第46話 ソリティア

「な、何ですかあなたは!? ここがどこだか分かっているのですか! そもそもいきなりやって来て何を言っているんですか! 決闘一つとっても礼儀やルールがあるのですよ!」

 ジャイン、ブチギレで笑うわ。

 てか衛兵や騎士共は何をやっているんだ?


「――それについては俺が説明するよ」

「あ、貴方はナックルさま」

 奴の後ろから入ってきたのはナックルだった。そうか着崩していたから気付かなかったが、ナックルと並ぶと学園の制服を着ているのが解る。


「彼は留学性のエルドレット・カープて言って、ダイバッドから来たんだ」

「ああ名乗ってなかったな、エルと呼んでくれ」

 わりい、わりいと剣を肩に乗せて謝るエル。


「留学生?」

「ああ、シンカ様は知りませんでしたか。今年度から他国の学生が留学に来ているのです。主に大国バッドから」


 なぜそれを俺に知らせないんだ? ヴィースラの奴め、学園の事は報告しろと言っておいたのに。勝手な判断で報告するかどうかを決めんなよ。


 そうかナックルが一緒だからここまで来れたのか。


「他国の人間であっても礼儀やルールは守るべきでは?」

「だからわりいって言ってるだろ? 白髪のあんちゃんはしつけえな」

 悪そうに言え。


「で、何を賭けて決闘をする気で?」

「シンカ様! 聞く耳を持つことないですよ!!」

「まずは話を聞かないと進まないではないですか……」

 先ず話を聞く、これ大事ね。


「と言うかさぁ……挨拶したいって言うから連れてきたのに、俺の顔に泥を塗ったなお前」

「だから! それを含めてわりいって言ってんだ!」

 ナックルも知らなかったようだ。


 ん? カープ?


「もしかしてダイの全軍総司令官のご子息で?」

「ああそうだ、まあそういう事だからよろしくな」


 ダイは大陸一の軍事国家で、陸軍と海軍がある。それぞれの元帥を束ねる、国王と同格以上の存在がカープだったような。


「俺はいずれダイを支配する。個人の力も軍の武力も総てを手中に収める。だがそれだけじゃ足りねえ、つー訳でこのボールグループを賭けて決闘だ!」

 何言ってんのか一ミリも理解できねえわ。


「エル! 言って良い事と悪い事があるぞ!!」

「衛兵に突き出される前に消えなさい! 今なら優しきシンカ様もお許しになる」


 そうだもっと言ってやれ。

 まあ、この礼儀知らずをあしらうのは容易い。が、俺の中で繋がりかけている。


「ちなみに私が勝ったら?」

「俺を好きに使え、いずれダイを支配する俺を駒に出来たら大陸を支配したも同然だぜ? どうだ、釣り合ってるだろ」

 まあ、そうね。


 実力主義のダイが血筋のみで引き継ぐとは思えないが、ナックルと同等の体格と強者特有のオーラがその未来の証明となっている。

 なんせあの国は王子のスリードを追放する国だからなぁ。


 あり、か? いや、負けるのは分かりきってるけど。


「は、はははははっ!!!!」

「シ、シンカ?」

「シンカ様?」

 突然笑い出した俺をぎょっとした眼で見る二人。


 やばいぞ、脳汁がどっばーと出てるわ。

 点と点が線で繋がった。俺の中でソリティアの様にすべての選択肢が、一本のルートとなってな!


「いいでしょう、貴方にすべてをお譲りしましょう」

「「「はあ!?」」」


 三人の顔が笑える。


「ここで断るのも男が廃りますしねぇ、かと言って戦えば百やって百私が負けますし。ですからボールグループは貴方にお譲りしましょう」


 三人は唖然と俺を見る。


「手続きなどはやっておきましょう。スチルとダイの両国の王にも私から連絡を入れましょう。――では準備があるので、これで」


「し、シンカ様!!」

 ジャインの呼び止める声を無視して、俺は部屋を出た。



「あ、あいつは何を考えてんだ?」

 シンカが去った部屋で、三人が話し合う。


「あ、あなたが言うなです!! ふざけてるのですか!?」

「そうだよエル、いきなりさぁ……」

「いやいや、こうなるって思わなかったもん。正直どんな奴か見て来いって親父に言われたからさ、試そうと思ったんだよ」

 ぼりぼりと後頭部を掻くエル。


「どう俺をかわすか、口の回りを見てやろうと思っただけさ。このまま衛兵に突き出す奴ならどうとでもなるし。どんな事を言って俺をやり込むのかを、なのに拍子抜けだぜ」


「あなたはどうする気で?」

「貰えるもんは貰うぜ、てな訳でよろしくなさんよ」




 俺は一階に下りてきて、全裸のコンサに告げる。

「――てなことになったんですよ」


 しかし彼女は慌てない。

「なにか理由があるのだろ? もう長い付き合いだからな」

 長い付き合い(一年ほど)。


「今日の夜、幹部を集めて私の実家に来なさい。そこで説明します」

「あのスクリュー家の敷地の端にある小屋みたいなやつだよな?」

「はい、母親が居ますから挨拶も含めてお願いしますね」

 そう言うと身体が震えるコンサ。


「それは結婚の、みたいな?」

「したいなら良いですよ、私は貴女と結婚しても」

 もう、ここまで愛してくれるならよくね?


「ふぉー!!! やったぞ!!」

「よくやったコンサ!!」

 何故か居た公爵と抱き合う。


「で、では私はこれで……」

 本当に何でいるんだ?

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