読み取れてくれているような言葉と、まるで彼女が考えている自分の内心は、間違っていないと言い切っているような平然としている口調に強張っているような口角を軽く上げられているような気がしてならないでいる竜祥、「お前は優しいから、」軽く歯を噛んでしまう彼は風に靡かせていく淡い紫色の髪の毛から漂って来る甘い苺の香りをぼんやりと嗅いで行きつつ、軽く顎を引いては丁寧に彼女の顔を見つめながら、彼女を支えていく、「別に俺の恋を芽生えることが出来なくとも、」涙に濁されているような紅の瞳の中にある自分の事をぼんやりと見つめては、自分がただ佇んでいるだけでも彼女は死んでいくんだと考えている竜祥は、定めていたことはどうしようもなくとしても、せめて彼女の精神を安定させてから死の世界に向かわせて貰おうと思っている彼は、無理矢理淡い笑みを浮かべようと思い、彼女の顔を凝視しつつ言葉を紡いでいく、「やはり民衆の精神の為にミッションをこなそうと思っていたのじゃないのか?」


  「えへへ…」宛ら子供を宥めているような口調で自分に話しかけてくれては、自分のことを褒めてくれている竜祥の存在に胸元の奥をくすぐられているようにと感じている久守、目を細めては軽く首を横に振ろうと思っている彼女はぽつりと渇いた唇を開けていき、「それもあるけど、」額が凍えては上手く物事を考えられなくなっているような感覚に打ちひしがれてしまいそうにな気がしてしまう久守は、何度も寒風に冷たくされては、勝手に鼻水を垂れていく鼻に不満を覚えつつ、自分にはまだまだ目を瞑ってはならないと強く考えている彼女は言う、「でも流石に危険だとは…思いますよ…?」


  久守が自分が考えていた彼女が行っていた行動に一番適していたはずの答えは、少しばかり間違っているんだと教えてくれている言葉に困惑気味になれては、ぼんやりと頭を下げていた竜祥は、別に顎を引かなくとも彼女の唇に聴覚を集中していけたら、色んな人から力を手にして来ていた自分には全然彼女が呟いている風より小さく聞こえてしまう声を聞けるんだとぼんやりと考えて行きつつ、自分の思考回路は鈍っているんだとぼんやりと考えている彼は黙々と震えているような彼女の肩を強く握りながら、自分から放さないようと胸元を当てていく。


  「別に雷に殺されるとか…」上手く自分に息を吸わせてくれないでいるような冷淡にも感じてしまう彼の胸元で温めていた空気を嗅いで行きながら、ぽつりと補足する言葉を足していく久守、「そう言うのではなく…」竜祥が強く自分の体を何度も抱えてくれている様を思うと、もともと一ヶ月ぐらいの時間しか残されていいなかった自分たちには到底世界が可笑しくなる前のようなカップルのように、付き合っていけないんだとぼんやりと考えていた久守、竜祥が自分の胸元にある物を物理的にも精神的にも奪っていたおかげで、今、彼に抱えられて貰えている自分たちはカップルっぽいんだと思えている彼女、「ほら、」遅かれ早かれ多分一ヶ月ぐらいの命しか残されていないのであろうとぼんやりと考えていた久守は、シルエットに残されていたかなり限られていた時間を、今に凝縮していくぐらいに、輝く一秒、一瞬、を過ごしていこうと強く思っている彼女は、死ぬまでは、せめて竜祥と自分なんかよりずっと竜祥の事を分かっているように思い始めている斗奴雷の仲を少しでも直していけたらと、ぼんやりと考えている彼女は言う、「ただ歩くだけでもいつどこで誰かに襲われてしまうのかが分からなくなっていた世になっちゃいましたからさ…」


