第1話

西暦2020年8月17日




 




 


 「───、───。」




 




 腹が、減った。




 




 「────、───。」




 




 体が、だるい。




 




 声にならない息が口から飛び出る。




 もう1週間近く何も口にしていない。




 いや、それほど経ってないかもしれないし、もっとかもしれない。




 2週間近く前から熱と咳が止まらない。




 意識が朦朧として時間の感覚が曖昧だ。




 視力が2,0あった視界もぼやけて、自分の息の音すらはっきり聞こえず、部屋に置き去りの生ゴミの匂いも、口に流れ落ちた汗の味も、自分に掛かっている布団の重みさえも少し前から感じなくなった。




 こんな状況でも自分はようやくか、といった感情だった。




 昔から親には愛されていると思ったことは無かった。




 暴力を受けていたということは無い。




 ただ、基本的に無視されているだけだ。




 好きの反対は無関心。




 初めてその言葉を聞いた時、なるほどと思った。




 両親は自分になんの感情も抱いていないのか、と。




 義務感なのだろう。




 両親からすれば、作ってしまった子供は一応は生きてる限りは育てなくては、という。




 だから、たまに食事を忘れることもあれば、病気になっても病院に連れて行かれることも無かった。




 夏休み前、中学校では新しいウイルスが世界中に流行っているニュースを聞いた。




 もしかしたら、それかもしれない。




 布団から動けた時はまだ食事は出されていたが、動けなくなってからは水すら用意されていなかった。




 両親からすれば自分を消すいい機会だったのだろう。




 


 ああ、本格的に、意識が、朦朧と、してきた。




 


 生まれ、変わったら、もっと、まともな人生を、おく、り、たい、な。




 


 くそっ、ハラ、が、減っ、た。

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