第100話 改めての……
「ってなことをコン君と話していたんだけどね……テチさんも何かを備蓄したいとか、そういうのってあるの?」
その日の夜。
テチさんが帰ってきて、夕食やお風呂などを済ませての時間、昼間コン君と話した備蓄についての話をし、そんな問いを投げかけると、テチさんは「んー……」と、そう声を上げてから言葉を返してくる。
「確かにリスは備蓄をする動物で、リス獣人の多くは備蓄やコレクションといった行為が大好きなんだが……リスは何もそれだけじゃないんだぞ?
リスと言えば森を作る種まきの動物だからな、私の場合はどちらかと言うとそちらに向いているんだろうな」
「……種まきの動物?
あんまりリスにそういうイメージはないけども……」
と、俺がそう返すとテチさんは……座布団を丸めて枕とし、そこに頬杖をついて頭を預けて、横になりながら言葉を返してくる。
「そんなことはないだろう、一度は聞いたことがあるはずだぞ?
リスは木の実などの食料を備蓄として地面に埋めたりする動物で……埋めたのを忘れてしまって、そこから芽が生えて木になって森が広がると、そんな話をな」
「あー……確かに、そんな話をテレビとかで聞いたことがあったな。
えぇっとそれが種まきの動物ってことになるの?」
「なるともさ。
そもそもだ、リスが木の実をそこに埋めたのを忘れてしまって……というのは人間の視点での話でしかないからな。
そのリスは本当に木の実を埋めたことを忘れていたのか? 森を、自分の生息域を広げるために意図的にそうしているんじゃないのか?
私はリスにそのくらいの賢さがあっても驚かないけどな」
「あー……まぁ、そうか。そういう考え方もあるのか。
リスの本能で、あるいは生存戦略で意図的にそうしてきたからこそ、今も生き残っている……と。
そうすると確かにリスは種まきの動物と言えるのかもしれないね。
そしてテチさんやコン君達は、クリ畑クルミ畑の世話をすることが大好きで……畑の世話をすることでその本能を満たしている……のかな?」
「さてな、人間が本能の多くを忘れたように、私達獣人もまた本能のほとんどを忘れてしまっている。
コレクションや備蓄、畑の世話が好きなは本能ゆえなのか、それともリスがそういう動物であるとテレビなどで知って、その影響を受けてのことなのか……?
リス獣人の中にも備蓄やコレクションを嫌っている者も当然存在している訳だが、それは本能を失ったからなのか、それともただ個人の好みの問題なのか……?
ここら辺のことは証明しようにも、しようのないことだからな」
「なるほどねぇ……。
テレビなんかの影響を受けるっていうのも有り得そうな話だねぇ。
……まぁ、そのおかげでテチさんが畑で働くことになって、紆余曲折はあったけども再会することになって……そうして一緒になるっていう縁を紡ぐことが出来たのだから、それはそれで良かったってことなのかな?」
本能の力なのか、イメージを受けてのことなのか。
理由がどちらにせよ、結果としてリス獣人の皆が曾祖父ちゃんの畑の世話をしてくれていたから今がある訳で……テチさんとこういう仲になった訳で。
理由がどうあれ今が幸せなのだから、それで良いじゃないかという思考の着地を見た俺は……ふうと、息を吐き出してから用意したお茶をずずっとすする。
するとテチさんは照れ隠しなのか何なのか「んんっ」と声を上げて咳払いをして……話題を変えようとしているのか、先程よりも強めの語気で声をかけてくる。
「ところで、だ!
仮に私が備蓄好きだったとして、何かを備蓄したいと思っていたとして……そんなことを確認して実椋はどうするつもりだったんだ?」
「ん? えぇっと……まぁ、うん。
どうするっていうか……俺自身が備蓄好きだからさ、もしそうなら話が合うかなって思ったのと……それと、前にも話したけど、将来的には倉庫全部を保存食で埋め尽くしたいと考えているんだよね。
でもそれには相応のお金もかかってしまう訳で……そういうお金のかかる趣味に対しての理解のあるなしを確認しておくっていうのは……事前にそこら辺のことを相談しておくっていうのは、夫婦になる以上はとても大事なことなんじゃないかって思ってね」
「ああ、なるほど……そういうことか。
そういうことなら安心しろ、実椋の趣味にどうこう言うつもりは一切ないからな。
どうこう言うつもりならまっさきにあの倉庫のでかい冷蔵庫を止めてしまっているよ。
……あれは大きさに見合うだけの電力を使うからなぁ……毎月の電気代への影響もそれなりで、それが積み重なって一年となれば結構なもので……。
だがまぁ、そこら辺のことはな、富保の事を長年見てきたからなぁ……。
富保で慣れたというか、なんというか……富保の血を引いてるって時点で実椋もまたそういうヤツなんだろうっていう覚悟は出来ているよ」
幼い頃から曾祖父ちゃんの下で働いていて、大人になってからも働いていて。
俺なんかよりも曾祖父ちゃんと長い付き合いだったテチさん。
当然その十数年の間、テチさんは曾祖父ちゃんの趣味に付き合っていたというか……それをすぐ側で見続けていた訳で……それなりに思うところはあるのかもしれないが、嫌悪感だとか、そういう悪感情は無いのかもしれない。
いや、長い付き合いだからこそ許せないってこともあるかもしれないし、夫婦だからこそ譲れないってこともあるのかもしれないけども……もしそうなら最初から、俺と結婚しようなんてことは考えなかったはずだ。
決してプロポーズらしいプロポーズとは言えないものだったし、なんだか知らないうちに流されるままに婚約してしまっていたって感じでもあるのだけど、それでも嫌なら嫌と言えたタイミングはいくらでもあったはずで……。
婚約をし両親への挨拶をし、こうして一緒に暮らしている時点でもう既に覚悟をしているという訳で……何もかもは今更、わざわざ確認するまでもないことだったのかもしれないな。
……と、そんな事を考えていると色々と思うところがあったというか、感情が爆発したというか……そうせずにはいられなかったというか、思わず口から言葉が漏れ出す。
「テチさん、一緒に幸せになりましょう」
改めてのプロポーズ、プロポーズらしいプロポーズ。
そんな言葉を受けてテチさんは、赤面し歯噛みし……何故だか恨めしそうな視線をこちらに向けてから起き上がり、正座に座り直して居住まいをタダシてから短い言葉を返してくる。
「はい」
その言葉を受けて俺が満面の笑みとなっていると、更に赤面したテチさんはフルフルと震えてから……照れ隠しなのか何なのか、先程まで枕にしていた座布団をガシリと掴んで思いっきりに投げつけてくるのだった。
――――以下、あとがきです。
いつもお読み頂きありがとうございます。
皆様の星や応援、励みにさせていただいております。
そうした応援のおかげもあって今回で100話達成となりました!
改めまして本当にありがとうございます。
これからも楽しんでいただける用頑張っていきますので、引き続きの応援の程、頂ければ幸いです。
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