第12話

 「私も複数の目を操作するという点では大量の思考をしている。しかしながら少年はそんな私を軽々と上回る量の思考を常時行っていた。それこそ少年の配下である蟻たちが足一本動かすことさえ少年の頭で計算していたのだから。」


 「んなっ!!そんなん幾つ頭があっても普通無理だろ!!馬鹿な俺にだってわかるぞ。」




 賊王と識王がそう怒鳴りあっている一方、当のハマーの方は残りの蟻たちを使って最後の攻撃を仕掛けようとしていた。



 先ほどの賊王の攻撃のラッシュにより、まだ無事な蟻の数がごくわずかになってしまっていたからだ。



 『ソナタハ逃ゲヌノカ?今ナラ我々ヲ囮ニスレバ、無事逃ゲ切ル事ガ可能ダト思ウガ。』


 〈高位女皇蟻ハイアントエンプレス〉は俺の身を案じてそう言うが当の俺からからすれば、今更というものだった。


 「今更逃げてどうする?何の身寄りもない村を滅ぼされたただの子供が、いったいどうするってんだ。それよりはこっちでまだ暴れる方がまだマシだ。」


 俺はそこまで言うと、残った〈高位女皇蟻ハイアントエンプレス〉も含めたすべての蟻たちに最後の突撃命令を出した。



 今まで攻めなかったのに急にこちらから側から攻め始めたため、大きな混乱が生じて賊王と識王は二人とも混乱を抑えて反撃に移るのにかなりの時間がかかった。


 しかし、盗賊側が混乱は抑えられ奇襲に対する反撃を開始すると蟻たちは次々と殺されてゆき、やがて〈高位女皇蟻ハイアントエンプレス〉もほかの蟻たちは皆やられた状態で暴れ続け、盗賊側の数が残り二桁といったところまで減らしたのちに絶命した。




 「ついにこうして貴様を捕えたわけなんだが何でそこまで冷静なんだ?普通はもっと焦ったり、悲観的な表情したりするもんなんだが。」


 「捕えられた時点で殺される線は消えたのですから、そう悲観的になる必要などないと思いますが。」


 「まあ、そうなんだが。」



 賊王は〈高位女皇蟻ハイアントエンプレス〉を倒した後、俺を何故か親友と宣言した後、縄で縛ってぐるぐる巻きにした。


 そして、識王と残った配下の盗賊達に死体の片付けを命じて、こちらに話しかけてきた。



 「一応お前に言っておくがお前は奴隷として売っぱらうつもりだ。流石にこれだけコテンパンにやられると、盗賊団の再建が大変だからな。これでも俺らは有名だ。ヘクトール盗賊団をほとんど壊滅させた実力があるっていう箔が付いていれば、王侯貴族にだってうれるからなぁ。」


 「そこで、お前に問おう。選択肢は2つある。どっかの伝手のある評判の悪くない王族に売りつけられるのと、賢者どもの実験動物として売られるのと、どっちがいい?こっち的には値段は大して変わらんから選ばせてやろう。」



 一見片方は最悪に見えるが、実はそうでもない。


 木っ端のマッドどもならともかく賢者たちの実験動物であれば、その実験内容は大体決まっている


 それは、能力の強化実験だ。


つまるところ、今後安寧かどうかはわからないがある程度平和な生活をしたいのであれば王族の、途轍もなく苦労はするが今よりも強くなりたければ賢者の、どちらかの奴隷になるか選ばせてくれるというのだ。


 これは悩んだ。


 考えが決まった時に既に識王達が死体を片付け終わっていたため、恐らく半日は考えていたと思う。




 「で、結局どっちの奴隷になるか決まったか?」


 賊王のその問いに俺は宣言する。


 「私は━━━━。」

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