  「じゃ…」久守が自分が彼女に下していた任務は厳酷なものだと知りながらも任務を承っていたことに困惑気味になれては、思わず眉間に皺寄せてしまう竜祥は横目で彼女の顔を見つめていく、「どうしてなんだ?」竜祥が自分に投げて来ていた核心に触れていたような話に口角を上げられているように感じている久守、「あたしね…」必死に閉ざそうとしている瞼に抗って行きつつ、彼の顔を見つめていく彼女はぽつりと声を発していき、「鼻が鋭いのですよ…」


  久守が自分に返してくれていた訳の分からなくにも思えてしまう竜祥は、思わず彼女はさっき思わせ振りな台詞を紡いでいた自分に対して意趣返しでもしに来ているのではないかと呆然と考えて行きつつ、自分の考えに口角を上げられているように思っている彼は苦い笑みを浮かべて行きながら、無邪気な笑みを見せてくれている彼女に尋ねていく、「本当か?」「本当ですよ…」竜祥のまるで自分の事を見守ってくれているような微かな光が過っていく赤い瞳を見つめている久守は、微笑みながら当たり前のようにと軽く頷いて言う、「スタンドハンガーに小夜さんのダウンジャケットがあったのでしょ…?」


  ”ドクンー”刹那、久守が自分に返してくれていた返事に見開かされては、否応なしにあんぐり口を開けていた竜祥は、自分の不意を突かれているような態度を楽しんでくれているようにと微笑んでくれている彼女の紅の瞳の中にある自分の顔を見つめていくと、思わず自然に彼女を家に誘っていた自分にはまったく小夜が残していた物を片付けていなかったんだと思い返されている彼。


  「その服には…」霞んでいる視界を頼っているようにと竜祥の顔を見上げて行きつつ、彼が自分を別荘まで誘ってくれていた事を思い返していく久守は彼の体から漂って来る薄荷の香りに身を包まれているように思えては、自嘲気味に笑っていき、「なんかあなたと似ているけど、」自分の鼻の話を信じ始めているようにとあんぐり口を開けている竜祥の顔を見つめていく久守、「ちょっと違っていた薄荷の匂いをしてたんだから…」いつも凛として人々の前で振る舞っている彼に驚かされる程の事を成せていたんだと思うと、つい嬉しく思えては、笑って見たくなっている彼女は言う、「彼女が亡くなっていたことを知れた時に、」頭がぼんやりとしているように思いつつ、自分が一人でずっと彼の別荘の物事を観察しては、夜な夜な分析していた言葉を全部彼に言っては確かめて見ようと思っている久守、「ちゃんと彼女のコートをスタンドハンガーから外すことなくそのままにしているあなたが、」腹部まで滲んで来る自分の体を無くしているような不思議な感覚に心を苛まれつつ、もう少し竜祥と話をしていきたいと強く願っている久守は辛そうにと軽く眉をひそめていき、「やっぱり好きな人に滅茶苦茶優しくて…」


  久守のまるで自分に軽く握られては、戦慄している右手につられては震えているバタフライナイフに苦しめられているような表情に、眉毛を上げられているように思えては、急いでまだ自分に重要な話をいっぱい話て来ようとしている彼女を、自分から与えに行った死から守ってやろうと強く思っている竜祥。”フー”忽然、まるで自分の眉毛をひそめていた行動に応えてくれているようにと否応なしに右手を自分の胸元を固定しに来ていたひんやりとした物から離れては、丁寧なまでに胸元にある命を奪って来ている物に胸元を当たらないようにと軽く上半身をずらしてくれている竜祥の気遣いに、口角をくすぐられているように感じてしまう久守、軽く空気を吸い込んでいく彼女は喉を詰まらせに来ているような鉄さびの臭いに苛立ちを覚えつつ、彼の事を永遠に傍で見てあげたいと願っている彼女は言う、「あなたは可愛い人間なんだって…思いましたよ…?」


