第15話 消耗①

 ユイが友人のカナを呼んで来てから――およそ一か月が経過した。


 学校作りはほぼほぼ完成を迎えており、後はユイが担当する教室の範囲を残すのみとなった。



 爆薬も課金して大量に入手したため、教室が完成したその日に爆散させることが可能である。



 肝心のユイはどうやら忙しいらしく、最近はめっきり来なくなった。そのため学校制作は一旦保留にして、彼女が来る前に作っていたボロボロの校舎の制作に時間を当てている。意外にも引用できる素材が多く、そちらの作業も滞りなく進んだ。



「ん~~~。今日はここまでにするか」



 ウィンドウから時間を見ると丁度深夜零時だった。まだフルダイブできる活動限界には余裕があるが、キリが良いからこのままログオフして早めに寝よう。ああそうだ晩御飯もまだ食べていなかったな。めんどくせぇ。



 フルダイブ中は肉体のほとんどの信号を遮断するため食事や睡眠がついつい忘れがちになってしまう。世間で言うフルダイブ依存症にばっちり属している僕から言わせれば、教師時代よりも明らかに体重と筋肉量が落ちたからフルダイブが不健康を呼ぶのは間違いないだろう。それを実感しつつもやめる気が欠片もないのは、僕が悲しいほどにゲームに依存しているからなんだろうなぁ。



 ……それにしても。



 ふと僕が作り上げた田舎町を見渡す。過疎化が致命的にまで進んで二十年もすれば日本地図から消えそうな田舎。終末感とどこか田舎特有の生活感を数か月かけて一人で続けて来たのだが――



「寂しいな」



 自分がそう思えた事に少し驚いた。教師を辞めた時はとにかく人と関わりたくなく、逃げるようにワールドの隅に閉じこもった。



 現実逃避は今もなお継続中ではあるけれど、以前とは明らかに心持が変わっていた。少なくとも誰もいない空間に寂しさを感じれるぐらには心が回復へ向かっていた。



 きっと――彼女達のおかげだろう。他愛もない彼女との会話が、気づかぬ内に僕の心境に変化を与えたらしい。ちょっと悔しいから口には出さないけど、彼女達には感謝しなければなと思う。



 そんな事をしんみりと浸りつつ、ログオフボタンを押そうとして――



 気づく。メッセージが届いていた。



 このロストワールドでは、フレンドになった相手とはログインしなくても文章を送る事が出来る。



 宛先主は――『ユイ』。タイトルは無題。メッセージを開けるとたった一文だけ書かれていた。



『ごめん。もうログインできない』


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