第23話 お茶を楽しみながら
私とロコは、ラナリアちゃんに誘われて中庭にお茶をしに来ていた。
ラナリアちゃんが言っていた通り、中庭に辿り着いた時、既に準備は完了していた。
テーブルの上にはお茶のために色々と並んでいる。周りには、数名のメイドさんもいる。なんだか、思ったより本格的なお茶だ。
しかし、考えてみれば、ラナリアちゃんは本当の貴族である。このような本格的なものが並んでいるのは当然なのかもしれない。
「さて、座ってください」
「あ、うん」
ラナリアちゃんに言われて、私は椅子に座る。
なんだかよくわからないが、緊張してきた。このようなに本格的なお茶など初めてである。
「ロコは、こっちにお水を用意したよ」
「ワン!」
そこで、ラナリアちゃんは抱きかかえていたロコを脇に下ろした。
そこには、ロコ用に飲める水が用意してある。どうやら、ロコもお茶に参加できるように、考慮してくれていたようだ。
そういえば、ラナリアちゃんはロコには砕けた口調で話している。これが、ラナリアちゃんの素なのだろうか。
「それじゃあ、お茶にしましょうか」
「あ、うん」
私がそんなことを考えていると、ラナリアちゃんが正面に座った。
すると、周囲にいたメイドさんがお茶の準備を私達の前にあるカップに注いでくれる。
「ミナコさん、本日は私のお願いを聞いてくれてありがとうございます」
「え? あ、いいよ、別に。私も暇だったからね。むしろ、こちらの方こそ、誘ってくれてありがとう」
そんな中、ラナリアちゃんはそのようなことを言ってきた。
しかし、私は別に感謝されるようなことはしていない。むしろ、こちらがお礼を言うべきである。おかげで、楽しい時間が過ごせそうだ。
「それで、なんの話をしようか?」
「そうですね……それなら、ミナコさんとロコの話を聞かせてもらってもいいですか?」
「私達の話?」
「はい。ミナコさんは、ロコとの記憶はあるのですよね。それを聞かせて欲しいのです」
私の質問に、ラナリアちゃんはそう言ってきた。
どうやら、私とロコの話を聞きたいらしい。
そういえば、私はロコとの記憶だけは覚えている記憶喪失という設定だった。そのため、この過去については話しても大丈夫なのである。
「そうだね……何から話したらいいかな?」
「それじゃあ、出会いとか?」
「出会いか……」
ラナリアちゃんが聞いてきたのは、私とロコとの出会いだった。
確かに、最初に聞くのはそこからがいいのかもしれない。
ただ、その出会いを説明するには他の人とのことも説明する必要がある。それは私の設定と色々と齟齬ができてしまうだろう。
「えっと、確か知り合いから預かったとかだったと思うよ」
「そうなのですね。やはり、詳しいことは覚えていないのですか?」
「え? あ、うん」
とりあえず、私は曖昧な答えで誤魔化しておいた。
かなり苦しい言い訳だが、私の現状を鑑みるとこう言うしかないのである。
「ロコが赤ちゃんの頃から出会ったのですか?」
「あ、うん、そうだよ。本当に小さい頃から、ロコとは一緒なんだ」
「そうなのですね……」
次の質問は、きちんと答えられた。
私がロコと出会ったのは、ロコが赤ちゃんの頃からだ。
「犬の赤ちゃんですか……どのような感じなのですか?」
「今よりもっと小さくて、少し顔が丸い感じだったかな?」
「なるほど……」
私がロコの小さな頃を説明すると、ラナリアちゃんはロコの方を見つめた。
恐らく、ロコの小さい頃を想像しているのだろう。
ロコの小さい頃は、とても懐かしい。ロコも、あの頃は今ほど言うことを聞いてくれる訳ではなかったため、色々と大変だった。
「きっと可愛いんでしょうね……」
「うん、でも、今も変わらず可愛いよ」
「あ、そうですよね……」
ラナリアちゃんは、ロコの小さい頃が可愛いと言った。
だが、ロコは今も可愛いのである。その主張だけはしておかなければならないと思ったのだ。
「ミナコさんは、本当にロコが大切なのですね」
「え?」
「ロコの話をしている時、ミナコさんは本当に楽しそうです。それだけ、ロコを大切に思っているということですよね」
「それは……そうだね」
ラナリアちゃんの言葉に、私はゆっくりと頷く。
確かに、私はロコのことを大切に思っている。そして、ロコの話をするのは楽しい。そのため、ラナリアちゃんの言葉はとても納得できることだったのだ。
そのような話をしながら、私達はお茶を楽しむのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます