第36話

 さて、何をしようか?


 今日も、武術の型を稽古をしながら考える。


 最近、ここ数日はずっとこうして悩んでいた。


 つい先日、30歳の誕生日を迎えたのと同じころに、武術の鍛錬を始めてから手に入れたスキルである、【下級近接戦闘術】のスキルレベルがMAXになったばかりだというのに、その進化スキルである【低級近接戦闘術】が、レベル82に到達しているのも悩ましい理由だが。


 何が悩ましいかって、これからどうするかという目標が消えてしまったからだ。


 今までは、少し脇にそれることはあっても、何をやるべきか、という最終的な目標は何も変わらず存在していた。


 しかし、その目標も今はない。


 新たに目標を設置しようにも、何かが浮かんでくるということもない。


 何なら、目標が見つかるまでの暇つぶしにと、転生前に散々、柏木という友人の家の近接戦闘全般の武術道場で見た動きを再現してみるも、驚くほどの速度で成長を続けるスキルに、もうこのスキルを鍛えることを目標にすればいいんじゃないかとすら思い浮かんできたりして、さらに悩ましくなる一方な状況であった。



 うんうんと、唸っていると突然、一匹の小さな蟲が目の前に飛んできた。


 この小さな蟲は、【生命探知蟲エネミーサーチャーバグ】と言って、小指よりの先よりも小さな蟲でありながら、生命探知に特化してなんと位階4という、途轍もない能力を持った蟲だ。


 この蟲は、私の持つ【魔蟲創造】でこの森に来た時に1,000匹ほど創り出し、一定の範囲内に人などの生命反応があった時に呼びに来るようにした蟲だった。


 言ってなかったかもしれないが、この森はなかなか広い。


 それに、ふもとから見て、頂上が雲に隠れて見えないようなところまである山を、いくつも含んでいるこの森は、魔物も相当強いものがたくさんいた。


 そんなところに、念のためと家を建てた近場に放っておいた【生命探知蟲エネミーサーチャーバグ】の知らせが来て、少し驚いていると、【生命探知蟲エネミーサーチャーバグ】はさらに驚愕する情報を出してきた。


 なんと、その近くに来た存在は、どうやら一般的に騎士と呼ばれるような姿をしているらしいのだ。



 何をしようか悩んでいた矢先に、この来訪者。


 良い吉兆か、悪い吉兆か。


 それはまだ分からない。


 私は、少し心を踊らせながら、客を招くための準備を始めた。

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