第316話 タコ焼きの具
コン君が持ってきてくれた食材詰め合わせを受け取り買い物カゴに入れて……それからも何個かの具材を集めていく。
冷凍だけでは寂しいので新鮮なタコ、イカ、エビ、それと以前どこかで入れると美味しいと聞いたタラも買っておく。
それとお肉、何しろ食欲増々のテチさん達が相手なのだから、こういうのも必要だろう。
ソーセージとベーコンは……自作のを冷凍したり真空パックしたりしたのが残っているからそれを使うとして、豚バラ、牛ロースなんかを適当に切ってもらって……それと牛スジ肉の味噌煮込みも買っておく。
簡単には噛み切れず、噛めば噛むほど味が染み出してくる、タコに近い牛スジの煮込みはきっとタコ焼きの中に入れても美味しいはずで……それらの注文をしていると、肉コーナーの店員さんが買い物カゴの中を覗き込んでから声をかけてくる。
「タコ焼きならコンニャクも良いよ、牛スジと一緒に煮込んだのがあるから買ってくかい?」
「じゃぁお願いします、量は多めで」
そう返すと手早く袋入りのものを用意してくれて、それを買い物カゴに入れたなら……付け合せのサラダ用の野菜やジュースなどの飲み物を買い足しいていく。
「そう言えばにーちゃん、チョコとか入れるとこもあるってテレビで見たことあるけど、あれって美味しいものなの?」
その途中、カートの子供席に戻ったコン君がそう声をかけてきて……俺は「うーん」と声を上げてから言葉を返す。
「美味しいは美味しいけど、料理というよりお菓子的な美味しさになるかな。
マシュマロとか、色々入れてパーティそのものをワイワイと楽しむって感じで、あれはあれで悪くないものだと思うよ。
生地とかを工夫したら菓子パンとか、そんな感じに楽しめるんじゃないかな」
「そっか~~~、お菓子とかならレイにーちゃんのが詳しいかな?
今度聞いてみよー! お店でタコ焼きケーキとか出てきたら面白いよねー」
そう言って足をプラプラさせるコン君。
パティシエのいる洋菓子店でタコ焼き風お菓子が出てきたら結構な衝撃だけど……レイさんなら上手くやりそうでもあるかなぁ。
前回タコ焼きを作った時も、かなりの手際の良さを見せていたし……本気で作ればかなりのクオリティになりそうだ。
生地に味をつけて香り付けもしっかりして……ソースも合わせたオリジナルのものを用意して、スライスアーモンドなんかをふりかけて。
……まぁ、うん、突き詰めると結局、既存の焼き菓子とかケーキの方が良いってことになりそうではあるかなぁ。
なんてことを考えながら会計を済ませ、袋詰をし……軽い袋はコン君に持ってもらって、の帰路につく。
軽いとは言え、それなりの量が入った買い物袋を両手で抱きかかえたコン君は、来た時のように歩道を右へ左へと駆け回り……全く疲れた様子を見せない。
……そもそも身体能力に優れた獣人なのだから、それも当然と言うかなんと言うか……子供に重い荷物を持たせる訳にはいかないから軽い荷物を預けたけど、そんな気遣いの必要もないのかもしれないなぁ。
「涼しい季節は駆け回っても汗かかないからたーのしー!」
なんてことを言いながら更に駆け回るコン君。
俺からするとすっかり肌寒い季節なのだけど、毛皮のあるコン君的には涼しい季節、らしい。
その勢いを失うことなく家までたどり着き、縁側に荷物を置いて駆け出して、洗面所での手洗いうがいを済ませたなら、冷蔵庫へ入れたり流し台に置いたりの整理を手伝ってくれる。
それが終わったならタコ焼きのためにホットプレートを取り出そうと手を伸ばし……そこで昔知り合いから聞いたある言葉が浮かんでくる。
「……そう言えば以前買って、買ったまま放置しているのがあったような……。
あれ? ちゃんと持ってきたっけ? 引っ越しの時捨てたっけ? どっちだ?」
なんて独り言を言ってから俺は、首を傾げるコン君をそのままに自室へと向かう。
それから引っ越し荷物のダンボールへと手を伸ばし、その中をゴソゴソとあさっていると、近くにやってきたコン君がダンボールの縁に手をかけて覗き込みながら声をかけてくる。
「なんか探してるの?」
「ああ、うん、タコ焼き器をね……」
俺がそう返すとコン君は小首をかしげながら言葉を返してくる。
「あれ? 前にホットプレート見せてくれた時に、タコ焼き用のやつがなかったっけ? あったよね?」
「うん、あるんだけど……あれは電気式のやつなんだよね。
そうじゃなくて今探しているのはガス式のタコ焼き機で……ガスの方が美味しくなるらしいんだよね。
電気式だとどうしても熱が抜けやすいっていうか……生地を入れた直後とか温度が下がっちゃって、よく仕上がらないとかなんとか……。
俺もそこまでこだわってタコ焼き作りをしたことある訳じゃないから聞いた話でしかないんだけど……ガス式のタコ焼き機って電気式より安いもんだから、ついつい買っちゃって……その買ったのが多分ここらへんに……」
なんてことを言いながら荷物を明後日いると、未開封お店の名前と値段入りシールが張られたままの箱が姿を見せる。
それはカセット式のガス缶をセットすることで使えるようになるタコ焼き機で……カセットコンロに四角いタコ焼き用プレートがセットされたものとなっている。
「へぇー……電気かガスかで変わるもんなんだ。
屋台とかはガスだからー……オレ達はいつも美味しいタコ焼きを食べてたんだねぇー」
なんてことをコン君が言う中、箱についたホコリを軽く払った俺はそれを台所に持っていって……濡れタオルでしっかり拭き取ってから開封を始める。
各パーツやプレートが錆びたりしているような様子はなし、軽くつまみをいじってみても問題はないようだ。
ガス缶は災害用に多めに買ってあるので、それを一つ取り出してセットしてみて……ガス漏れなんかが無いことを確認してからつまみをひねって着火……うん、問題なく火が点いてくれたな。
「何年前に買ったのは思い出せないくらい前のものだけど、問題なく動いてくれたねぇ。
ホットプレートの方が大きいしたくさん作れるんだけど……こっちの方が美味しく早く焼き上がるはずだから、今回はこっちを使うことにしようか。
プレートを洗って乾かして……それから油を馴染ませてから食材の準備になるかな」
と、俺がそう言うとコン君は「分かったー!」とそう言ってから頷いて……早速洗うためにとプレートをつかみ上げ、流し台まで運んでくれるのだった。
――――あとがき
お読みいただきありがとうございました。
応援や☆をいただけるとコン君の食欲が増すとの噂です。
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