小説が書きたい

提灯鮟鱇

第1話 再会

「ねえ君、教育学部?」

隣の席に座っているいかにも悪そうな男性に声をかけられた。

「そうです。」

そっけなく返す。この人とはかかわってはいけない予感がした。けれども、それと同時に懐かしい気持ちになった。

「あ、俺?優(ゆう)吾(ご)」

聞き覚えのある名前だった。人違いだろう……。

「私は未来(みく)です。よろしくお願いします。」

そういうと丁寧にお辞儀をする。


数分後、式が始まる放送が入る。私は姿勢を正した。相変わらず彼はスマホを触っている。

一時間後---式が終わる。式の最中ちらちらと横目で彼を見たが、意外にもきちんと姿勢を正していた。


「未来ちゃん、おなかすいてない?」

正直とてもおなかがすいてる。でも、さっき仲良くなった人と食事に行くのは気が引ける。

「いたいた。こんな初っ端から彼女探すなよ!!」

友達らしき人が割り込んできた。彼よりはしっかりしている。

「なんだよ、大輔。彼女探しじゃなくて友達探し!」

安心しが、いい気にもなれなかった。

「じゃ、自己紹介がてらミクド行こうよ!」

私の心配をよそに当の本人たちは行く気十分なようだ。

頷いて「わかりました」といって、入学式の会場を後にする。


現在、11時。ミクドナルドには12時に待ち合わせなのでまだ一時間ほど時間がある。その間、未来は愛とまりかにメールを送り構内を散策する。


ミクドナルドは、大学を出て数分の場所にあった。

彼らが来ていないか同じ大学であろう学生でにぎわっている店内を見回す。

「未来ちゃーん、ここだよー。」

ボリュームを間違えたのか、バカでかい声が店内に響き渡る。席が空いてなかったのか、彼らは端っこのテーブルに座っていた。

「お待たせしました。」

座ると同時に大輔から

「何も頼まなくていいの?」

と聞かれる。テーブルを見ると食べ終わったであろう、ハンバーガーやポテトの入れ物が無造作に置かれていた。

「家からお弁当を持ってきたので大丈夫です。」

と断りを入れ、お弁当を机の上に置く。

それから数分は自己紹介を忘れてお弁当の話題になった。


「そろそろ自己紹介しようか。」

といったのはずっと黙っていた優吾だった。

「じゃ、俺から行きます。」

そういって大輔は淡々と話し始めた。

よく聞いてみると、優吾とは高校からの親友であり父親が医者で医学部に通うとのことだった。

「次私が言います。」

と言って未来も大輔と同様淡々と自己紹介をしていく。だが、大輔と違う点は親の話をしないことだ。

未来は両親と疎遠になる勢いで東京に上京し、教育学部行きを決めたのだ。

「じゃあ最後は俺かあ。」

と言って話し始める。

未来は確信した。中学生の時まで、父親が私の家で働いていたこと、その時「優くん」と呼ばれていたことを知って。

でも、向こうは気づいていないだろう……。そんな話一切していないのだから。

気づけば時計は15時になっていた。私はそんな長いこと話していた記憶がないのだ。

エンスタでも交換するといわんばかりに優吾はQRコードを出してきた。私もその気だったので、読み取りフォローした。数秒もしないうちに返ってきた。

それから三人は帰路に就いた。


私と優吾は学部が同じということもあり何度も他愛もないことで話し合った。


入学から3か月たった日、未来は胸の中にあった優吾への思いを打ち明けた。

「ねえ優吾、あの日お父さんが井浦家で働いているって言っていたじゃん。あれ実は私の家なんだよね……。」

恐る恐る優吾の顔を見ると、彼もまたすっきりした顔になった気がした。

「やっぱり、未来嬢だよな。」

とぼそっという。すかさず

「やっぱり、ってどういうこと?」

と聞き返す。

「やっぱりはやっぱりだよ!はっきりとは覚えてないんだけど、顔がお母様にそっくりだもん。」

といった。お母様の顔が頭に浮かぶ。

 それからはお互いが知らない3年間の話をする。優吾の父親、改め「徹也さん」は知っての通りまだまだ井浦家で使用人として働いているそう。当の本人は、未来と一緒に過ごすことを禁じられていたらしく頭がよかったため、東京の進学校に入学させらしい。その入学金諸々は、それまでの感謝料として両親が出してくれたのだとか。未来はまだあの幼馴染2人と出会っていること、両親の反対を押し切って今の学校に入学したことを伝えた。やはり両親が今の学校に入学することを反対したのは「優くん」に会ってしまうからではないかと疑問を持った。

「未来嬢、今ってどこに住んいでるの?」

未来嬢に反応し、

「未来でいいよ。いまはバイト代でネカフェに泊まっている。」

という。

「へえ」

と興味なさそうな声で返事をする。別に泊めてあげようと思っていったわけではないのだから。

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小説が書きたい 提灯鮟鱇 @ankou-choutin

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