第42話

 私は、【飢餓完全耐性】を持っているため食料を取る必要はない。


 別に、他者との交流が何かをもたらすわけでもない状況で、私の隠している蟲の姿を見られるのはデメリットが大きいため、近所付き合いというものも必要ない。


 貴族相手の店の宣伝というのも、もともとひっそりとやっていければと思っていたところに、勝手に評判になって儲かっていったので、それも必要ない。


 つまりだ。


 わざわざこの店兼家から出て、何かをする必要というものが普段は全くないということだ。


 だが、今回ばかりは例外だ。


 下手に何も言わずに消えて、帝国軍に捜索願でも出されれば、とんでもないことになりうる。



 普段店でつけている物よりも、数段隠蔽性が高いローブと、いつもとは模様の違う仮面をつけ、裏口から簡単な施錠をして出る。


 本当は、しっかりと施錠しなくてはいけないんだろうけど、私の場合は蟲達に店を守らせているので、それすらも本来は必要ない。


 だが、いくら簡単であってもカギを付けなければ、バカがやらかして、後々に面倒になることは目に見えていた。



 約一月ぶりの外出に、少し散歩でもしながら行くかと考えていると、道行く人に何か少しだけ違和感を覚える。


 今日訪ねる予定の10件の内、3件を回ったところで気付く。


 道を歩く人の数が、3割ほどいつもより少ないと。


 そのことに気付いて、道を歩く1人を捕まえて話を聞いてみると、どうやら国から重大な発表があるらしく、たくさんの人がコロッセオに集まっているらしい。


 この国のコロッセオはとても広く、帝都の人口の半分を収容してもまだ余裕があるほどだ。


 そんなところに人を集めて、一体全体何になるんだろうと思いながらも、興味がわいてきたので、すべて回り終わったら見に行ってみようと決める。


 そうと決まれば行動は早い。


 それからすぐに10件回り終わった私は、そのままコロッセオへと向かった。



 コロッセオの周囲には屋台が大量に並び、たくさんの、そしていつもの何倍もの人の数でごった返していた。


 大量の人ごみの間をくぐり抜け、私はコロッセオのほぼ最外部にある座席に座る。


 ほぼ一番外にある席だからか、辺りを見回すとほとんどの座席が見えていた。


 それで分かったのだが、コロッセオは今やほとんどの席が埋まっており、さらに続々と人が入ってきていた。


 結局、多くの者が立ち見となった状況で、1人の男がコロッセオの中央に現れた。

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