アホ毛は尊し

ユラカモマ

アホ毛は尊し

 南條北高校2年2組中谷真幌なかたにまほろはいつも頭に2本のアホ毛を生やしている。今日はこれから彼女の1日を紹介していきたいと思う。


AM8:40

 彼女はいつもきっかり始業10分前に教室に入ってくる。今日はアホ毛がぴょこぴょこ跳ねているのでご機嫌なようだ。今日は彼女の好きな体育はないので恐らくお弁当のおかずが好物だとかそういう理由だろう。彼女の好物はお母さんの唐揚げでこれまでお弁当に入っていた日はもれなく朝からアホ毛をぴょこぴょこさせていた。


AM9:45

 2限目が始まった。右斜め前の彼女のアホ毛はへタッとなってエアコンの風にそよいでいる。彼女の苦手な英語表現の時間のため早々に眠たいらしい。昨日は何時に寝たのだろうか。どんな風な顔をして寝るのだろうか。仰向き、横向きどんな態勢で寝るのだろうか。

「高橋、ここに入る助動詞は?」

「wasです」

 視線は右斜め前に固定で考える。文法と違って答え合わせはできないがどれだけ考えても興味の尽きない問題だ。


PM12:40

 4限目が終わり昼休みが始まった。彼女の弁当箱にはやはりお母さんの唐揚げが入っている。大きいのが3つ、アホ毛を朝よりぴょこぴょこさせながらもぐもぐ頬張っている。頬がほんのり染まって元々童顔な顔がさらに幼く見えた。

「人の顔ばっかり見てないで食べなさいよ。卵焼き貰っちゃうよ?」

「そんなこと言って端から狙ってるだろ。ほら」

 ひょいと箸で自分の弁当から真幌の弁当箱のふたに卵焼きを移してやるとアホ毛のぴょこぴょこがさらに大きくなる。うちの卵焼きは真幌の好物の一つだ。アホ毛は昼休み中ぴょこぴょこぴょこぴょこひっきりなしに動き続けていた。


PM16:00

7限目、本日最後の授業は化学である。化学室に移動して3つ後ろの席から彼女のアホ毛を観察する。自教室より遠く間に人が入るため見にくいが正面になるのでよそ見をするなと教師に怒られないという利点はある。姿勢を正して彼女のアホ毛をうかがうと彼女のアホ毛はピンと天井に向かって背筋(?)を伸ばしている。なお彼女自身も背筋を伸ばし黒板にしっかり向き合っている。彼女は化学が好きで例えしんどい7限目であろうと寝ることはない。昼休みとは異なる意味で生き生きとしているアホ毛を見ているとついつい引っ張ってみたい気持ちになった。


PM16:40

 1日の授業が終わってようやく放課後である。ほわほわと揺れるアホ毛を横目で見ながら自転車を押して家まで歩く。彼女はアホ毛がこれだけ表情豊かなことを知らない。こうして隣を歩くとき2つのアホ毛が中央に丸くしなってハート型になっていることも。

「陽ちゃんまたニヤニヤしてる。気持ち悪いよ」

「あー、それはあれだよ、真幌を見てるとかわいいなって思ってさぁ」

「またそういう恥ずかしいことを」

「本心だって」

 口では嫌がっているが頭のハートが風もないのにそわそわ揺れる。こんな駄々漏れのかわいい彼女は中谷真幌、彼女のアホ毛観察を行う自分、高橋陽介の彼女である。





 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アホ毛は尊し ユラカモマ @yura8812

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