元極振りプレイヤーののんびり放浪記~極振りする度に運営がナーフを入れてくるので完全均等ステータスで遊びます~

天野 星屑

第1話 極振りは許されない

 諸君は、『極振り』、というものを知っているだろうか。

 

 筋力値極振り、防御力極振り、知力極振り、器用値極振り、エトセトラエトセトラ。

 

 ゲームによって様々な違いのあるステータス。

 

 それらのいずれかに特化し、その圧倒的な力と、欠点を長所に変えるスキルによって周りを蹂躙する爽快感!

 

 それはかつて、様々な小説、漫画、アニメに取り上げられ、多くの者を魅了した。

 

 VRMMOの興隆に伴ってその類の小説はどんどん減っていったが、その発想を追いかけた者は現実となったVRMMOでそれを実現し、小説のように、漫画のように、アニメのように!

 

 ……敵を蹂躙し、他のプレイヤーを圧倒し、ヒーローとなる。

 

 圧倒的な力を獲得し、他の何者の追いつかない領域に到達し、ただ一人ゲームの頂点に立つ。輝かしい世界が待っている。


 ……そう思っていた時期が俺にもありました。



******



「またキャラリメイクするかぁ」


 手で顔を覆い、俺は大きくため息をつく。


 現在俺の参加しているVRMMO、『鋼の大地』の最新アップデート情報が公開された。様々な調整やバグの修正に加えて、今回の調整最大の目玉である修正内容が、目の前のモニターには示されていた。

 

 『ステータスのDEXの数値と命中率、クリティカル率、ダメージに関する仕様の調整』。

 

 その簡素な文が、この一月以上の俺の行動を全て否定していた。

 

 いや、そう言うと語弊があるかも知れない。俺は、否定されることは予想していた。その上で、一月以上、特定の行動を続けていたのだ。

 

 結果、予想通りに否定された。わかりきっていた話だ。VRMMOの世界にたった一人のヒーローは必要ない。全員がヒーローとなって、全員が一般人となる。そういう世界なのだ。

 

 パソコンとゲーム機をつなぎ録画出来る状態を確保する。接続が良好なことを確認し、ゲーム機を頭にはめてベッドへと横たわる。後はスリープ状態になっている電源をオンにすれば、ゲーム機が起動して俺をゲームの世界へと連れて行ってくれる。

 

「次は何するかなあ。ネタがなあ……」


 電源を入れると、目の前にあった天井の風景が消え、白い空間へと連れて行かれた。

 

『セーブデータを選択してください』


 目の前にいくつものセーブデータが浮かび上がる、一つ目には、『ロキ』と名付けられた銀髪長髪の怜悧な美貌を持ったイケメンキャラが収まっている。この一月以上の間、俺が使い続けたキャラクターだ。

 

 ロキの下には、トール、ヨルムンガンド、ワルキューレ等、ロキ以前に俺が使っていたキャラクターが眠っている。いずれも、二月ほどの短い命だった。

 

「新しいセーブデータを作成する」


『承知しました。キャラクターメイクを開始します』


 電子の声とともに、目の前にあったキャラクター群が消え、代わりに様々な情報が収められたウインドウが浮かび上がった。

 

「うーん、次は何を出すかな……」


 俺はただ自分が楽しむためにこのゲームをプレイしているのではない。自分でプレイすると同時に、それを動画にして配信することで金を稼いでいる。金に余裕があるとは言え、自分がやりたいことだけをするわけにはいかない。

 

 人々に受けるネタを、そしてできれば自分も面白いと思えるネタを。そんな事を考えて、ここ数年は色々なゲームを渡り歩いてきた。そして、いつも同じ結末に陥る。

 

 すなわち、ネタ切れに。ただひたすらにうまいプレイや、優れた戦い方を動画にするつもりは無い。見ていて面白い動画を目指しているからだ。だが、その結果として出来ることが無くなってくるのだ。

 

 いつもはネタが切れてくるとマイナー武器や奇抜な立ち回りなど、単発や短い期間で完結する内容を動画にしてきた。そしてその間に次の面白そうなゲームを探し、それを動画にする。だが、今回はそうしたくはない。この世界に、少し愛着が湧いてしまったのだ。

 

「ちょっと普通にやってみるか。……いや、この際ステータスを全部平均値に振ってみるか。後は最速攻略じゃなくて、のんびりゲームを楽しんでみよう」


 まあうちの視聴者は俺のネタが好きで見に来てくれてるだろうから不評かも知れないが……たまには良いだろう。完全平均値なら極振りほどではないがネタにもなる。少なくとも名前はつけられる。

 

「キャラクターは、いつものイケメンから変えてちょっとむさいおっさんぽく……」


 慣れた設定を操作し、新しいキャラクターを作る。今回のキャラクターはいつも使っているイケメンや渋いおっさん系のキャラクターではなく、少しいかついスキンヘッドのキャラクターにした。こちらも新しい方向性の開拓といったところだ。

 

 名前はベオウルフ。動画の都合上色々なキャラクターを作るのでいちいち名前を考えるのも面倒くさく、北欧神話の名前を適当に取ってきている。多少は知識のある神話だが、名前決めはあくまで適当だ。

 

 キャラクターの作成が終わった所で録画を開始する。

 

「はい、皆さんこんにちは、極振りおじさんことアマツです。別でアップロードする動画でも言及すると思いますが、DEX極振り暗殺ビルドが調整で潰れました。合わせて次やろうと思ってたDEX極振り弓ビルドも飛びました。まあ俺の動画を見てくれてる方には慣れたことだと思いますが」


 いつもどおり前置きを短く、簡潔に語っていく。

 

「で、次はどうしようかなってことで色々考えたんですが、とりあえず」


 一息置いて本題を告げる。

 

「今回から、『ステータスを完全平均値に振る』という企画をします。いつもと違って最速レベリングではなく、のんびり楽しみながらやってみたいと思います」


 いつも最初の動画は5分以内におさめている。もう少し話す時間があるので、企画に対する思いを話しておくことにする。

 

「今まで俺は、企画をやるためにそれ以外を全部捨ててきました。正直もっと楽しもうと思えばいろんなことが出来ただろうけど、それを楽しまないでやってきました。だから今回は、割と純粋にゲームを楽しむ感じでやってみようと思います。いつもより伸びないとは思いますが、とりあえずやってみます。いつもどおりコメントは受け付けてるので、つまんねえとか、意外とありなんじゃねとかくれると嬉しいです。では、次回から始めていきます。皆様に、ぶっ飛んだゲーム生活があらんことを」


 録画を終了し、キャラクターを保存して一旦ゲームからログアウトする。外で今の動画の編集などを済ませたら、いよいよゲームを始めよう。

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