第2話 田舎を作ろう②


『この世界があなたにとって第二の故郷になりますように』


 そんなキャッチフレーズを引っ提げて発売されたロストワールドを一言で説明するならば『究極の箱庭ゲー』である。



 自分にとって最高の箱庭を好き勝手作り出すのがこのゲームの主軸であり、強いボスを倒すといった明確なゴールが無いためハマるハマらないがきっぱりと別れる印象だ。



 仮想現実に意識を転送させる――いわゆる『フルダイブ技術』がゲームに導入されて随分と月日が経ったけど、世界で流行りの中心は広大な世界が売りのオープンワールドばかりであり、箱庭ゲーはマイナージャンルである。まぁ、別にマイナーでも僕が好きなんだからいいんだけどね。



 ある意味オープンワールドの真逆を全力で突っ走るストロングスタイル。「それ別にフルダイブじゃなくてよくね?」なんて悪口をネットで何度も聞いた。



 このゲームの魅力は、実際にある程度プレイしてみないと分からないものなんだよなぁ。



「えーと……ワールドはいつものように『9789』を選択してと」



 僕は何千と存在する世界の中から後ろの方――厳密に言えば僕以外ほとんど誰もログインしていない過疎サーバーを選択して、ゲームの世界に降臨した。



 見渡す限り緑の大地。雑草は無造作に生い茂り、人の行く手を阻むように木々が立ち並ぶ。西も東も分からぬ森ド真ん中。もしこれが現実世界ならパニックを起こしてレスキューを呼んでいただろう。



 スタート地が誰の手も介入されていない自動生成エリアなのは過疎ワールドあるあるだよなぁなんて考えながら、僕は画面右上にあるアイコンをタッチしてメニュー画面を出現させると『エリア移動』を選択。瞬時に僕の体は光を纏い、空高くに飛び上がる。ドラクエのルーラとモーションはほぼ一緒である。ちなみに密室で使うと天井に頭をぶつける。怒られないか少し心配である。



 十秒程度ロードを挟み、僕は作業場所へと移動した。



 まず目の前に広がるのは――強風で倒れてしまいそうな木製で出来た無人駅であった。



 風化して近くに寄らないと読めない『神無月駅』という駅の立て看板。背もたれが無い木製のベンチ。駅の傍にある謎の大木。全く頼りにならない駅前の地図。



 駅周辺は車の駐車のためにアスファルトで固めてあるが(実際にはアスファルトのような色と固さの土ブロックを並べただけなんだけど)年期が経ちまた誰も業者を雇わないので、そこら中にヒビが入っている。謎の大木とアスファルトの繋ぎ目には、小さな花や根が地上から固い地表を突き破って凛として姿で天に伸びていた。



 拘りポイントは、自動改札機ではなくポストのような四角い箱に切符を入れる無人駅という所である。田舎も田舎、一時間に一本しか来ないレベルのド田舎にしか無いタイプの駅。ICカード乗車券で電車に乗った時に困るタイプの駅。駅員に清算して貰おうとしてもそもそも駅員いねーじゃん! ってタイプの駅。



 この無人駅は、端から端まで全て僕一人で作り上げた。並行作業していたから厳密な時間は分からないけど、半月はかかったと思う。まだこのゲームに慣れていない時だったので田舎の再現に苦戦した記憶がある。今ならもっと早く作れそうだ。

 ちなみに電車は駅に停車しているけど、専門外のためほぼハリボテ状態である。いつか内装にも拘っていきたいなぁと考えているが、ついつい後回しにしがちである。



「………ふっ」



 僕は無人駅をざっと見渡してニヤリと満足気に笑った。中々のリアリティだ。やはりエリア移動して最初に見るのは駅だよなぁ。なんと言うか、新しい世界に降り立った感覚がする。



 僕はくるりと半回転して駅に背を向けると、どこか手を加える場所が無いか辺りを見渡しながら歩き始めた。



 駅の傍にある交番。明らかに何年も放置されてボロボロにさび付いた自転車があり駐輪場を横目に、駅のホーム同様ヒビ割れたアスファルト加工の道をゆっくりと進む。



 無駄に巨大なだけで中身がスカスカのスーパーを過ぎると、辺り一面に田んぼが広がる。古くてボロいものを沢山ぶち込めばいいのではなく、こんな風に何もない場所を結構な頻度で作らないといけないのが、田舎作りの難しい所である。



 そう僕は、近未来のフルダイブRPG『ロストワールド』を使って――僕だけの田舎作りをするのを趣味としていた。

 

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