  自分にこき使われては、死への縁まで追い詰められている久守が未だに自分に好意を向けてくれては、自分でも自分がやっていることを疑ってしまいそうな作戦を強く信じてくれていて、ちっぽけな復讐にしか思えなかった作戦を全人類の為のものだと持ち上げてくれては、自分には小夜の事を強く愛している事を知りながらも、愚かにも思えてしまうぐらいに秘密基地に来ていた彼女のことを罵ってあげたい気持ちになれては、目を細めている竜祥はまるで自分の返事を待ってくれているような彼女の潤んでいる紅の瞳を見ていくと軽く歯を噛んでは、何度も鼻翼に力を入れてしまう彼はごくりと固唾を飲み込んでは、自分は決して彼女が口にしているような立派な人間じゃないんだと強く思っている。


  まるで自分に図星を指さられては、自分の言葉を認めようとしないでいる子供のようなリアクションを見せてくれている竜祥に微笑んで行きつつ、まだ無くしているような思いを課せられているような両足と腹部とは違っていて、ほんの少しだけ力が残されているような気がしている左手に体中の力を集めて行こうと思っている彼女、「ですから…鼻が利くあたしには…」ゆっくりと重りをつけられているようなぐらいに戦慄している左手を上げては、左手を彼の温かい胸元に当てて行く使命があるんだと思えている久守はまるで自分の左手をサポートしてくれているようにと、右手を自分の背中から離れては左手を握ろうとする彼は悪い人のはずがないんだと思っている、「あなたは人を燻るような黒い煙でもなければ、」


  霞んでは、上手く彼の顔立ちを見れなくなっている久守は、まるで紺色の靄に顔を隠されているような彼の事を見つめては、例え彼の人生今まで一番にも思えてしまうぐらいに格好いい顔立ちを無くしても、自分は彼の事を支えていきたいんだと思っている、「深淵なんて言葉にまったく似合わない方なんだってことを…」もう一度彼の頬に触れてみたいと願ってしまう彼女はまるで自分の彼の胸元から離れては、上に上げていきたいと言う気持ちを分かってくれているようにと丁寧に、且つ優しく自分の左手を握ってくれては彼の右頬に当ててくれている様に鼻腔の奥にある痺れは脳に登っているんだと感じている彼女は、ぽつりと艶やかな唇から白い吐息を漏らしていた、「この鼻で分かっちゃいましたのですよ…?」


  ぼんやりとしている眼差しで自分の顔を見つめて来ている久守が紡いだ言葉に目を細められては、軽く口角を上げてしまう竜祥はまるで自分と彼女と話をして行ける時間は刻一刻減っているんだと知らせてくれているような、彼女の胸元から滴り落ちして行く生き血に心を苛まれているように思いつつ、まるで自分を見ているだけでどんな痛みも感じられなくなっているような久守が投げて来ている崇拝している眼差しに困らされているように思えている彼は軽くため息を吐いては、自分の唇から漏れて行く白い吐息を気にすることなく、彼女の事を見つめて言う、「そんなにもその鼻を信じるのか?」


  彼が紡いだまるで自分の考えに抗おうとしているような話に微笑んで行く久守は軽く首を横に振っていき、「ううん…別に…いいんですよ、」胸元が段々冷えているような感覚に困らされては、軽く眉毛をひそめていく彼女はもう少し時間が欲しいと祈りながら竜祥の事を見つめていき、「あたしにとっては…」久守が必死に自分に向けようとしている言葉に戸惑いつつ、思わず小首を傾げてしまう竜祥はぽつりと間の抜けた声を発していた、「何が?」


  左手で感じて来る彼の頬の温度に集中力を傾けていくと、胸元から体中に広がっていく酷く冷たい感覚は少しばかり緩和出来ているように思っていこうと、自分に催眠しているような彼女は自分の顔を見落とすのを怖がっているように自分を凝視して来ている彼に微笑んだ、「神に復讐するための道具でしか見られていないことをですよ。」”ドクンー”刹那、久守が自分に投げて来ていた一言にあんぐり口を開けられているように思いつつ、絶句されていた竜祥はつい彼女は一体どんな思考回路をしているんだと思ってしまい、「お前…」


