俺の彼女が尊すぎるwww

下垣

(´;ω;`)ブワッ

 聞いてくれよ。今、同棲している彼女がマジに尊すぎていつも憤死状態になるんだ。こんな超絶美女と同居できるなんて夢のようだな。


 今日は、俺が仕事に行こうとした時には「早く帰ってきてね」って言いながら、俺の服の袖をチョコってつまんでくるんだぜ。もうそれが可愛くて、思わず抱きしめたくなったんだ。


 そのお陰で憂鬱な仕事もがんばれたんだ。まあ、俺の職場は正に彼女のお陰だな。あーあ。こんないい想いができない彼女ナシ男は可哀相だな。


 まあ、世間は夏休みだって言うのに、社畜の俺にはそういうものはないんだぜ。有休を取ろうとしても繁忙期だから無理の一点張り。全く嫌になってくるな。折角、彼女が家にいるんだから、夏の間くらいは家でゆっくりさせて欲しい。まあ、職場が夏は繁忙期だから仕方ないと言えば仕方ないか。だが、夏休みがない分、冬休みが長くなるかと言うとそうでもない。世間一般的な冬休みと大差ない。ただ、単に無駄に夏が忙しいだけだ。本当に世の中は狂ってるよな。


 んで、仕事から帰ってきたら帰ってきたで、「おかえり!」って人懐っこい笑顔を俺に向けてくれるんだ。まるで尻尾を振って飼い主に媚びる子犬のように可愛くてな。仕事の疲れが一気に吹っ飛んだんだ。これがもう尊すぎて、思わず彼女を抱きしめようとした。すると、彼女は悲しそうな顔をしながら、「ダメ」って言って避けてしまった。なんだ。そういう照れ屋なところも可愛いじゃないか。


 その日の夜はもう盛り上がったね。と言っても別に変なことはしていない。俺がベッドで寝ていて、彼女が枕元に立っていて2人で話をしてたんだ。それはもう話に話したさ。去年の夏の終わりから今日に至るまでの思い出話。彼女は俺の話を興味深そうに聞いてたな。でも、時折寂しそうな顔も見せるんだ。俺としては彼女が寂しくならないように一生懸命話しているつもりなのに中々に難しいな。


 まあ、明日は土曜日だからこんなに長く話せたって言うのもあるな。繁忙期とはいえ、ウチの会社は完全週休二日制だからな。と言っても仕事帰りの俺の体力は段々と限界が来て、ついウトウトと寝てしまった。


 翌日、俺が目を覚ますとなんだか金縛りにあったかのように動かない。俺は少しパニック状態になりながらも、状況を把握しようとする。落ち着け。金縛りなんてない。あれは脳が起きているけど、体がまだ起きていないから発生する現象だ。落ち着いて待てばしばらく動けるようになる……そう思っていたら、彼女が俺の上に覆いかぶさって寝ているのだ。なるほど。金縛りの原因はこれか。


「ん? 起きたの?」


「ああ」


 俺が起きたことに気づくと彼女はすっと俺の上から退いた。するとさっきまでの金縛りが嘘のように消えて俺は動けるようになった。


 昨日は寝てしまっていたか。少しでも彼女と一緒の時間を過ごしたかったけれど、仕方ないか。


「さてと……今日は、どこかにでかけようか」


 せっかくの休日だ。外の出ないと損だ。というわけで、俺は彼女と一緒に外出した。彼女と談笑しながら散歩している俺を、周囲の人間が奇異な目で見ている。なんとも失礼な奴らだな。まあ、俺みたいな普通の男がこんなに美人な彼女を連れているんだから、不思議な目で見られるのは仕方のないことか。


 俺は、近所の花屋に向かい、そこで彼女の好きな花を買う。そして、交差点の脇にそっとその花を置いた。彼女はこの場所に嫌な思い出があるので、先に家に帰っていった。


 翌日……俺はこの日が来て欲しくなかった。お盆の最終日。今日は彼女とお別れの日だ。元々、半透明だった彼女の体が更にスケスケになっていた。俺は思わず彼女に向かって手を伸ばす。俺の手は彼女の体をすり抜けて、虚しく空気を掴んだ。


「そろそろ時間になっちゃった。今年も会えて嬉しかった」


「ああ。俺もだ」


 子供の頃は嫌なものしか見えない。そんな能力だと思っていたけれど、彼女が見えるようになってからはこの霊能力も悪くないものだと思った。


「来年からはもう来なくていいよね……?」


「な、なに言ってるんだよ!」


「だって……あなた、他に好きな人がいるんじゃないの?」


「いるわけないだろそんなの!」


 俺は強く否定した。確かに、最近仲が良い女の後輩がいるけれど、あいつとはそういう関係じゃない……断じて違うんだ。俺には彼女がいる。


「私に気を遣わなくてもいいよ。私とあなたはもう違う世界の住人だから……だから、一緒になれないの」


 そんなこと俺が一番良く分かっている。こんな関係をずるずる続けていくのが良いわけがない。だけど、俺は彼女を切り捨てられないんだ。


「生きている人は生きている人と一緒になるべきなのよ。だから、私のことは忘れて……」


 彼女の体が消えかかる。彼女は目こそ笑っているが、口元が歪んでいる。無理して笑っていることが目に見えてわかった。


「うぅ……ご、ごめん。やっぱり無理だ。忘れられたくない……忘れられたくないよぉ……」


「俺はお前を絶対に忘れない! 忘れるものか!」


「ありがとう……この先、誰と一緒になっても私のことを……時々思い出してね……」


 そう言って彼女は消え去ってしまった。翌年もその翌々年も彼女は来なかった。そんな落ち込んだ俺の様子を見ていたのか、後輩女は俺を励ましてくれて、その心の隙間を埋めるようにして俺たちは自然とくっついたのだ。


 彼女のことを忘れたわけじゃない。だけど、やっぱりいつまでも引きずっていると天国の彼女を心配させてしまう。これからは前を向いて生きて行こう。新しい彼女と共に。



「うぇいうぇーい。どうしたの?」


 下界の様子を眺めていると、彼が声をかけてきた。3年前、こっちの世界にやってきた彼。いつの間にか惹かれていて自然と付き合うようになっていった。


「ううん。なんでもない」


 元カレの様子を眺めていたなんて言ったら、嫉妬されちゃうかな。元カレもやっとのことで新しい恋人を作ってくれたみたいで良かった。やっぱり生きている人は生きている人とくっつくべきだ。


「やっぱり、死んでいる人は死んでいる人と一緒になるべきだよね」


「うぇい? なに当たり前のこと言ってんだうぇいうぇい? まあいいやそれは。今年も下界に降りなくていいのか?」


「ふふふ。いいのいいの。あなたと一緒にいるのが幸せなんだから」

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