第12話 ゲームの先生②




 二人と軽い自己紹介を済ませたら、僕は黙々と校舎作りの作業を再開させた。

 彼女達はというと、僕とは少し離れた場所にある運動場でこのゲームの遊び方をカナにレクチャーしていた。



 古参特有の初心者に何でも教えたい欲求がウズウズとこみ上げて来たが、でしゃばり何でも教えるよおじさんにはなりたくなかったため、出来るだけ平常心を装って作業をする。



 ……でも気になるから時よりチラリと視線を向ける。



「――とまぁ、こんな感じでブロックの色を変えれるから後はサイズを指定して……。よく使う形のブロックはショートカットに登録したらすぐ生成できるよ。分かんなかったら公式サイトで無料配布している汎用テンプレブロック1から16まで全部ショートカットにぶち込んどけば何とかなるから」


「ユイちゃん。ユイちゃん」


「なにー?」


「……あの人、誰ですか?」


「先生だよ。学校が嫌いだからぶっ壊すために作ってる変な人。面白そうだから私も手伝ってるんだ」


「え……? それじゃあ、目の前にある学校も手作りなの……?」


「うん。ちなみにこのワールドにある建造物は全部先生の手作りだったりするよ」

「ここに来るまでの街並みも森も駅も全部……? ……あ、あはは。……すっごく上手……だね?」



 引いていた。明らかに彼女はドン引きしていた。遠目からでも分かるぐらい引いていた。



「ねー。拘り過ぎてキモいよねー。クックパッドの調味料適量って項目にキレてそう」



 なにその偏見。あとお願いだから笑ってないでフォローしてユイさん。

 しばらくすると、仲良く談笑しながら二人が戻って来た。カナは人見知りなのかユイの背中にピッタリくっついて僕と視線を合わせない。


 ……あるいは単純に僕の事を気持ち悪いと思ってるかだなぁ。



「先生どう? 進捗どんな感じー? 今何してんのー?」


「この数日で外観と運動場はほぼほぼ完成。内装はまだまだって感じだけど、ユイが手伝ってくれるおかげで予想よりも随分早く進んでいるよ。今は校舎裏にある美化委員が手入れしているけどサボり気味で半分ぐらい枯れている花壇を作ってる」


「相変わらず何その拘り……。ってか内装は三年四組だけは放置しておいてね! 私が作るから!」



「教室作るならこの『長い間誰も掃除してなくて真っ白になっている黒板消し』使うか?」


「いらないわよ! 何で先生のは全部汚れてるのよ! 私の学校は私立よ私立! 黒板を上下動かせるナウな学校だってば!」


「上下動かせる黒板なら理科室にあるぞ。長い間チョークがついていたせいで色が落ちていない黒板が」


「だからいーらーなーいーわよ!」


「……お、お二人は仲がとても良いんですね」



 ユイの背後にピッタリとくっついていたカナが、おどおどしながら訪ねて来た。彼女にはあの口論のどこを聞いて仲が良いと思ったのか。



「もしかして……お、お付き合いしているとか……ですか?」


「付き合ってる……? 私とコイツが? ……ふんっ」



 鼻で笑われた。



「カナちゃん聞いて。この『なりたい顔ランキング』にて圧倒的一位に選ばれた五千年に一度の美少女と呼ばれた私様が、こんな僻地に住まう無職を好きになる訳がないじゃないの。あははカナちゃんってば冗談が面白いのね」



「そ、そうなんだ。てっきり性格の悪い素のユイちゃんが出てたから、そういう関係なのかなぁって思っちゃった。普段は絶対に悪口なんて言わない優しい人なのに」



「うぐ!? プ、プライベートな話はゲームでは禁止ッ!!」



 痛い所を突かれた様子のユイは勢いよくカナに振り向くと物理的に彼女の口を塞いだ。感情表現がやや過剰に描写されるこのロストワールドにて、ユイの顔は恥ずかしさで真っ赤に染まっていた。



 ……それにしてもユイのアイドル設定がどんどん盛られているなぁ。五千年に一度の美少女はもうホラの終着点な気がする。



 少し驚いたのはリアル友達と思われるカナが、彼女の嘘にノータッチだった所だ。

 ……多分日常的に口にしている嘘なんだろうなぁ。






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