  自分の捨て身の発言に驚かされては上手く言葉を紡ぐことが出来なくなっている彼に淡い笑みを見せていこうと思っている久守、麻酔薬を打たれていたように、ぼんやりと感じてしまう口角を上げていく彼女は言う、「道具としても…せめて小夜さんの代わりに…」弱り切っては、集中しないと聞こえなくなってしまいそうな久守が口にしていた小夜の名に心を震わされているように考えては、彼女に自分の弱っているところに気付かされてたくないと強く思っては、軽く歯を噛んでいく竜祥。


  「一瞬でもいいのです…」瞼を開けるのは酷く辛く思えては、体で佇んでいるのは億劫だと思ってしまう久守は瞼に狭まているような視界の中でぼんやりと、自分に彼の居場所を知らせてくれているような白い吐息を感じて行きつつ、ぽつりと唇を開けていた、「あなたの傷だらけの心を、少しでも癒せていけたらな…」彼女のまるで自分の心を抉って来ているような話に目をこじ開けられているように思えては、視界が微かに震えているように見えている竜祥。


  「なんて思ってましたけど…」まるで自分がぼんやりと紡いだ話はちゃんと彼に届けているんだと教えてくれているような自分の右頬を軽く触れて来ている、彼の匂いを帯びている胸元の鼓動に少しばかり嬉しく感じている久守は、彼の温かい胸元とは真逆で、冷め切っている自分の胸の感覚を感じていくと、残念そうにと呟いていた、「でも、やっぱり無理みたいですね…」


  無言で自分の告白を聞いてくれている竜祥の存在をぼんやりとしている頭で感じては、もしかしたら自分はもう死んでいて、既に彼に声を届くことが出来なくなっていたんじゃないかと考えてしまう久守、畏怖に駆り立てられてしまう彼女はまるで自分の不安を打ち消してくれているような彼の胸元から感じて来る激しくなっている鼓動に、自分はまだ生きているんだと知らされている彼女は言う、「気にならないのです…?」宛ら久守が自分に投げて来ていた無力だけれど、いとも簡単に自分の心に入って来る言葉に負けないようにと顎を上げては、彼女の段々力を無くしては重たくなっている彼女の左手を握りながら、自分の胸元に倒れて来ているように、体重をかけて来ている彼女の事を感じていく竜祥は切なげに軽く鼻を啜っていた。


  なかなか自分に返事を向けようとしないでいる竜祥に口角をくすぐられているように思えては、自分にはちゃんと笑えているのだろうかと不安になりつつ、賢い彼は多分自分の思いに気が付いてくれるんだと信じている久守、「どうしてそんなおバカな考えをしているのかって。」彼女のまるで自分に彼女の口から質問を投げて上げて欲しがっているような話に苦笑いしてしまう竜祥は悔しそうにと軽く唇を噛んでは、自分が下していた決断はもしかしたら間違っているんじゃないかと一瞬思ってしまう彼は強く歯を噛んでは、何度も鼻翼に力を入れて行きつつ、久守も強化者である以上、こうなるのは仕方のないことだと内心で自分に言い聞かせていく彼は軽く左手を彼女の弱り切っている左肩から離れては、軽く彼女がつけていたボンネットを撫でていき、「教えたいなら、ちゃんと聞くよ。」


  「えへへ…」竜祥が自分の頭を撫でてくれているようにと感じてしまう髪の毛がくすぐられては、ぼんやりとしている頭が微かに動かされているような感覚に、彼からエネルギーを貰えては、自分にはもう少し頑張って行けそうな気がしている久守は言う、「だってさ、あたしは…」真っ黒になっているような脳内で浮かんで来ている斗奴雷の無邪気な笑みに、自分は絶対に考えている話を最後まで竜祥に伝わってやらねばと決意している久守、「ずっと夢を見ていたんだ、一途で、賢くて…」上手く涸れているような喉から声を絞り出すことが出来なくなっているような気がしつつ、悔しそうに歯を噛もうと考えていた久守、「優しくて…たまにはぼーっとしているように見えちゃうけど…」竜祥の体に体重を全部かけていくのは恥ずかしく思いながら、歯を噛んだり、怒っている余裕があれば、もう少し彼と話をして行きたいと考えている彼女は言う、「ちゃんと色んな事を考えていて…何より…」


