物語の片隅で

思孝亭

助言を与える者

「もーいーかい」


「「もーいーよーー!!」」


 村の端にある丘で三人の子供が遊んでいた。子供たちは有り余る元気を毎日疲れ果てるまで使い眠りにつくのが日課であった。


 そんなある日のこと、村から村へと渡り歩く行商人から教えてもらった新しい遊部で遊んでいた時のことだった。


 いくら時間がたっても見つけてくれない。


 空が暗闇に包まれる頃になってもだれも見つけてくれない。


 少年は、友達たちが必死に探しているのを知らず待ち続けた。次第に村の大人たちも探すのに加わっているのに気づき少年は大人たちのほうに駆け寄った。


 それからである。少年は「かくれんぼ」において無敵になった。はじめは楽しかった。だが、誰も見つけることができないそれは続けば続くほど退屈へと変わっていった。


 それから数年後、いつも隣にいた友達が、『勇者』と『聖女』に選ばれた。10歳の誕生日に神様から与えられる職業だ。村全体でのお祭りの中、1週間後に迫る自分の誕生日が楽しみだった。


 勇者である友も、俺がどんな職業なのか楽しみだと言ってくれた。そんなお祭りの最中だった。村に魔物の大群が襲われたのは…。



「最近、ダリア皇国の城壁に抜け道が見つかったの知ってるか?———」


 夜の冷たい風が吹きつく中、宿の明かりがまだ付いている着いているような時間帯。


 依頼帰りの男のそうな雰囲気を纏う俺はすぐそばを通り過ぎる青年に聞こえるようにそんな話をする。隣を歩く名も知らないさっき出会っただけの男は虚な目でうんうん。と頷くだけ。


 青年はぴたりと足を止めこちらを向くと一言、「その話、詳しく」と話しかけてくる。男は隣を歩く男と別れその男へとその話の詳細をその場で話す。


 それを青年は無言で聞く。


 3代目助言師であるこの俺サデスの仕事がそれであった。

 数十年単位の周期で召喚、又は生まれる勇者という存在。その存在を手助けするため神に選ばれるのが助言師。


 その存在は当代の助言師にしか知らされない。

 この国に限らず、世界中のどの人間、どんな種族のものだろうとその存在を知ることはない。


 数日前にはカジノで女に、そのまた数日前には魔物あふれるダンジョンで透き通るような水色の魔物スライムに変化し、今代の『勇者』であるこの青年に数日おきに助言を与える。


 何度も変化し、変わる顔、声、背、性別、名前、種族。今では本当の姿が思い出せないほどにその変化を使っている。


 サデスという名前は、俺が今でも覚えているたった一つの『俺』という存在の証明である。


「————と、こんなことだがこのなことを聞いて何の役に立つんだ?まさか、ダリア皇国に入り込もうってことはないだろうな?まぁ、そんなことはしないで欲しいのだがな………。」


 このように、心配するような言葉を最後に付け足し俺は後ろにひらひらと手を振りその場を立ち去る。

 勇者がどのような表情をしているのかはわからないが俺は勇者からある程度離れると姿を変え、夜の街を駆ける。


 商会、宿屋、飲食店、騎士団、そして王城にまでも分身、使い魔をふんだんに使い大陸中の情報をかき集める。どんな些細なことでもである。


 一つ間違えれば、勇者死ぬ。それを避けるためにはどんな手も使わなくてはならない。


 時には、勇者自身の成長のために勇者の仲間を死なせるような行動になってもである。


 勇者の仲間は代用が効く、だが、勇者に変えはいない。俺が魔物に襲われ逃げた先の森で助言師になった時から神に与えらる毎朝必ず頭の中に響く言葉だ。


 風にあたりざわざわと音を鳴らす木々たちをみていると少しだけ心が休まる。


 だが、そんな心休まる時間がそう長く続くわけもない。月明かりが差し込むのと同時に使い魔達からの伝達内容が届けられる。


「——ッ!! 魔王軍の接近と、奴隷の反乱、マナグアス王国の国王暗殺、No.66エルフの里の焼失、アキナ先生の『ルサイド伯爵の事件簿』第9巻の発売!?  くそ!!大事なことが多すぎる!」


 使い魔である黒猫をひと撫ですると黒猫はゴロゴロと鳴き嬉しそうに任務に戻る。

 同じくカラスにも高級な餌を与えその勢力、使い魔達の数の増殖に努めてもらう。


 どんな記録にも、誰の記憶にも残ることのない彼等助言師は、人としての人生を捨て去り、人並みの幸せを捨て勇者を救う。


 そんな彼等の苦痛、苦労を知ることは一生ありえないのだろう。

 そんな彼はまた姿を変え冒険者ギルドへ入り一通の手紙を受付嬢へと手渡す。


「勇者ロイと聖女ルカが魔王討伐を終えたらこの手紙を…。」


 それは彼なりの友への。勇者ロイ、聖女ルカではなく、ただのロイとルカへの祝いと労い、そしてあの日からいえていなかった別れの言葉を書き記したものだった。


 全ては勇者のため。

 そんな思いと、聖女になったかつての友を、勇者となったかつての友を助けたいというただの友達としての思いを抱えながら、名前以外の全てが嘘になってしまった彼はギルドを出ると、その姿をまた変化させ町明かりの届かない路地裏で夜の闇へとその姿を消した。




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