百合を見守るオタクたち

シュタ・カリーナ

第1話


「百合――それはこの世で最も尊いもの」


 そう豪語する少しぽっちゃり気味のこの男はオタクである。


「ならば、我々はそれを見守り、愛でるのが責務」


 そう言うこの男もオタクである。


「「故に我々は清楚系委員長の斎賀さんとギャル系JKの浦部さんの百合を眺めるべし!!」」


 二人してそう宣言する。二人の目線の先には二人の女子が。


「派手なメイクをしないでください! 何度言ったら分かるんですか!」

「はいはい分かったよ」

「それもう三回聞きましたよっ」


 風紀委員の委員長をしている斎賀さんが毎日メイクをしてくる浦部さんを叱る。


「他にももっと真剣に授業を受けてください!」

「だりぃんだよ」

「何のために学校に通ってるんですかっ」

「さぁな〜」

「学生の本分は勉強です。勉強をしてください」


 浦部さんは気だるそうに窓の外を眺める。全く人の話をいく気がない様子だ。


「とりあえずそのメイクを落としてきてください!」

「えぇ〜?」

「えぇ、じゃありません!」


 まるで先生のように叱る斎賀さん。

 斎賀さんはぐいぐいと体で浦部さんを壁に追い詰め――。


「早くしてください」

「はぁ」


 その時、浦部さんが動いた。

 斎賀さんの肩を掴んで回転し斎賀さんの手首を掴んで壁ドンをする。「へ?」と間抜けな声をあげる斎賀さんは何が起きたのか理解できていない。


「いっつもいっつもしつけぇな。アタシのこと好きなのか?」

「な、な、な、何をしてっ」

「どうなんだよ」


 浦部さんが斎賀さんを詰問する。


「あ、あれは顎クイっ!?」

「う、浦部さんが斎賀さんに顎クイ……おふっ」


 オタクらは顎クイに興奮している。

 一方オタクのことなど視界に入っていない二人のやりとりは続く。


「で? アタシのこと、好きなのか?」

「そ、そそそそそんなわけないじゃないですかっ!! あ、あなたは何を言っているのですか!」


 顔を真っ赤にして視線を逸らす斎賀さん。だが浦部さんは顎を掴んで目を合わせる。「あわわわわわわわわっ」と慌てる斎賀さん。なんか電マみたいに震えてらっしゃる。

 オタクはオタクで「あわわわわ」と感激に身を震わしている。

 周りのクラスメイトらはさぞ混乱していた。毎朝のように繰り広げられる斎賀さんと浦部さんのやりとり。しかし今日は浦部さんが壁ドンをして詰問をするという反撃に出た。そのせいで斎賀さんと、なぜかオタク二人が震えている。実に不可解!


「は、離してくださいっ」

「嫌だ」


 周りの視線が集中しようともお構いなしに浦部さんは反撃を続ける。

 そして浦部さんはトドメとばかりに斎賀さんの耳元で呟く。


「今日の放課後、アタシん家に来いよ。メイクでもなんでも教えてやる。なんでも、な」

「は、はふぅ」


 浦部さんは斎賀さんから手を離しようやく解放する。へなへなとその場に座り込む斎賀さん。頬は赤らんでいて目の焦点が合っていない。


「「っきゃーーーーーーーーー!!」」

「うっせぞっオタク共!」


 叫ぶオタクに叱咤して教室を去る浦部さん。また一限目をサボるようだが斎賀さんは止めない。というかそれどころではない。斎賀さんの仲の良い友達が「だ、大丈夫?」と駆け寄る。それでも反応しない斎賀さん。耳元で何を言われたのかわからない周囲は本当に何を言われたんだと心配する。


「ヤバイ、ヤバイですぞ!」

「ハスハスっ!」

「これはもう尊っ……」

「「「「オタクらうっせぇわ!!」」」」

「「はい……」」


 クラスメイトらに叱咤されてようやく静かになるオタク二人。しかし鼻息は荒い。

 斎賀さんは一体どうなってしまうのか!


 後日、オタクらは非常に興奮したとだけ言っておこう。

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