  ぼんやりと佇んでは、左手で彼女の頭を撫でて行きつつ、霞んでいるようにと見ている星空を見上げて行きながら、極力自分に力を見せつけて来ているような柱のことを見ないようにと強く思っている竜祥。「善良な人ヒーローに…」瞼に瞳を完全に閉ざされては、目が重たい瞼に無理矢理詰まらされてしまうんだと考えていた久守は、まるで自分の願いを聞いてくれているようにと糸のような視界を自分に残してくれているような、強張っているような瞼に口角を上げられているように思いつつ、ぽつりと呟いていた、「あなたとは…そっくりなんだからさ…?」


  「そう…だったのか。」久守が自分に好意を抱いてくれていた理由はあまりにもシンプルなものだと思いつつ、悔しそうにと歯を噛んでしまう竜祥は潤んでいる赤い瞳で柱の事を映し出して行きながら、道理で彼女は柱にかなり強化されているんだと呆然と考えている竜祥。「うん…」軽く頷いていこうと思っていた久守はついまるで硬直しては石と化しているような喉元に苛まれ、上手く体を動かすことが出来なくなっている事に苦笑いしてみたくなっている彼女は言う、「これは…あたしの人生の最初ではるけど…」自分の胸元にあるバタフライナイフは自分の身体より温かくなれているんじゃないかとぼんやりと考えている久守は自分が紡いでいる言葉に幸せを実感しつつ、微かな憂いを帯びている嬉しい心境になれている彼女、「一番輝いていて…楽しい恋をなのですよ…?」


  久守が自分に言ってくれている他愛のない話に苦しめられては、必死に歯を噛んでは、右手にある彼女の左手を放して行くべきかどうかを悩んでしまう竜祥は衰弱している彼女に感じられるように、彼女の左手を強く握っては丁寧に頷いていた、「うん…」まるで自分から竜祥の存在を奪おうとしているような波の音に苦しめられつつ、人が死んでしまいそうな時は好きな人と共に黄昏の砂浜で佇んでいけるようなロマンを感じていけるのかと一瞬思っては、自分にはまだ幸せに耽ってはならないと強く考えている彼女、「竜祥さま…もう…」まるで裸足になれているような気持ちになりつつ、自分の両足を嬲って来ているような紺色の波は酷く冷たく感じている久守、「大してあなたと話をすることが出来なくなっちゃうかもですから…」幻覚を見ているぐらいに自分はもうダメなんだと考えている彼女は、急いで自分の事を黙々と支えてくれては、冷たい波から守ってくれている彼に一番重要にも思えてしまう言葉を口にしないとと思っている、「願い事を…一つだけ…聞いてくれませんか…?」


  久守のまるで寒風に刺激されているように酷く震えているような声色で自分に話しかけて来ている態度に目を細めて行きつつ、彼女が紡いだ願い事はそこまで酷いものではなかったら、叶えてやろうと思っている竜祥は軽く右手にある彼女の左手を下ろしていく、「言ってみろ。」ぼんやりとまるで自分の事を見捨てていたかのようにと左手を放して来ている竜祥の仕草に微かな傷心を覚えてしまう久守、「雷と…楽々花日芽さんの事を…」


  忽然、まるで自分が見えて来る限りなく黒く見えてしまうぐらいの紺色の海を遮っていくかのような黒い布に見開かされては、自分は現実に引っ張り返されているんだと知らせてくれているような爽やかな風と、自分の背中と両腕を包んでくれている黒いスーツに微笑んでしまう久守は嬉しそうにと呟いていた、「もう狙ったりしないでくれませんか…?」

