第222話 食事会が終わって
大人達もやってきて、子供達のお気楽席と、大人達の酒飲み席が出来上がり……それからも食事会は盛り上がっていった。
俺達はただひたすらに料理を作り、皆はそれを食べて笑顔で会話をして……それを見て俺達もまた笑顔になって。
ただ作っているだけなんだけども、皆がそうやって楽しんで食べてくれるのが嬉しくて、美味しい美味しいと子供達が声を上げてくれるのが嬉しくて、そうやってますますやる気になって、かなりの量買い込んでおいた材料全部を使い切る勢いで作っていって……そうして材料が切れたなら、流石にこれ以上は無理だと火を落とす。
子供達も大人達ももう十分に食べたのだろう、片付けをしようとしている俺達のことを制して、自分達が片付けをやるとそう言ってくれて……そうして縁側に腰掛けての休憩を始めた俺達は、火を落とす間に作った自分達の分の料理を……体を休めながらゆっくりと食べていく。
「流石に疲れたなぁ……」
焼きそばを食べながら俺がそう声を上げると、
「私はまだまだいけるぞ」「オレも」
と、テチさんとレイさんが続き……獣人の体力は流石だなぁと、驚いてしまう。
コン君やさよりちゃんと始めとする子供達も、大きく重い荷物もなんのその、食後だというのに元気に片付けを行っていて……この調子なら夕方までに片付けは綺麗さっぱりと終わってしまいそうだ。
そんなことを考えて……陽が少し傾き始めた空を見上げて、たまに吹いてくる風の心地よさを堪能していると……ガサリと、直ぐ側で何かが揺れる音がする。
その音の方向へと視線をやると、そこには日光浴をさせるために縁側側の園芸棚に置いておいた扶桑の木の盆栽の姿があり……よく見てみると新たな花を咲かせている。
そして以前の花はいつのまにか閉じて、これから実を成らせるつもりなのか小さく丸まっていて……その様子を見た俺は、もうなんか慣れたというか、驚かなくなったなぁと、そんなことを思う。
「……いつの間にか、花が増えて、古い花は実になり始めたか。
……この木もよく分からないタイミングで変化するよな」
俺の視線を追って扶桑の木を見たテチさんがそんなことを言ってきて……俺は「あー……」と声を上げてから、ゆっくりと口を開く。
「俺はもうなんとなくだけど、どうやったら成長するのか、花がつくのか、実になるのか、分かった気がするな」
「へぇ? 何がどうなったら扶桑の木に影響があるんだ?」
そんな俺の言葉にレイさんが声を上げて……テチさんの好奇心いっぱいの視線を受けながら俺はその答えを返していく。
「以前父に言われたんですけど、俺の名前の実椋は、御倉神……食べ物の神様にあやかったものなんだそうです。
漢字としても椋の木の実……空に向かって大きく育つ、甘くて美味しい実をたくさんならせる椋の木にあやかったんだとか。
扶桑の木もそう言う、伝説とか神話的な存在だということを踏まえると……多分ですけど、そういう名を付けられた俺が食べ物関係で何かをすると扶桑の木が育つんだと思います。
皆にご飯を食べさせて……ただ食べさせるだけじゃなくそれで喜ばせるとか楽しい、幸せな気分にさせるとか、そんな感じで。
今の所大体、成長しているのがそんなタイミングなんですよね……だからまぁ、そこまでは外れてないんじゃないかな」
そんな俺の答えにテチさんとレイさんは、少し悩むような素振りを見せてから……ほぼ同時に頷き、納得したような表情を見せてくる。
二人としても有り得そうな話だと思ってくれたのだろう、
「なるほど、実椋らしい話だな」
とか
「じゃぁオレが育てたらあっという間に大木になるんじゃねぇかな!」
とか、そんなことを言って……それぞれの手の中にある食べ物を物凄い勢いで口の中に送り込んでいく。
似たような箸の動きで、ほぼ同じようなタイミングでそうして、口の中を膨らませて、口を動かすタイミング、回数すらもそっくりで……改めて兄妹なんだなぁと、そんなことを思いながら二人のことを眺めたなら、改めて庭の方へと視線を移す。
すると片付けはもうほとんどが終わっていて……離れた所に設営された大人の席だけは、そのまま残されていて、タッパーや紙皿に取り分けられた料理を肴に、飲み会をさせる腹積もりのようで……まぁ、うん、暗くなれば明かりもない庭だから、素直に解散してくれるだろうと、そのままにしておく。
そして片付けを終えた子供達の方は、そこらに座り込んで楽しげに会話をしたり、かけっこや鬼ごっこなど、道具が無くても出来る遊びに興じたりとし始め……そして大体この辺りのタイミングだと読んでいたのだろう、親御さん達がぞろぞろと子供達を迎えにやってくる。
やってきてそのまま帰ってくれてもこちらとしては構わなかったのだけど、挨拶とお礼はしなくてはと思ったようで、ぞろぞろとこちらにやってきてお礼の言葉を口にしたと思ったらお礼の品……菓子折りやらそれぞれの畑で採れた野菜やら果物やらを縁側にどんどんと積み上げていって……それを見て俺が、
「いえいえ、お気になさらず、やりたくてやったことですから。
お礼の品も不要ですよ」
と、そう言っても聞いてくれず、結構な量の品々をそのままに、子供達のことを抱きかかえ、あるいは小さな手を取って、そのままそれぞれの家へと帰っていってしまう。
今日はコン君もさよりちゃんも早々の帰宅となり……子供達がいなくなったなら、お礼の品の中から適当に好みの品々を選び手にとったレイさんも帰宅していき……洗い物やら何やらそこらの最終片付けをしていると、庭で酒宴を開催していたタケさんや御衣縫さん達も「河岸を変えるか」なんてことをいって、片付けをした上でぞろぞろと、森の中へと消えていく。
そうして誰もいなくなって二人だけの……本来ならそれが当たり前の、静かで寂しい時間が訪れる。
さっきまで賑やかで笑顔に溢れていた反動というかなんというか……日が沈み始めてしまうと、尚の事なんとも言えない気分になる。
また明日になれば元気にコン君とさよりちゃんが遊びに来るんだろうけど……なんてことを考えた俺は、まず扶桑の木を片付け、蚊取り線香に火を付けてケースに設置し、それを縁側に置いてから……寂しさを埋めるためテチさんの手を握り……それからしばらくの間、二人の時間を過ごすのだった。
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