第295話 バーガー他、実食


「アップルパイは十分冷ましたはずだけど、中が熱いかもしれないから気をつけてね」


 なんてことを言いながらポテトに手を伸ばしていると、コン君とさよりちゃんが頷いて同時にアップルパイを手に取り……慎重にかじる。


 すると熱くはなかったようで勢い良くカジカジカジと問題なく食べ進めて……中から溢れてきたリンゴを食べるなり目を大きく見開き、キラキラと輝かせ始める。


 そんな中テチさんとレイさんはただただポテトを食べていて……凄い勢いで食べていて、どうやら気に入ってくれたようだ。


 ならばと俺もポテトを手に取り一本食べてみる。


 それからアップルパイを一口食べて……うん、これは全然再現出来ていないなぁと苦笑する。


 明らかにお店の味とは違っている、もう長いこと食べていないからしっかり味を覚えている訳ではないのだけど……それにしても違いすぎている。


 明らかに美味しい、記憶の中のものよりも数段美味しい。


 とは言えまぁ、俺の料理の腕がどうこうとか、凄いことをしたとか、そういう訳ではなく、ごくごく当たり前のことなのだろう。


 お店のものは量産品、安い材料を使いたくさん作ってお店での調理を簡単にすることで素早く提供することに特化している。


 その上でできる限り美味しくしようとした商品な訳で……良い材料を使って丁寧に、手間を惜しまず作った方が美味しいに決まっているのだ。


 その上出来たて……お店のものは工場なんかである程度作ってからお店に納品して、仕上げだけをしているはずで、それが揚げたて焼き立てに敵うはずがないんだ。


 味の基礎というか、味付け自体は似せることが出来たとは思うんだけど、根本的な美味しさが違うというか……うん、ある意味では失敗してしまったなぁ。


 ポテトはあげたてでホクホク、お店のカリカリした感じとは別物で……ジャガイモの風味がしっかり詰まっている。


 塩も海藻の旨味がたっぷりの藻塩にしたので、旨味たっぷりで後を引く味になっている。


 アップルパイは皮がパリパリで、中のリンゴは最高の仕上がり、濃厚な甘みがたまらなく、それでいて香りや酸味もしっかり出ていて……多分中身だけで食べても十分に美味しい。

 

「これは……バーガーにも期待できるかな」


 ポテトを半分程食べ、アップルパイを食べ尽くしてからそう言ってバーガーを手に取り……一口食べると、これもまたお店とは違うなぁという味が口の中に広がる。


 まずバンズが美味しい。


 プロのレイさんが作っただけあってふかふかで味も濃厚、味もしっかりしていて全く文句なし。


 レイさんはパン作りではなくお菓子作りのプロなのだけども、それでも驚く程上手に焼き上げていて……レタスも新鮮なものを使ったおかげか良い食感だ。


 そしてメインのお肉……パティと呼ばれるものは美味しい、美味しくない訳がない。


 お店のパティは恐らく、意図的に脂分を抜いたものとなっている……その方が脂分がバンズに染み込んだりしないし、食べやすいのだろう。


 俺が作ったパティはそういったことは一切せず、肉の美味しさをぎゅっと詰め込んでいて……お高い肉を使ったのもあって抜群に美味しい。


 というかもう確実に単品でも美味しくて、これだけでも完成されていて……そこに手作りソースだもんなぁ。


 ソースは少しだけ……ほんの少しだけ失敗だったかもなぁ、なんてことを思ったりする。


 お店の再現としては中々上手くいったのだけど、肉の味に負けていると言うか、なんと言うか……このパティに合わせて作るべきだったかな。


 そうしちゃうと今度はお店の再現という目的が霧散してしまうのだけど……うぅん、失敗ではないけども成功でもない感じだなぁ、なんてことを思ってしまう。


「うんまぁ! ずるいよ、これぇ!」


 あれこれ考えながらバーガーセットを食べ進めていると、両目をキラキラと輝かせるコン君からそんな声が上がる。


 どうやら本命のてりやきバーガーを食べての声のようだけど……ずるいとは一体?


「あ、本当ですね、美味しい……コン君の言う通りです」


 続いてさよりちゃん、その顔は満面の笑みと言った様子で、とても美味しそうにしているのだけど……コン君の言う通りとは?


「こ、これが……これが向こう側のチェーン店の味なのか」


 更にテチさん。

 いやいや、違う違う違う、なんかまずい誤解が進んでいる。


「ははははは、もし獣ヶ森に出来るとしたら、森谷バーガーって名前にしないといけないな、これは!」


 レイさんだけは分かっている、分かった上でからかっている。


「あー……いや、あくまで我流で、お店の味を再現しようとしたってだけで、向こうのお店の味そのままじゃないからね?

 まぁー……うん、向こうにいけることがあったり、こっちにチェーン店が来るようなことがあったりすれば、きっと皆も分かるよ、うん」


 今は行けないしチェーン店もないが……いつまでもそうとは限らない。


 いつかはそういう未来が来るかもしれないと、そんなことを考えての俺の言葉は……バーガーに夢中の皆には届かなかったようだ。


 大食いの皆のためにバーガーはかなり大きめにしたのだけど、それでも勢いが凄い、あっという間に消えていく。


 物凄い勢いでガツガツと食べ進んでいるからか、コン君とさよりちゃんの口の周りはてりやきソースとマヨネーズまみれとなっていて……そんなことを気にせずとにかく食欲のままに食べていく。


 レイさんは手慣れた様子で丁寧に、テチさんは今回ばかりは食欲に負けたのか荒々しく食べていって……バーガーを食べ終えたなら残ったポテトを食べ上げ、それから思い出したようにコーラを飲み始める。


 コン君はコップに直接口をつけて、さよりちゃんはストローを使ってコーラを飲んで……それぞれコップとストローにてりやきソースがついたことで自分の口の現状を把握する。


 それから大慌てで俺が用意しておいた布巾で汚れを拭き取り始め……お互いに綺麗に拭けているかを確認してから、笑顔になって笑い始める。


「美味しかったー!」


「夢中で食べちゃいましたね!」


 なんてことを言いながら二人はしばらくの間、笑い合って……そんな状況の隅っこでテチさんも、こっそりと口元を拭い始めるのだった。



――――あとがき


お読みいただきありがとうございました。


応援や☆をいただけるとコン君達の口元の毛がつやつやになるとの噂です

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