否応なしにスーツを広げては、出来れば彼女に被せてやろうと思っていた竜祥は久守から彼女が感知することが出来ないぐらいに早く離れては、スーツを脱いでしまうと、彼女は消えてなくなってしまうんじゃないかとぼんやりと考えては、彼女が人生の最期で自分に向けて来ている願い事に心を苛まれているような気がしてならないでいる彼は、何度も鼻翼に力を入れていた、「どうしてだ…」


  「彼と…」竜祥が自分に投げて来ている当たり前のような返事に苦笑いしてみたくなっては、自分がこうなるのを知れていたような斗奴雷はやはり凄く賢い人間だと呆然と考えている久守は言う、「ううん…彼らとは約束していたのですから…」項垂れては、心臓の痛みがまるで棘のように体を縛って来ているようにと感じては、悔やんでいるようにと唇を開けていく久守、「あなたはいい人なんだって…彼らに危害を加えてたりなんかしないって…」


  久守がぼんやりと呟いている自分のスーツに守られている声を感じて行きつつ、両手でスーツを握っている体勢は少しばかり格好悪く思いながら、軽く顎を引いては、自分の胸元で呟いている久守が被っていたボンネットを見下ろしていくと、彼女に負けているようにと軽く眉毛をひそめては、苦い笑みを浮かべている彼。「あたしは…今日はまたしても彼のことを羨ましがってたのです…」頭が上手く物事を考えられなくなっているような感覚に、もう少し持ちこたえてくれないのだろうかと、うんざりするぐらいに自分の体に無理を強いているようにと思えている彼女は言う、「ただただ聞いているだけで…何回も空気扱いされたって…」


  脳内で浮かんで来る斗奴雷と楽々花の背中が痒くなってしまうぐらいの幸せな会話を思い出して行きながら、二人の為にも、まだ死んではならないと強く思っている久守、「なんか滅茶苦茶幸せな気分になれちゃうぐらいに…」まるで瞼と関係なしに自分の霞んでいる糸のようにしか残されていない視界を奪って来ている暗闇に絶望を覚えつつ、視界を暗ませて来ているのは彼のスーツだと思ってしまうと、ついほんのりと幸せな気分になっている自分に鼓舞して行こうと強く考えている、「二人はお互いのことを愛しているのですから…ですから…」まるで鉄さびと化していたような喉の存在に苦しめられては、言葉を紡いでいくのは酷く疲れているんだと思っている久守、「二人にー」


  久守の彼女が自分に投げて来ている願い事について説明している態度にほんの少し苛立ちを覚えてしまう竜祥は強く歯を噛んでは、微かに震えている声を発していた、「君にどうして自分の為に願わないのかと聞いているんだよ…」まるで自分が無理矢理紡いだ言葉に命を遮られてしまいそうなぐらいに、一瞬止まっていた彼女の弱り切っている呼吸の音に驚かされては、まるで彼女はまだ生きているんだと知らせてくれているようにと、彼女の艶やか唇から漏れている吐息に叱られているように眉間に皺寄せて仕舞う竜祥は言う、「今お前の手で俺を殺したのなら、」彼女の胸元にバタフライナイフを突き刺していた事に関しては、決して後悔してはならないと何度も自分に言い聞かせている竜祥、「少なくとももう少し生きていけるはずだぞ?」悔やんでは、どうして彼女は自分なんかと出会ってしまったのかと、彼女の代わりに自分の事を内心で罵っては、自責して仕舞いそうになっている彼は言う、「体の回復も強化されるからさ…」

  

  竜祥が紡いで来るまるで自分に彼が言っていたような願い事をして欲しがっているような話のニュアンスに微笑んでしまう久守、「そんなことは願えませんよ…」顔が強張っては多分まったく表情を浮かばせる事が出来ないのであろうとぼんやりと思っては、温かいスーツに包まれている自分には、彼に顔を見られることもないのだろうと考えている久守は言う、「あたしはあなたが使う道具なのですから…」体が空っぽになっていくような感覚に苦しめながら、何とか彼に遮られていた話を最後まで紡いでいこうと強く考えている彼女は言う、「あなたの代わりになれる者はどこにもいませんよ…?」

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