春が近付くと戻れないあの日々を思い出す

闇野ゆかい

第1話プロローグ

四季で嫌いなのは、夏でも冬でもなく、春だ。

冬も嫌いではあるけど、春が近付いてくると、あの頃を思いだし、この世界から消えて亡くなりたくなるから。

情けなく気弱で愛していた彼女ひとさえ救えない惨めな奴だと再認識してしまうからだ。


愛していた彼女ひとは、一つ年上の先輩で華奢な身体でありながらも運動神経が良くて、かっこ良かった。口数は少なく、儚い笑顔が印象的で、彼女に触れたらすぐに音を立て、崩れ落ちていき目の前から跡形もなく消えて、この世界から存在まるごとなくなってしまいそうに感じてしまうほどの女子だった。

彼女は、自身の最期を悟っていたような雰囲気をまわりに纏っていた。


愛していた彼女ひとの最期は、あまりにも呆気ないものだった。


久木颯人ひさきはやとは、卒業した母校の高校の中庭に植えてある桜の樹を眺めながら、愛していた彼女ひと──柊友華ひいらぎゆかの姿を思い浮かべた。





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