コウノトリのゆりかご
大月クマ
とある夫の告白
「なんで自分のかわいい子供を、殺すのかしら?」
たしか、ニュースで乳児の死亡を、取り上げていた時です。
そして、彼女の横にはあの機械が……『コウノトリ』と名付けられた機械が、稼働していたこともよく覚えています。
この機械は当初は、不妊治療や、子供が授からない同性カップルの為に開発されたと聞いています。
いつの頃からか、科学者達はふたりの人物から幹細胞を取り出し、遺伝子を混ぜ合わせ、人工的にひとつの
この『コウノトリ』は、人工子宮装置。
子供がほしい、その一点のための機械。
作られた人工の細胞を、
当初は病院のみで使用されていました。
しかし、家庭でも使えるようになると、治療目的だけでなく、何の問題も抱えていない所にも「手軽に子供が出来る」と入り込んでいったのです。
簡単に人口が増やせる、と政府も率先して家庭への導入を勧め、国民に補助金まで出していた背景もありました。
僕の家庭もそのひとつです。
だけれど、もっとも望んだのは彼女でした。
ニュースやSNSで、
「子供が出来た嬉しい!」
「どこどこの芸能人が『コウノトリ』で子供を作った」
など流れて、他の者からもてはやされるのを、よく見ていました。
本当は、それに流されただけかもしれません。
「痛いのは嫌」
彼女が言うには、人づてに聞いた産みの苦しみを、味わいたくないそうです。
その時は、僕は気にしませんでした。
むしろ周りの意見を聞いていると、
「自然出産はダサい」
「女性を、子供を産む道具としか思っていない」
「性行為自体が気持ち悪い」
など、『コウノトリ』を肯定するモノばかりでした。
ひょっとしたら、この時、世間が異常になっているのではないか、と疑うべきだったかもしれません。
当初から『コウノトリ』を否定する話もありました。
「人間の子宮で育てずに、誕生した我が子に、果たして愛情をそそぐことが出来るか?」
思えば、それが正解だったかもしれません。
僕も導入するときに、ふと心配になったのは確かです。
説明書には、こう書いてありました。
『胎児が分泌する成分を抽出し、母親になる人物に定期的に投入することで、そのリスクを回避できる』
信じるしかないでしょう? 僕は専門家ではないのですから……。
そして、我が家にも『コウノトリ』が来たわけです。
「見てみて、私達の子供!」
と、無邪気に笑っている彼女を思い出します。
装置には、人工子宮の内部を映し出すカメラが付いており、子供の姿を見ることが出来ました。
「これは目かな? 耳かな?」
「見てみて、魚みたい!」
「男の子かな? 女の子かな?」
「見てみて、お猿さんみたい!」
日に日に大きくなっていく、子供に一喜一憂していました。
そんな時期に、テレビのニュースで観た、ひとつの事件。
親が子供を殺している。
「なんで自分のかわいい子供を、殺すのかしら?」
そう呟く妻がいました。そして、『コウノトリ』の画面に目を向けました。
それからというもの、彼女はジッと画面を見続けたまま。
僕は、異変に気がつくべきでした。
何をするでもなく、ただ見続けていたのです。
同じ頃、ニュースやSNSに、こう流れるようになったのを目にしました。
『あれは失敗だったかもしれない』
発端は、とある芸能人のSNS。
その人は、『コウノトリ』の中にいる自分の子供の成長を、事細かに上げていたのですが、ある日を境に、パッタリと辞めてしまったのです。
不思議に思った人の通報で、事件が発覚しました。
育成中の胎児を殺した……つまり『コウノトリ』を故意に止めた、と……。
結局、この事件は古い法律が適用され、殺人として検挙されました。
それから、少しだけ世間の風向きが変わったような気がします。
そして、僕たちの子供の
『飽きちゃった』
僕の手にする端末に、妻からのメッセージを見て、僕は理解できませんでした。
結局、僕は彼女のことを、まったく理解できていなかったのかもしれません。
何せ、
<了>
コウノトリのゆりかご 大月クマ @smurakam1978
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