第209話 レモネード
ゴーヤの下拵えを終えて、材料がしっかり揃っているかの再確認をして……後は良い時間になったら作れば良いだけの状態にして……風呂掃除をした上でお湯を張り、居間でゆっくり休んでいると、賑やかなコン君達の声が聞こえてくる。
「ただいま」
「ただいまー!」
「ただいまもどりました」
テチさん、コン君、さよりちゃんの順番でそう言って、そのまま真っ直ぐに洗面所へと向かい、手洗いうがいもそこそこに風呂場へと直行する。
皆が風呂場に入ったのを確認したらタオルと着替えを持っていき、脱衣所のカゴに入れておいて……それから台所に移動し、夕食の仕上げを行い……ゴーヤチャンプルとホウレンソウのおひたしと、シジミの味噌汁が完成したなら、そろそろ風呂から出てくるだろう三人のためのレモネード作りを始める。
レモネード作りはすごく簡単で、ハチミツレモンを水で溶かせば良いだけなのだけど……一つだけ注意すべき点があり、それはハチミツを入れ過ぎてはいけないということだ。
ハチミツの甘さと香りはとても濃いというか重いもので、多く入れ過ぎてしまうとその重さのせいでせっかくのレモネードの爽やかさが失われてしまう。
かといってハチミツが少ないとせっかくの甘さを楽しむことが出来ず……入れすぎないけどもしっかりと甘さを感じることが出来る程度の、いい塩梅を見極める必要があり……そこを見極められたならすごく美味しく爽やかで、暑さも疲れも吹っ飛ぶ最高のレモネードが出来上がってくれるという訳だ。
ハチミツの種類によって香りの強さや重さが変わってくるので……ここら辺に関しては何度も何度も試して覚えていくしかないだろう。
今日は普通の水ではなく、炭酸水で作ることにして……冷蔵庫で冷やしておいた炭酸水を、用意したガラスの、大きめのコップの中に……いきなりハチミツを入れるとコップの底に張り付いてしまうことがあるので、それを防ぐために少しだけ注ぎ入れる。
それからレモン二切れとハチミツを入れて……ゆっくりと残りの炭酸水を入れていく。
レモンと反応してか炭酸が凄い勢いで弾けていくので、出来るだけ炭酸が抜けないようにゆっくり入れて、入れる時に使ったスプーンでこれまたゆっくりとかき混ぜる。
全体が良いハチミツ色になっていたら完成で……レモンを潰して果汁を出すのか、それとも飲みながら食べちゃうのかは、それぞれに任せることにしよう。
完成したレモネードを居間のちゃぶ台に運んでいると、汗を流してさっぱりとした三人がやってきて……もう一度、
「実椋、ただいま」
「にーちゃん、ただいまー!」
「実椋さん、ただいまもどりました」
と、挨拶をしてからそれぞれの席に座り、コップに手を伸ばし、テチさんはスプーンでレモンを軽く押しつぶしてから、コン君はそのまま一気にレモンごと、さよりちゃんは香りを楽しみながらゆっくりとレモネードを飲み始める。
「相変わらず実椋のレモネードは美味しいな」
「レモンもそこまで酸っぱくなくておいしー!」
「良い香りですねぇ」
飲んでそんな感想を口にして……俺もまた自分の分を飲みながら言葉を返す。
「うん、以前作ったのよりも、もう少し手間をかけていて、ハチミツレモンを作るところからやってみたんだけど……んー、やっぱりもう少し時間かけたほうが美味しくなるねぇ。
ハチミツがレモンに染み込んで……レモンの酸っぱさが気にならないくらいになるはずなんだけど」
「レモンだけでなくハチミツまで使っているとは、随分と贅沢な飲み物なんだな」
俺の言葉にそう返したテチさんは、味わうようにしながらもう一口レモネードを飲んで……テチさんとさよりちゃんがゆっくりと楽しむ中、さっさと飲み干したコン君は、残ったレモンを皮ごとモクモクと食べていく。
「アメリカの方では子供達が屋台なんかで作って売る定番のジュースなんだけど……予算とか色々な兼ね合いでレモンを一切使わず、クエン酸で済ませちゃうこともあるみたいだね。
水に砂糖と薬局とかで売っている、粉とか錠剤のクエン酸を入れてかき混ぜておわり。
それでもちゃんと味はレモネードになるんだからびっくりだよねぇ。
後はピンク・レモネードっていう飲み物もあるらしいんだけど……これにはスマックっていう香辛料を使うみたいだね。
赤くて酸っぱくて……中々美味しいらしいんだけど、日本ではあまり見かけないね」
「へぇ……香辛料ってことはスパイスのような香りになるのかな?
それなら私はレモンの方が良いかな」
更に俺がそんなうんちくを語ると、テチさんは首を傾げながらそう返してきて……そこからどうでも良いと言えばどうでも良い、テチさんとの夏の夕方の雑談が盛り上がっていく。
「後は国によってレモネードって言葉の指す意味が少し違って、炭酸が入っていないものをレモネード、入っているものをレモンスカッシュと呼んだり……炭酸飲料全般、コーラも含めてレモネードって言ったり、赤いレモネードがあったり、お酒を入れる国がったりと様々だねぇ。
ああ、あとあれだ、日本だとラムネって炭酸飲料があるけど、あれはレモネードがなまった結果……らしいね」
「ああ、ラムネか、あれはこっちでも夏祭りなんかに飲むな。
ビー玉が入っていて、飲んだ後にそれで遊ぶのが楽しみで……」
「うん、夏祭りだったり、夏休みの昼ごはんの時に食べたりして……後は海でも飲むかな、ラムネは。
……曾祖父ちゃんは何故だか焼きそばと一緒にラムネを出すのが好きで、よく分からない組み合わせだなぁと思って食べていたのを思い出すよ」
「……ああ、富保はああいう変な組み合わせを好むところがあったな。
ナポリタンには何故かリンゴジュースを組み合わせてきたし、ラーメンには麦茶で、オムライスにはオレンジジュース……。
絶対その組み合わせで何かこだわりでもあったりしたのだろうか……?」
「あー……うん、曾祖父ちゃんの年くらいだと、洋食とかがまだ不慣れで……始めて食べた時とかテレビとかで始めてみた組み合わせとかがそのまま染み付いちゃったのかもねぇ。
……麦茶には塩と砂糖がちょっとずつ入っていて、なんだか変な味だったし……今思えばあれは、熱中症対策だったんだろうねぇ」
なんて雑談は思っていた以上に盛り上がり……そこからコン君とさよりちゃんも参加してまた盛り上がり、それからしばらくの間……味噌汁が冷めてしまって温め直すことになるまでの時間、続いてしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます