同人エロゲ作者が自分の作品に転生~サークルの先輩にシナリオ改悪されて原作者も知らないヒロインが出てくるんですけど~
三流木青二斎無一門
第1話〈作者死亡〉
『現代退魔奇譚』シリーズ。
術師と言う異能者が平安時代に魔物を生成し、自らの能力の研究を行った結果、夜にのみ出現する怪異〈
同じ異能を扱う術師がその〈禍物〉を討伐する、と言うのが大体の設定だ。
第一作目の『現代退魔奇譚』はその歴史を踏襲した現代の物語であり、既に〈禍物〉が減衰し、術師が存在しなくても良い時代に、四家による権力争いが主な物語だ。
主人公・
第二作目は『陰陽迷宮奇譚』。
別の時代、別の土地にて数百年前から存在する日本一大迷宮が存在した。
その迷宮は術師が作ったモノであり、現代でも未だに迷宮が製造されている。
政府はこの迷宮を潰す為に十の転移系術師を配置し、迷宮攻略及び術師の討伐を命じられている。迷宮で生まれた主人公、
そして、次作『現代退魔奇譚・零』は前々作『現代退魔奇譚』に続く物語が描かれているのだが……。
「ざけんなッ!なんだこの内容ッ!『現代退魔奇譚』に続く話だって言ってんだろうがッ!!なんで話が違うんだよッ!」
今叫んでいるのは俺だ。名前は雲野行方、ペンネームは
電話している相手は『現代退魔奇譚・零』を作るライター及び大学の先輩に対してだ。
先程話した『現代退魔奇譚』はエロゲー会社から発売じゃなくて個人経営による販売、つまりは同人エロゲーであり、その作者は骨牌こと雲野行方……俺が作っている。
有難い事に俺の作品は売れていて、つい先月にはサイトの人気ランキングで十位にランクインした。その界隈ではちょっとだけ名が知られている。
そんな俺は自分の作品を世に出す為に、現在三作目に該当する『神號奇譚』を制作していた。
此処で少し違和感を覚えるだろう。『現代退魔奇譚・零』が第三作目じゃないのか?
厳密に言えば『現代退魔奇譚・零』の設定やプロットを書いて、そのプロットを元に他のライターに書いて貰っているのだ。
基本的に俺は自分で一人で書いている。
他人に自分の世界を汚して欲しくないからだ。
だから、他の人間の手が加わった『現代退魔奇譚・零』は共同作品であり、俺はそれを第三作目として認めていない。
この『現代退魔奇譚・零』は『現代退魔奇譚』の話を掘り下げて欲しいと言うアンケート結果の元に決めたのだが、アンケート集計期間中に俺は既に第三作目の『神號奇譚』の制作をしていたから、要望に応える事は出来なかった。
そんな時、同じサークルに居た先輩が『現代退魔奇譚・零』の制作を手伝ってやると上から目線で要求してきやがった。
当然俺は断りたかったが同期で『現代退魔奇譚』シリーズの原画を担当している子が先輩に弱みを握られているらしく逆らうと原画を担当させないと脅迫されたのだ。
そんな要求を飲みたくはなかったが俺の作品はその原画と合わせて一つの作品。
だから俺は仕方なく『現代退魔奇譚・零』のシナリオを譲ってしまったのだが、それが間違いだった。
あのクソ野郎共。『現代退魔奇譚・零』は『現代退魔奇譚』に続く様な話だから、プロットに沿う内容で頼むと言ったのに、その内容はクソで絵を描いた様な醜悪さ。
物語の前半部分は俺が書いたが、その先の話がいきなり十年後……つまり『現代退魔奇譚』の話へと戻っており物語の結末を書き換えていたのだ。
『現代退魔奇譚』はある術師の悲願である〈禍物〉を日本中に発生させる事を阻止してヒロインと幸せになるのが物語の結末。
しかし奴らは〈禍物〉を発生させたもしもの話を書いていて、ヒロインたちは敵の術師や禍物に凌辱されており、心身共に壊れてそこで終わりと言う最悪なルートを書き上げていやがった。
ふざけた内容だ。こんな展開誰が望んでる。その事を電話で問い質してみたら、その先輩が放った言葉が。
『女の子が酷い目に遭うの興奮するだろ?安心しろって、こっちの方が売れるからさ』
売れるからさ、じゃねぇんだよ!!クソ野郎ッ!!
売れる売れないの問題じゃねぇんだよ!
百歩譲って俺のシナリオの手伝いをする事は許すが、シナリオを書き替えた事だけは許さねぇ!
あまつさえ大切に仕上げたヒロインたちを、心情を無視して売婦にしやがった。
我が子を凌辱された様な気分だ、分かるかこの気持ちがッ。
京都弁を喋る術師名家の妾の子ヒロイン『
身長百八十センチ超えを気にする乙女ヒロイン『
処女ビッチの金髪サイドテールヒロイン『
あとサブヒロインやサブキャラクター、敵ですらも力を入れて書いてたんだッ。
なのに、プロットを確認して見れば晶は政略結婚によって寝取られエンド。
小綿は術師の毒にやられて動けなくなって、金を稼ぐ為に動かない体を無理矢理酷使される凌辱エンド。
そして淑乃は敵の術師に改造されて他の男の性処理と化してしまう洗脳エンド。
ふざけんなこの野郎。人の作品で好き勝手しやがってッ。
電話じゃダメだ。直接直談判してやる。いや、むしろ殴りに行ってやる。
ヒロインが酷い目に遭うのが好きなら俺が酷い目に遭わせてやるッ。
そう意気込んでスクーターで道路を滑走していた時―――。
そこで、俺は事故ってしまった。
その日は雨が降っていた、冬の季節で気温は二度。
路面は凍っていて、スクーターを走らせていた俺は凍った路面を滑ってガードレールの根本に頭をぶつけたのだ。
それが悪かった。頭部は無事だったが首が折れ曲がって、呼吸器官を圧迫、神経は断裂して体を動かせず呼吸困難となり、数分後に酸素不足で窒息死しちまった。
呆然と、苦しみに耐えながら、俺の脳裏は憎き先輩で一杯だった。
あぁ、クソ。俺が死んだら絶対作品の権利奪われる。と言うか俺のペンネームを語ってるんじゃないんだろうか。
そんな事を考えながら俺は死んだ。本当に呆気ない人生だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます