第207話 夏バテ防止


 久しぶりの畑での仕事を終えて夕方。


 夕食を我が家で食べていくとのことでコン君とさよりちゃんと一緒に家に帰ってきて、手洗いうがいをしたり、リフォームで綺麗になったお風呂でシャワーを浴びたり着替えたりとし……そうしてテチさんとさよりちゃんが居間でまったりとし始める中、俺はコン君と二人でキッチンに向かい、夕食の準備を始めていた。


「にーちゃん、今日は何にするの?」


 いつもの椅子に座りながらコン君がそう言ってきて……俺は「うん」と頷いてから、とんかつようの豚肉を冷蔵庫から取り出す。


 ついでに卵を取り出してパン粉も棚から取り出して……そこで察したコン君が、


「とんかつだ!」


 と、そう言ってくる。


「うん、惜しい。

 とんかつはとんかつなんだけど……今日はもうちょっと手の込んだ料理にするつもりだよ」


 そんなコン君にそう返した俺は、続いてネギと山芋とかいわれ大根、刻み海苔と瓶詰め梅肉を取り出して、それらを流し台に並べていく。


「……サラダととんかつ? とろろとんかつ?

 うーん? メニューが想像できない……」


 それを見てコン君がそんなことを言う中、俺はまずとんかつを上げる準備を整えていく。


 整え、揚げ物用の鍋を用意し、油を鍋に流し込み……コンロの火を点け、温度計を挿して、温度を見ながらコン君に今日の料理についてを説明していく。


「今日は皆たくさん汗かいたでしょ? コン君もさよりちゃんも……テチさんもなんだかんだ、毛に覆われた尻尾を持っているからか汗をたくさんかいていて、だから夏バテ防止になるような料理を作ろうかと思ってね。

 それですぐに思いついたのが、かつまぶし丼だったんだよね」


「かつまぶし……? 何それ?」


「ウナギの蒲焼きを使った料理でひつまぶしってあるんだけど、それのとんかつ版かな?

 ソースカツ丼っていう、揚げたてのとんかつをソース漬けにする食べ方があって、まずそれを作る。

 揚げたてのとんかつを甘じょっぱくて旨味たっぷりなソースに漬け込んだら、一口サイズに切り分けて……次にたっぷりと刻みネギと、これまた一口サイズに切った山芋を用意する。

 あとはどんぶりにご飯を盛って、それらをどかっと盛り付けて……その上に刻み海苔、かいわれ大根をふりかけて、てっぺんに梅肉を乗せたら完成。

 食べる時はご飯の上の具材をかき混ぜて、濃いめのソースカツに絡ませて食べる感じかな。

 ひつまぶしみたいにお茶をかけて食べることもあるけど、今日は普通に食べるものとして作る予定だよ、それと今日は用意してないけど温泉卵を最後に乗せてもいい感じだね」


「へぇーー!

 味は……なんだか想像できないけど、にーちゃんの料理なら美味しいんだろうねー!

 ソースカツっていうのも食べたことないし、楽しみ!!」


「うん……本当はソースもしっかり作った方が美味しいんだろうけど、流石に手間と材料が尋常じゃないので、市販の……ちょっとお高いソースで。

 とんかつはしっかり揚げて……サクサク感を求める感じではないからパン粉は出来るだけ細かくして作る。

 野菜はただ適当に切るだけだから楽ちん……ソースカツもどこかで買ってくれば楽に作れるかな。

 梅肉は夏バテ防止ってことで追加したけど無しでも良いし……炒りゴマをふりかけても良いかもね」


 と、そんな会話をしながら作業を進めていって……油の温度が十分に上がったら衣をつけた豚肉を投入、じっくり揚げてきつね色になり、中まで火が通ったら油切り網の上に乗せて……そのまま熱が落ち着くまで放置する。


 放置したならソースにくぐらせ、ザクザクと切り分け……野菜もさっと切り分け、丼を用意し、さっと盛り付けて……刻み海苔と梅肉で見栄えを整える。


「これで完成っと……とんかつを自分で揚げるとなると手間がかかるけど、どこかで買っちゃえば途端に楽になる料理だね。

 野菜も色々と工夫が出来るし、味付けも自分好みにしてもいいし、わさびなんか足したらそれはそれで美味しくなるし……さっきも言ったようにお茶をかけても良い。

 簡単だから今度……また食べたくなった頃に、コン君にも作ってもらおうかな?」


 盛り付けを終えてから俺がそんなことを言うとコン君は目をキラキラと輝かせながら「うん!」とそう言って力強く頷き……台所に干してある台拭きをさっと取って、蛇口の水で丁寧に洗い、しっかりと絞り……そうしてから居間へと駆けていって、ちゃぶ台の上を軽く片付けてから、綺麗に拭いてくれる。


 更には俺の分の座布団まで用意してくれて……そんなコン君にお礼を言いながら配膳し、冷やした麦茶も用意しての夕食の時間となる。


『いただきます!』


 と、皆で一斉にそう言って……皆でかつまぶし丼をかき混ぜて、程よく混ざったならソースカツと野菜をご飯を一緒に箸ですくい上げ、口の中へと運ぶ。


 美味しいソースの味が口の中に広がり、そこにネギやかいわれ大根、山芋の爽やかさが来て、海苔の風味や梅肉の酸っぱさもしっかりと混ざっていて。


 噛めばとんかつの旨味が染み出し、野菜の様々な食感が楽しく、程よく調和した香りがたまらなく……食べやすい大きさに切っているということもあって、どんどんと食べ進めることが出来る。


 豚肉と山芋でスタミナ回復、梅肉でクエン酸と塩分補給、各種野菜も食べることが出来て、爽やかさに包まれて油っぽさなどは全く感じなくて済む。


 夏バテ防止になって、夏バテ気味でも食べられて……それでいて美味しくて。


 簡単に作ることも出来るのだから最高で……そして……、


「おかわり」

「おかわり!!」

「おかわりください!!」


 との、テチさん、コン君、さよりちゃんからの声があっても安心。


 とんかつさえたくさん揚げておけば、すぐに作ることが出来る。


「はいはい、すぐに用意するからねー」


 と、三人にそんな言葉を返した俺は立ち上がり……一緒に立ち上がったコン君と一緒に台所に向かい、早速自分で作る『今度』の機会が来たとばかりにはりきるコン君と一緒に、おかわりの分のかつまぶし丼を作り始めるのだった。

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