第147話 風変わりな梅肉ピザ
レジで会計を終えて、エコバッグを見せることによりしっかりとポイントも貰って……そうしてニコニコ笑顔のコン君と一緒に帰宅した俺は、手洗いうがいを済ませた後に、台所にてピザ作り……の前の、試食を行っていた。
美味しくなるか分からない食材をいきなりピザ生地に乗せるのはいくらなんでもリスキー過ぎる。
まずは一口サイズの切れっ端でもって味見をしてみて……もしピザに合わないようなら、ベーコンなどの安定具材に切り替えるという訳だ。
ということでまずは、ウナギとチーズと梅肉の相性を確かめることにする。
ウナギの白焼きを少しだけ切り取って、その上にまだ自作梅干しの完成にはほど遠いので、市販の梅干しで梅肉を作り、それを乗せて、更にチーズを……いちいち溶かすのは面倒なので、クリームチーズを乗せてから……スプーンに乗せていつもの椅子に腰かけながらよだれを唸らせているコン君に差し出し「どうぞ」と一言、食べさせてあげる。
するとコン君は梅肉クリームチーズウナギをぱくりと口の中に入れて、もぐもぐと口を動かし……そうしてから目をくわりと見開き輝かせ、うんうんうんと何度も頷く。
おや? これは思っていたよりも良い反応だな? と、そんなことを考えながら自分の分も用意して、それを口の中に送り込んでみたなら……ふんわりと上品な味が口の中いっぱいに広がる。
ウナギが上等なのもあるのだろうが、梅肉とチーズがまさかの好相性。
ちょうど良い塩分と、酸味とまろかなチーズの風味が合わさって……これはこれで蒲焼きにも劣らない完成度となっている。
ご飯にもよく合いそうなのだけども、ご飯よりはお酒……日本酒よりもハイボールとかが合いそうな味になっているなぁ。
「むう……なんとなくで買ったウナギだけど、これは予想外の美味しさだなぁ。
ピザにも合うだろうし、このままでも十分な完成度だし……これ、市販の梅干しじゃなくてもっと良い梅干し使っていたら、もっともっと美味しくなってくれそうだね」
よく噛んでから飲み下し、その味を存分なまでに堪能してからそんな感想を言葉にすると……コン君がぱぁっと笑顔を輝かせながら、俺に続く形で感想を口にする。
「うんまかったー!
これ、これ、オレも好き! 大好き!
なんかねー、これねー、かーちゃんがよく作ってくれるおかずに似てる感じで、塩辛とかカラスミとかそっち系の美味しさがある!」
渋い好みというか、酒飲みの好みというか、偏った趣味の和食党の家の子である、コン君がそう言ってくれるということは、やはりこれはお酒に合う一品であるようで……俺はうんと頷き、満足感で胸をいっぱいにしながら次の品を試す。
イワシ……に関してはアンチョビピザという、伝統的成功例があるので試しはせずに……次はいよいよフグの出番だ。
フグと言えばフグ刺しなのだけど……ピザにする関係でどうしても火は通るので、フライパンで軽く熱してから、梅肉とチーズを和えて……まずはコン君、次に俺という順番で口の中に送り込む。
「んー……これはこれで悪くないけど、ウナギの美味しさのインパクトには負けるかなぁ」
「そーだねぇ、ウナギが美味しすぎたねー」
口の中のものを飲み込むなりそんなことを言い……それでも諦めずに他に何か良い組み合わせがないかと、色々試していく。
出来るだけ薄切りにして、回数をこなせるようにして、色々試して……。
そうして何度か試した結論としては、チーズはあまり合わないというものだった。
チーズなしで梅肉と刻み細ネギとか、梅肉とかいわれ大根とか、梅肉とアスパラとかでも美味しく食べられて……何なら火を通さずにフグ刺しの状態で梅肉と細ネギを巻いて食べると旨味と食感が抜群に良くなって美味しいなんていう、本来の目的を完全に見失った調理法まで発見してしまう。
それでもまぁ、梅肉と野菜と合わせると火を通していても美味しいということが分かったので、フグはチーズから離した所に設置することにして……そうして一通りの試食実験を終えた俺達は……そもそもの目的に立ち返り、ピザ作りを始めていく。
俺はエプロン姿で、コン君は割烹着姿で。
ピザ生地から作っていると時間がかかってしまうので生地は市販のものにして、それに具材を乗せていく形だ。
まず生地にオリーブオイルと、ピザソースを塗りつけて、刻み大葉をパラパラと振りかける。
それから乗せる具材は、まず野菜から適当に切ったアスパラ、トマトの輪切り、オクラの輪切りにトウモロコシの粒のみをパラパラと。
次に魚から、ウナギの白焼きの梅肉和え、イワシの梅肉和え、フグの梅肉和え。
それとチーズをたっぷりと乗せて……追加の刻み大葉をパラパラとふりかけ、ついでに瓶詰めのオリーブの実を半分に割ったものをちょいちょいと乗せる。
そうしたら予熱しておいたオーブンに入れて焼いて……焼き上がったならさっと取り出し、ピザ用の大きな皿に乗せピザカッターで食べやすい大きさに切ってから……居間へとその皿を持っていく。
するといつのまに帰ってきていたのかテチさんがいつもの席で待ち構えていて……俺はテチさんとコン君に「先に食べていて良いよ」と声をかけてから、もう一枚同じピザを作っていく。
獣人のカロリーを思うと通常のピザ1枚では足りないだろう。
2枚か3枚は当たり前に必要そうで……2枚目も二人だけで食べてもらって、俺は3枚目から参戦することにしよう。
同じピザを3枚連続となると飽きがきてしまうかもしれないが……そこはまぁ、具材を多種多様にしたということで勘弁してもらうことにしよう。
そういう訳で2枚目を焼いて居間へ持っていって、3枚目を焼いて居間へ持っていってから、エプロンを脱いでいつもの席に腰を下ろす。
そうしてから3枚目のピザをピザカッターで切っていると、1・2枚目を綺麗に完食したテチさんとコン君は、小皿を構えながら切り分けられるのを待っていて……うん、どうやら飽きることなく楽しんでくれているようだ。
ピザを切り分け終えると、二人の手が物凄い勢いで伸びてきて……そんな二人に負けないようにと、俺もピザを取って自分の小皿に乗せて……ゆっくりと少しずつ食べて、梅肉ピザを食べていく。
さっきしっかり試しただけあって、フグはもちろんのこと、イワシもウナギも唸る程に美味い。
特に美味いのがウナギで、それだけを食べていたくなるが、フグもイワシもしっかり仕事をしていて、アクセントとなっていて、飽きがこないようにと頑張ってくれている。
三種の魚の食感が全然違うのも、一つの正解となっていて……そこに旬の、美味しい野菜達が混ざり込むと、思わず笑みが溢れる程の美味さとなる。
そうして俺は勢いよく食べ続ける二人に負けないようにとピザを食べていって……どうにかこうにか3切れのピザを食べることに成功するのだった。
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