第177話 夏休みと言えば
1時間程待ってからニスが乾いたのを確認し……木工用ボンドと釘を用意して、しっかりと椅子を組み立てていく。
釘の場所も組み立て方も、何もかもを曾祖父ちゃんが作った椅子の通りにし……新しいだけでそっくりの、コン君の椅子と並べても全く違和感ないものを仕上げていく。
その作業の間、コン君とさよりちゃんは他愛のない会話をしながら作業を見守っていて……そうして椅子が出来上がるなり、側に駆け寄ってきて「おー! かっけぇ!」とか「お疲れ様です」とか、そんな声をかけてくる。
「二人共、ありがとうね。
……よし、後はボンドが乾くのを待ったら完成かな。
それまでこのまま待っても良いけど……そろそろ良い時間だからお昼ごはんを食べながら待つとしようか」
二人にそう声を返すと、二人は同時にそっくりな笑顔を浮かべてくれて……そうして台所の方へと駆けていく。
俺はそれを追いかけずに一旦洗面所へと向かい、しっかりと手洗いうがいを済ませて、ついでに木くずがついているだろう、上着とズボンを着替えてから、台所へと向かいエプロンを身につける。
そうして流し台に向かってみると、コン君がさよりちゃんに自分の椅子を譲っていて……そこらで見つけたらしいお菓子の空き缶の上に、いつになく堂々とした態度で座っていた。
その微笑ましい様子に顔を綻ばせながら俺は……冷蔵庫をさっと開けて、中をさっと確認して、さっと閉じてから……さて、どんなお昼ごはんにしようかと頭を悩ませる。
「今日は椅子作りに時間を割いちゃったから簡単に出来るので……この在庫の感じだと……んー……。
夏休みの話題も出たし、夏休みらしく焼きそばにでもしようかな?」
頭を悩ませながらそんなことを口にすると、コン君が首を傾げながら言葉を返してくる。
「……焼きそばって夏休みらしいの?」
「あー、うん、曾祖父ちゃんがよく作ってくれたんだよ。
夏休みのお昼といったら焼きそば、そうめん、ひやむぎ、冷やし中華って感じで、簡単なのもあってか、基本麺料理ばっかりだったな。
……たまーにチャーハンとか、そういうのもあったと思うけど……うん、印象に残っているのは麺料理がメインだね。
その中でも特に多かったのが焼きそばで……それとほら、お祭りとかの屋台での定番は焼きそばだし……なんかこう、自分の中では夏休み! って感じなんだよね」
「へー、じーちゃんの焼きそばかぁ……オレは食べた記憶ないけど、美味しかった?」
「うん、美味しかったよ、毎回ソース味では飽きるからって色々味変もしてくれてね。
醤油メインとか、梅肉ソースとか、トマトソース味なんてのもあったな」
と、俺がそう言うと、コン君よりも先にさよりちゃんが驚いたような声を上げてくる。
「トマトソースの焼きそば!? そ、そんなのありなんですか!?」
「まー、ありなんじゃない? トマトはパスタにもよく合うんだし、大体似たようなものでしょ。
それに確か……日本海側のどこかの県では、トマトソースで味をつけた焼きそばがB級グルメとして定着していたはずだよ」
そう俺が返すとコン君とさよりちゃんは同時に『へぇー!』とそんな声を上げてくる。
その声を受けて俺はトマトソース焼きそばにしようかと思った……のだけど、在庫がないことを思い出し、そちらは諦めて……、
「トマトソースは今ちょっとないから……今日は梅肉ソース焼きそばにしてみようか」
と、そんな声を上げる。
するとコン君達は期待感でいっぱいの笑顔を浮かべながらこくりと頷いてくれて……それを受けて俺は早速調理開始だと、冷蔵庫から材料を引っ張り出していく。
まず具はキャベツ、ニンジン、モヤシ、それと豚バラ肉の王道パターン。
麺は市販の中華麺で……それと青のりではなく味付けのりと、荒く刻んだ梅肉を用意し……ついでにたっぷりのカツオブシも用意しておく。
キャベツとニンジンは適当にざく切り、モヤシはしっかりと洗っておいて……お肉もまた適当に切っておく。
中華麺は油が残っていることもあるので、ザルに入れてさっと水洗いし……水をしっかりきったら、お酒と醤油を下味として全体に絡めておく。
それが終わったらフライパンに油をしいて、まず麺を焼いていく。
フライパン全体に敷いて、ヘラで軽く押し付けるようにして……軽く焼色をつけたらひっくり返して、反対側にも焼色をつける。
焼き色を付けたら一旦フライパンから取り出し……お肉、ニンジン、キャベツの順で炒めていく。
しっかり炒めたらフライパンの端に寄せて、麺を再投入して……中濃ソースにコショウとお酒と、刻み梅肉を混ぜたものを、麺に『だけ』かけて、麺をほぐしながら絡める。
麺がしっかりと味を吸ったならもやしを追加し、野菜と麺を絡めていって……全体にソースが絡んだら、二つのお皿に盛り付けていく。
盛り付けた後はカツオブシをたっぷりかけて、砕いた味付け海苔をこれまたたっぷりかけて……お好みで紅生姜を添える。
盛り付けが終わったらそれと冷蔵庫で冷やしておいた水出し麦茶の瓶を居間のちゃぶ台に並べて……「はい、おさきにどうぞ」と、俺を追いかけて居間へとやってきたコン君とさよりちゃんに声をかける。
さよりちゃんもコン君と同様、大食らいだ。
更にテチさんも加えて大食らい3人+1人の4人分を一度に作るのはとても難しく……テチさんがまだ帰ってきてないのもあって、まずは二人の分の、頂上に盛り付けた野菜が転げてくるような山盛り焼きそばを作ってから、俺とテチさんの分を作ることにした訳で……そこら辺を言わずとも察してくれていたらしいコン君とさよりちゃんは、さっと席について二人同時に『いただきます!』とそう言って……元気一杯、食欲一杯という感じで食べ始めてくれる。
「甘くてすっぱくておいしー!!」
「梅干しと味付けノリって相性いいんですねー」
食べ始めるなりそんなことを言ってくれて、頬をいっぱいに膨らませながらどんどんと食べてくれて。
そんな二人の様子を軽く眺めてから俺は、台所へと戻り、俺とテチさんの分の焼きそばを作っていく。
そうして俺用の普通盛り焼きそばと、テチさん用の特別大盛り焼きソバを作り上げると、ちょうどのタイミングでテチさんが帰ってきて……そうして遅れての合流となった俺とテチさんは、一生懸命に焼きそばを食べるコン君達の顔を見ながらの昼食タイムをゆっくりと楽しむのだった。
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